卒業式(隠語)
本日は2話更新です。
※注意
(軽いものですが)性的描写が苦手な方は、この話は一気に下までスクロールしてください。
優真と智菜がしたことと、最後の会話だけ把握しておけば問題ありません。
逆に、試しにここから読んでみようと思った方は、智菜のことが分かる『女子の喧嘩はおっかない』、『プチデート』、『元バレー部による暇潰し』を先に読むことをお勧めします。
セックスとは会話である。
独り善がりに一方的に喋っても相手は気持ちよくないし、相手の話だけ聞くようにしていても互いに辟易してしまう。好きな話題や盛り上がれるツボが人によって異なるように、万人共通の正解なんてものは存在しない。大事なのは相手を尊重し、相手を知ろうとし、相手にも自分を分かってもらおうとすること。
俺は師匠からそのように教わった。
他にも、会話の途中で面白いか訊くバカがいないように「気持ちいい?」なんて口にしちゃいけないとか、アイスブレイクと同じで前戯は欠かせないだとか、自分から表情や言葉で積極的に気持ちを伝え、相手の気持ちは反応を見て察するべきだとか、数々の金言を授けられている。やはり師匠は偉大だ。いっそ本を出すべきではないかと思う。
師匠の言葉にしみじみと想いを馳せているうちに月曜日はやって来た。
結論から言おう。俺は智菜とした。しました。晴れて童貞卒業を果たしたのである。
放課後、いつも通り別行動を取って隣駅の前で待ち合わせをした。この時点で智菜のテンションは高かった。やたらと身体を寄せ、手を繋ぎたがってくる。あ、これはやっぱりするってことですね、と察し、俺も覚悟を決めた。
智菜の家は平たい屋根を乗せた一戸建てだった。側面には上に二つ、その間の下方に一つの窓があってなんだか顔みたいに見えた。
可愛い顔の家だ、と冗談めかして言ってみると、智菜は自分が褒められたように、ありがと、と微笑んだ。智菜じゃなくて家だぞ、と念を押すと抓られてしまった。
事前に申告があった通り、智菜の家には誰もいなかった。両親が帰ってくるのは夜の七時過ぎだという。制限時間はざっと二時間。長すぎず、短すぎず、事に及ぶには理想的な時間だった。
ベッドに並んで座り、少しだけ身のない話をして、頃合いを見て手を握った。智菜が頷いたのを確かめてキスをする。触れ合わせるだけの口づけから始まり、息継ぎを挟んでからディープキスへ。智菜は躊躇うことなく応えてくれた。舌の柔らかな感触を楽しみ、歯の裏側や歯茎をなぞる。顔に掛かる鼻息がくすぐったかった。
手は自然と智菜の制服へと伸び、ブレザーの前を開け、ブラウスのボタンを外していた。花柄のレースをあしらった白のブラジャーが露わになり、背中に手を回してホックを外すと形のいい大きな乳房がまろび出る。張りがあり、己を主張するように上向いた見事な双丘。下から支えるようにして触るとずっしりとした重さとふにふにとした柔らかさを感じた。いつまでも揉んでいたくなるような魅惑的な触り心地だった。
続いてスカートに手を掛ける。と、智菜は慌てたように俺の手首を押さえた。唇を離して目顔で問うと、彼女は拗ねたような顔をした。
「裸になるのは恥ずかしいからやだ」
それは困った。制服エッチなるものに興味はあるが、俺は智菜の裸が見たかった。
そのことを正直に伝え、折衷案を探すことにした。どうやら智菜は全裸というか、完全に一糸纏わずの姿が堪えられないらしく、ブラウスかスカートか、何か一つだけでも残してほしいらしい。
「じゃあ、ソックスだけ残すのは?」
駄目元で訊いてみたところ、なんとOKが出てしまった。絶対そっちの方が恥ずかしいだろ、と思ったが、俺としては役得なのでもちろん言わなかった。
紺のソックスだけを残して裸になった智菜の身体は、とてもエロくて、美しかった。無駄毛もなくすべすべで、どこを見渡しても染みも出来物も見当たらない。乳房、腰、お尻に太腿、あらゆる曲線が、均整が取れていて艶めかしい。きれいなんて言葉では足りない。感動的な美しさだった。
でも、美しい、なんて気障な台詞は恥ずかしくて口にできないから、「きれいだ」と伝えた。本当は美しいと思っていると伝わるように、溜め息を混ぜて。
このときにはもう、俺の下腹部は痛いほど張り詰めていた。
心臓がどくどくと早鐘を打っている。でも、獣のような興奮とは違う。不思議と緊張もしていない。純粋に、智菜と一つになれるという事実が嬉しくて心が震えていたのだ。
穏やかな心を持ちながら激しい昂りを感じる。これはそう、超皆月優真だ。俺は超皆月優真になっていた。
いそいそと服を脱ぎ捨て、全裸になる。すると智菜に笑われた。どこかおかしいのかと不安になったが、すぐに杞憂だと分かった。
「ねえちょっと、おっきいんだけど」
お気に召したようで何よりです。
それから、キスの雨を降らせながらじっくりと愛撫した。無意識に女性用AVの真似をしていたように思う。智菜の汗ばんだ身体からは金木犀のようないい匂いがした。そこに化粧の甘ったるい香りと潮臭さが混ざり、くらくらして、余計に元気になった。やはり人間は海から生まれたんだな、とバカなことを考えた。
そして、きちんとゴムを付けて、中へと入っていった。
温かく包み込まれる感触に動きたくなる衝動を抑え、十分くらいキスをした。その隙に空いている手で智菜の正解を探る。智菜は耳を触ると顔を綻ばせ、頭を撫でるとうっとりと目を閉じ、お腹をさすると甘えるような声を出した。心臓が止まるかと思うほど可愛かった。
「お願い……」
そのひと言を合図に腰を動かした。
感じ入るような表情に、シーツを握り締める手に、リズミカルに揺れる乳房に、高く甘い声音に、そこから段々と低くなる喘ぎ声に、それらすべてに興奮した。俺の怒張は終始元気を保ったままで、智菜が二回果てるまで頑張ってくれた。
初めてのセックスは、なんというか、感動的なものだった。気持ちいいとかそういう話ではなくて、好きな人と繋がることに幸せを感じた。なるほど、これはたしかに会話だ。言葉では足りない想いを伝えられたという充足感がある。
この行為を通して、心の底から智菜と結婚したいと思った。俺の目標なんてどうでもよくて、一生この人を大切にして、この人の隣で同じ時間を過ごしたいと、そんな風に思ったのだ。
終わった後もしばらくは抜かずに抱き合っていた。俺がそうしていたかったというのもあるし、疲れて動けなかったというのもある。二人とも汗だくだった。
必死に照れを隠しながら素直な感想を伝える。
「智菜、よかったよ。めちゃくちゃよかった」
「嬉しい」
智菜は恥ずかしそうに笑い、慌てて付け加えた。
「あたしも、気持ちよかった」
初めてでそのお言葉をいただけたなら胸を張ってもいいのかもしれない。
呼吸が落ち着くのを待ち、どちらからともなく服を着た。おかしなことに、さっきまで眺めていた身体が隠されてからようやく、ああ、俺は智菜としたんだなという実感が湧いた。
「もう、やめてよ優真っ。それ、持って帰ってどうする気? 変態じゃん」
智菜に笑いながら指摘された。何のことかと思って自分の手元を見ると、いつの間にかビニール袋を握っていた。中には口を縛ってティッシュで包んだゴムが入っている。
「違うって。帰りにコンビニで捨てるんだよ」
言ってから、そうか、俺はコンビニで捨てるつもりだったのか、と思った。完全に無意識の行動だった。
直後、智菜の表情の温度が下がった。目が細くなり、口の端が歪む。訝しんでいるのではない。これは不機嫌なときの顔だ。
「あたしさ、優真が初めてって言うから、うまくできなかったときに備えて励ます練習までしてたんだよね。そんなの最初から信じてなかったけど、もしかしたら本当かもって。優真の初めての人になれたら嬉しいって思ってたし」
「本当に初めてだって」
「噓じゃん。初めてのエッチでこんなに上手いことある?」
「え? 俺、そんなに上手かったの?」
びっくりして声が大きくなってしまった。実は、智菜のあれは演技やリップサービスも含んでいるぞと自分に釘を刺していた。まさか怒られるほどとは。もしかして、俺ってセックスの天才……?
こちらの反応に考えが揺らいだのか、智菜の表情に困惑が混じる。
「なら、ゴムを持って帰るっていうのは何? あたしが処理に困らないようにっていう気遣いでしょ? そんなこと童貞が考えるわけないじゃん」
「ししょ――あ、いや、人に教わったんだよ」
「シホぉ? 誰それ! 元カノの名前?」
「違う違う。姉ちゃんだよ」
「えっ、お姉ちゃんとエッチしたの?」
「するか! するわけないだろ!」
『筆下ろしの真紀』の異名を持つ姉ちゃんでも弟の筆下ろしまではしない。
「俺は姉ちゃんと仲がよくて、昔から恋愛論みたいなものを叩き込まれてるんだよ。お陰で初めて見たAVは女性用のだし、射精のタイミングも自在に操れるようになった」
「なにそれ。ウケるんだけど」
智菜の顔から力が抜ける。不機嫌モードは解除されたようだ。
「じゃあ、優真が初めてだったっていうのはほんとなの?」
「本当だよ。なんで疑うんだよ?」
「……だって、あたしあんな風になったの初めてだったから。ずっと感じにくいのかもって思ってたのに、途中から自分でも聞いたことないくらい汚い声が出ちゃって、死ぬほど恥ずかしかったし」
智菜が口元を覆って目を逸らす。いじらしい智菜も可愛い。
しかしまあ、そこまで言われるとさすがに照れてしまう。すごいのは俺ではなく師匠の教育とは分かっているが、喜ぶくらいは許されるだろう。
「それは、どうも、ありがとうございます」
「あ、今のは童貞っぽいかも」
「もう違うんだが?」
「うんうん。あたしで卒業したんだもんねえ」
はしゃいだ智菜が抱き着いてきてベッドに押し倒された。もう一回戦を期待して勝手に下腹部が膨らんでくる。鎮まれ。もうそんな時間はない。
智菜の機嫌はころころ変わる。ならば今のうちにと俺は切り出した。
「智菜って来週誕生日だよな?」
「そう。六月三日」
「プレゼントにネックレスを贈ってもいいか?」
「ええ? 普通、そういうのサプライズにしない? 先に言われたら驚けないじゃん」
「別に驚かなくていいよ。気持ちが伝わればそれでいいと思ってるし、使ってくれるものを贈りたいってだけだから」
「知ってる? ネックレス贈る人って独占欲が強いんだって。首輪を着けたがるのと一緒」
「それは、えっと……嫌ってことか?」
「嬉しいってこと。あたしは優真のものだよ」
答えと同時にキスをされた。触れるだけの、無邪気なキスだった。
「あたし、今日のこと一生忘れない。約束する」
俺も、と返事をしようとしたら、その前に口を塞がれた。
だから、心の中だけで約束した。
コンビニに家庭ゴミを持ち込むことは禁止されています。やめましょう。




