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第5話 男装令嬢、残念貴公子に仕える

 モルグが……お母さんの故郷が、山火事でなくなった?


 フランクの言葉に、テレサはその場でしゃがみ込んでしまう。

 そんなこと、全く知らなかった。


 お母さんの故郷はもう、なくなってしまったの?

 お母さんが愛した村を、花畑を、私も見てみたかったのに。


 モルグで火事が起きたという話は聞いたことがない。もしかして、意図的にバウマン家では話題に上がらないようにされていたのだろうか。


 でも、何のために?

 メリナや彼女の母親なら、嬉々としてお母さんにその話をしてきそうだわ。


 頭の中に、父親の顔が浮かんだ。父が母を気遣ってくれたのかもしれない。


 そう思うと腹が立つ。母のことをちゃんと守ってくれなかったくせに、中途半端なことをするなんて。


「おい、顔色が悪いぞ」

「……死んだ母の故郷だったんです。僕は一度でいいから、モルグの花畑が見たかった」


 花になんてたいした興味はない。

 でも、母が愛していた花畑なら別だ。


 お母さんは、元気になったら一緒に故郷の花畑を見にいきたいと言っていたわ。

 だから、私は一人で花畑を見にいかなかったのに。

 まさか、花畑自体がなくなってしまうなんて。


「俺なら、花畑を復活させられるぞ」

「えっ!?」

「ほら、見てみろ」


 フランクは近くに生えていた枯れた花を地面から抜き、手のひらにのせた。

 すると、彼の手から桃色の光が放たれる。光が消えると、枯れていたはずの花が美しく咲いていた。


「これが俺の異能だ。枯れた花を再び咲かせることができる」

「枯れた花を……」

「ああ。花畑全てとなると時間がかかるが、できないわけじゃない。

 だが、あの土地は今、国の所有地だ。陛下の許可なしにそんなことはできない」

「……そんな」


 どうせできないなら、期待させるようなことはしないでほしい。


 そう思ってテレサが軽くフランクを睨みつけると、まあ待て、とフランクがテレサの肩を掴んだ。


「土地は名誉ある貴族に送られる……ということになっているが、ここ最近、金で土地を買う貴族も増えている。つまり、俺も金さえあれば、あの土地がもらえるかもしれないってことだ」


 フランクは悪戯っぽい笑みを浮かべると、テレサの顔をじっと見つめた。


「俺の用心棒になって、俺が金持ちになる手助けをしてくれ。

 俺が金持ちになったら、あの土地を買い取って、花畑を復活させてやろう」


 いったい、どれほどの金が必要になるのだろう。テレサには想像もつかない。

 でも、他に花畑を見る方法はない気がする。


 どうせ、私にはやることも、行くところもないわ。


 母の故郷でしばらく暮らそうと思っていたのだ。行く当てがなくなったテレサにとって、フランクの提案は悪くない。


「……分かりました。用心棒として、貴方にお仕えします」

「よし、決まりだな。俺も金持ちになるために、なにかしなければと思っていたところだ」

「お金持ちになって、なにがしたいんです?」


 テレサの質問に、フランクは満面の笑みで応じた。


「美味い飯を食って、美女に囲まれて遊んで暮らす」


 清々しいほど欲望丸出しの答えである。


「ところでお前、名前はなんと言う?」

「テレンスと申します」

「そうか、テレンスか。悪くない名前だな」


 てきとうなことを言いながら、フランクは何度もテレサの背中を叩いた。

 どうやら、かなり図々しい人柄のようだ。


「これから、よろしくお願いします」


 テレサは頭を下げようとしたが、フランクが右手でそれを制した。

 そしてそのまま、テレサの手をぎゅっと握る。


「よろしくな、テレンス!」


 フランクの笑顔は、目を背けそうになるほど眩しかった。

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