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脳筋男装令嬢、一国の英雄になる!~偽りの聖女を倒し、愛も名誉も金も、全て拳で手に入れます!~  作者: 八星 こはく


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第18話 女の子なのに!

 建物の陰から、そっと妓楼の様子を窺う。最近できたというわりに、調査対象の妓楼がある建物は古い。

 店構えからして、それほど立派な店ではないのだろう。


「確か、人気の娘が客引きをするんですよね?」

「ああ。そう言っていた」

「よほど美しい娘なんでしょうか。でも、それにしたって、客引きでたくさんの客を店に呼び込む、というのは妙な話ですよね」


 高級店ならともかく、通常の店であれば、妓女が店前で客引きをするのは珍しくない。

 しかし、一日に呼び込める客は限られているはずだ。呼び込みだけでなく、接客もしなければならないのだから。


 とにかく、一度様子を見てみなければ分からない。


 そろそろ、店から出てきてくれるといいんだけど。


 そんなテレサの願いが通じたのか、店内から一人の少女が出てきた。丈が短く、肩や胸元が大きく空いた白いドレスを着ている。


「……あの子が、客引きの娘でしょうか?」

「違う娘じゃないのか?」


 フランクがそう思うのも無理はない。なぜなら、少女が極めて平凡な容姿をしているからだ。

 亜麻色の髪に、栗色の瞳。醜くはないが、美しくもない。

 それに身体つきも貧相で、とても妓楼で人気が出るようには見えない。


 少女は俯きがちに周囲を見回し、通りかかる男性に声をかけ始めた。しかし、なかなか足を止めてくれる人はいない。


 このあたりには妓楼が複数あるのだ。美しいとも言えない娘に目を向けるような客はなかなかいないのだろう。


「……あのっ!」


 意を決したように、少女は大きな声で一人の通行人を呼び止めた。それだけでなく、そっと男の腕を掴む。


「わ、私と、楽しい時間を過ごしませんか?」


 甘えるような言葉もぎこちなく、笑顔も引きつっている。


 これじゃ、絶対に無理だわ。


 呆気なく手を振りほどかれ、男は立ち去るはず。

 しかし、そんなテレサの予想は裏切られた。


「もちろん!」


 男が、勢いよくそう言ったのだ。


「で、では、中でお待ちくださいませ」

「分かったよ。待ってるから、すぐにきてくれ。君以外の子と遊ぶつもりはないからね」


 念を押すように言いながら、男が店の中に消えていく。そして少女は、再び通行人に対する声かけを始めた。


「……なんだったんだ、今のは?」

「分かりません。あの通行人も、声をかけられてすぐの時は、迷惑そうな顔をしていたように見えたんですが」

「俺にもそう見えた」


 それなのに、男は急に少女のことを気に入り、入店したのだ。


「なにか妙だな」

「はい」


 少女の呼び込みは、相変わらずほとんどが無視されてしまう。しかし、先程の客と同じように、機嫌よく店内へ入っていく者もいた。

 そしてその数が、どんどん増えていく。


 彼女目当ての客をこんなに呼び込んでどうするのかしら?

 閨を共にするわけじゃなく、みんなで食事や会話を楽しむの? それにしたって、団体客じゃないんだから、不満が出そうだけど……。


 しばらくすると、少女は店の中へ戻っていった。当然、外からは店内の様子なんて分からない。


「テレンス」

「はい」

「気づいたか?」


 いえ、と首を横に振る。するとフランクは得意げな表情になり、右手の人差し指を立てた。


「店内に入っていった客には、共通点が一つある」

「共通点、ですか?」

「ああ。それは、あの娘に触られていたことだ」


 確かにフランクの言う通りだ。声をかけられただけで店に入った客はいないし、反対に、触られたのに店に入らなかった客もいない。


「なにか秘密がありそうだな」

「……どうします? 店、入ってみますか?」

「それは危険な気もする。彼女に触れられることで、なにかしらの力が発動するのだとすれば、俺たちだって金を巻き上げられるかもしれない」


 フランクの言葉にはっとした。

 彼は、少女がなんらかの異能を使ったと考えているのだ。


 相手の精神に影響を与える異能もある。そして、異能の効果は永久に持続するわけじゃない。

 効果がきれた翌日に、客たちが文句を言いにくることにも納得できる。


「客として彼女に接触するのは危険が大きい。そこでだ、テレンス」


 フランクはがしっとテレサの両肩を掴んだ。


「女装して、この店で働いてみてくれないか?」

「……は?」

「内部から探った方が、情報が掴める気がするんだ」

「それは、そうかもしれませんけど……」


 女装もなにも、私は女なのよ?

 それに、こんな場所で働くなんて……!


「心配するな。俺もお前を指名して店に行って、危ないことがないようにする。それに、お前なら危ないことにはならないだろう」


 そりゃあ、なにかされそうになっても、殴れば簡単に逃げられるわ。

 でも私だって女の子なのに!


「頼む、テレンス」

「……分かりましたよ」


 溜息交じりにテレサがそう返事をすると、フランクは満面の笑みを浮かべた。

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