2話 契約
「……え、あ」
まじすか。と、お世辞にも100点とは言えない回答をする私。
かなり返しにくい答えだったのにも関わらず、ののかさんは「まじだよまじ」と真剣な目でそういうと、私の目を覗き込んできた。
「あんた、名前は?」
「……は、花です」
私が名前を名乗ると、「いい名前だな」とお決まりのセリフを言われる。
「じゃ、説明始めるぞ。」
ののかさんはそう言って私のことを指差した。
「まず、お前は不死身だ。」
「待て待て待て」
思わずののかさんの説明に入り込んでしまう。はっとして謝ったが、声が小さすぎて届いてないようだった。
「待てっつったって、あんた腹刺されたのに立ってるし、傷口も塞がったじゃん。」
当たり前のことのようにそういうののかさん。
声を荒げて否定したいところだが、自身がそれを体験してしまった以上、完全に否定することはできない。
「……異論ないなら進めるぞ?」
そう言うののかさんに、私は諦めて頷いた。
異論がないわけじゃないが、否定ができるわけでもない。潔く正座をすると、ののかさんの説明に耳を傾けた。
「今、この世界は開国を争って戦争している最中なんだ。私は、開国賛成派の市民軍に所属してる。
まあまあ偉い役職着いてるからさ、さっきみたいに政府軍……開国否定派の敵から追っかけられちゃうわけ。」
困っちゃうよなぁ、と少々自惚れたように呟くののかさん。彼女もそれを自覚してるのか、「冗談だよ冗談」と茶化すと、私と同じ目線になるように膝立ちした。
「で、今の戦争の状況としては、どちらとも決め手がなくて拮抗してるって感じ。だから、お互いに何かを壊す一手を欲してるところ。」
ののかさんの目が強く輝く。
「あんた、不死身だろ?私は超能力使えるけど、銃打ち込まれたら死ぬ。
だからさ、あんた私と一緒に来なよ。
私は、拮抗状態を壊すために、これから政府軍基地……いわばアジトみたいなところに乗り込む。
私だって自ら望んで死にたいわけじゃないんだ。
だから……お願い。私のかわりに、死んで?」
ののかさんが、そんな重いことを無邪気な瞳で頼み込む。
言葉の形式としてはお願いだったが、思いっきり手を掴まれていることから、私に拒否権なんてないのだろう。
「…あ、よろしくお願いします。」
私はそう言って、首だけを曲げる礼をした。
「よし、じゃあ早速行くぞ!!」
え、ちょっと待ってください!と言う私を遮ってつかまっとけよ、とののかさんが言う。
その途端、全身に強い圧を感じた。思わず目を瞑り、そして開けると、そこはもう立派な建物の前だった。