エピローグ 無限 〜いつまでもとわに〜
きーん、と音を立て飛び去っていく飛行機。
陽炎の揺らめく飛行場を空港からカルマは見つめていた。
左腕に包帯を巻き、首から吊っている。カルマは西洋魔術協会に戻るつもりでいた。神が消えた物化町の天魔波旬たちは次々に溶けて消え、壊滅した町の後始末は社が担当していた。
表向きは廃工場から有毒ガスが発生して町への立ち入りが禁止になったとされている。建物は壊れ、あたり一面に肉片が落ちており、現場は凄まじい腐敗臭を放っていた。
無惨な姿を晒す建造物群の中でも、とりわけ仏舎利塔は地上部分が完全に崩壊していた。生き埋めになったカルマが助け出されたのは奇跡としか言いようがない。
カルマは今まで得た情報をまとめ、協会に提出しなければならなかった。神を間近で見た、協会唯一の人間でもあった。だが謎はまだ残っている。
「あいつら、どうなったかな……」
ミカドとユリは遺体すら見つからなかった。社が懸命に捜索を続けているが、どこか別の空間に飛ばされたと考えるのが妥当という結論に落ち着きつつある。
斉天大聖の結界で虚数空間に取り込まれ、運良く戻ってこれたのがカルマだとされた。しかしカルマは、あのまま死ぬ二人ではないとも思っていた。
きっと、どこか遠くに行ったんだ。
それがどこかカルマは知らない。彼女らと二度と会うことはないだろう。しかし、きっとどこかで戦い続けている。理由はわからないがその確信はあった。
自分の出る便が近づいている。カルマは窓のある場所から乗り降りするデッキへと歩いていった。
(俺は俺で、自分の戦いをやる。まだ世界に潜む天魔波旬たちは消えてない)
左腕を失いながらも、カルマの目に闘志が燃え続けているのだった。
・
傾いた太陽が溶岩石の地表を赤く照らす。
一面の更地を二人は歩いていた。
ミカドの手には天叢雲剣が、ユリの手にはもう一本の剣が握られている。長き時を経て、生まれ変わったミカドは自身の肉体に天叢雲剣を宿していたのだ。
どこかに生き残っている人間がいるかも知れない。二人はそれを探している。
不意に地響きがして、二人は立ち止まる。
巨大な天魔波旬が地平線の向こうから現れた。黒い正方形に、溶けた人間の手足が無数についている地獄の光景のようなものだ。指しわたり三百メートルはあるだろう。しかし二人は全く怯まなかった。
「地球が滅び、悪しきものどもが再び這い出てきたか……。ユリ、行けるか?」
「もちろん! あたし、ミカドと一緒に戦えてむしろ嬉しいの!」
ユリは傍らのカルマに、にかっと笑う。
「二人だったら滅茶苦茶な世界でも、滅茶苦茶幸せ!」
「……そうだな」
ミカドは微笑する。
二人の巫女は跳躍し、巨大な敵に果敢に立ち向かっていった。
〜完〜




