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五月三十一日

<日記>

 五月三十一日(金)


 今日も学校がありました。わたしはいつも通り教室の後ろで大人しくしていたのですが、放課後に突発的なイベントが起こりました。

 イベントというのは皆月くんとお話ししたことです。なんだそんなことか、なんて声がどこからか聞こえてきそうですが、わたしにとっては体育祭並みの大イベントです。


 大袈裟なのはむしろ、〝お話しした〟の方かもしれません。わたしはやっぱり緊張してしまって、心臓がばくばくいっているのも恥ずかしくて、うまく返事もできずに俯いてばかりいました。たまにそっと皆月くんの顔を盗み見るのですが、そうすると必ず視線がぶつかって、叫びそうになるくらいびっくりして、わたしはまた顔を伏せるしかなくなってしまいます。優しい表情をしているので意地悪のつもりはないのだと思いますが、あんなにじっと見つめられたら誰だって恥ずかしいに決まっています。わたしに勇気があったら文句を言っているところです。


 皆月くんは記憶の魔女探しに苦戦しているそうです。いるかも分からない人を探してもらうのは申し訳ないですが、わたしと皆月くんの繋がりが記憶の魔女だけということを考えると、ずっと見つからないままでいてほしいとも思ってしまいます。もちろん、思うだけです。記憶の魔女は見つかってもらわないと困ります。


 わたしの方でも記憶の魔女を探しつづけていますが、やっぱり何の手掛かりも掴めていません。パソコンで調べても、図書館で本を漁っても、情報らしい情報は出てきません。もう、どうやって探したらいいのかも分からなくなってきました。今度、異能科の職員さんにもう一度訊いてみようと思っています。


 皆月くんの話に戻りますが、別れ際に「じゃあな」と言われて、わたしはありったけの勇気を振り絞って、「バイバイ」と返事をしました。わたしにしてはすごい快挙です。廊下に出た後で小さなガッツポーズを作ってしまいました。でも、声が小さかったので皆月くんには聞こえていなかったかもしれません。聞こえていたらいいのですが。


 返事ができたのはサモエドの皆月くんを相手に練習をした成果だと思います。帰ってからきちんとお礼を言いました。頭を撫でていたら、ふと皆月くんの代わりだったことを思い出して、慌てて手を引っ込めました。さすがに皆月くんの頭を撫でる練習はできません。


 本当は、皆月くんともっとお話がしたかったです。この間は美味しいオムライスを食べさせてくれてありがとう、とか、いつも上手に話せなくてごめんね、とか、体育祭のリレー頑張ってね、とか、伝えたいことがたくさんありました。


 でも、それを言えるようになったら、きっと彼女さんについても訊いてしまうのだと思います。

 その話をしたらこの恋はお終いだと分かっているのに……。


 だから、今はまだ、このままでいいのかもしれません。


 もう少しだけ、皆月くんを好きなままでいさせてください。

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