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巫女×シス ~天魔波旬奇譚~  作者: 樫井素数
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第二十六話 真実 〜うまれたわけ〜

 斉天大聖の背後から銃撃。

 気を張っていなかった斉天大聖は、銃弾を背中にもろに受け、どっと膝をつく。

 視界の外から飛んできて、鞘に収まった天叢雲剣をすれ違いざまにひったくる者がいた。

 流カルマ。今まで息を潜めていた彼女が、今になって飛び出してきたのだ。

「二十日鼠が……」

 斉天大聖は吐き捨てる。しかし神への申告を終えた今、天叢雲剣はもはや不要だ。

 カルマはそのまま鳳凰の像と化したミカドを盗ろうとする。だが、そこまで許す斉天大聖ではない。


 空中から『圧』が襲いかかり、カルマは瞬時に危険を察知してその場から離れる。

 こぉん、と空洞の金属を叩く音がした。それと同時に、カルマの立っていた道路にくり抜かれたような穴ができる。まるで空間を削り取られたようだ。


 斉天大聖の周りに、四つの死神のような影が舞い踊る。

 泥眼。般若。顰。猩々。それぞれ異なった能面を持った、黒い布に包まれた天魔波旬がカルマを見下ろしていた。空間を削ったのは、彼らの力に違いない。

「まるで四天王だな……Shit」

 カルマは舌打ちして、天叢雲剣を持ったまま退散した。

 それを追おうとする四つの仮面を、斉天大聖は手で制する。

「どうせ向こうからまたやって来るのよ。それに、私も気を使い果たしている。ここで深追いするのは得策じゃない」

 つうと、斉天大聖の口から血が滴った。受けた傷は、深い。


 ・


「大丈夫かよ、ユリ」

 ミカド……? と思って目を開いたユリの前に人影がいる。焦点が合うと、それがカルマだとわかった。

「カルマ……?」

「奴らはきっとお前を狙ってくる。俺もできる限りの援護はした。だが手負いのお前を放ってはおけない」

 それから、カルマはがっとユリの肩を掴んだ。


「ユリ、隕石を降らせろ」

「えっ?」

「町はほぼ壊滅状態だ。ここまで酷いことになったら、やるしかねぇんだ。前俺たちに怒ったときみたいによ。隕石で町ごと斉天大聖を潰す」

「あ……」

 ユリはあの時、無意識に力を発現させていた。

 だが今は、そんなことはできない。それだけの力は、今はない。


「あれは……自分でも何だったのか……」

「そんなわけあるか。お前は天叢雲剣を持って、その力で……」

 まさか、とカルマは顔色を変える。

「もしかして、ユリが『神の器』の一部を受け継いで、それがあんな形で現れた……? 確かにユリの感情が剣と呼応した、それは剣に『神の器』の力が一部乗ったからか?」

「ちょっと、どういうことよ? 『神の器』はミカドでしょ?」

「あいつと……ミカドと、斉天大聖の話を少し聞いちまった。あいつとお前は……」

 そこまで言いかけて、カルマは躊躇った。

「いや、お前が考えることじゃない。少し待っててくれ。策を考える」

 ユリはなんだかわからないまま、力なくあたりを見る。


 ユリのいる近くにブティックがあって、ショーウィンドウのガラスが地面に飛び散っている。天魔波旬の暴走により、店は半壊していた。

 ユリがよろよろとそれに近づき、割れた姿見で自分の格好を見る。


 ぼろぼろになった巫女服。右まぶたが切り裂かれ、眼球が一部露出している。顔には鉄の破片が刺さった痕が生々しく残っていた。

「あたし、とことん滅茶苦茶になった……」

 見るも無惨な姿になったユリは、そう思った。

 とことん幸せになれる、そう思っていた時期もあった。ミカドなら、自分を幸せにしてくれると思っていた。

「そうだ、ミカド……ミカドはどうしたの?」

 そうカルマに言っても、彼女は目をそらし、口をつむぐのみだ。


 負けたのね。

 ユリは悟る。

 

 四人でいたときは短くても楽しかった。その楽しかった時間は、全て壊れてしまった。

 ユリはどうするべきかわからない。

 わからないまま、黄昏の空を見つめるしかなかった。


   ・


 神輿に腰掛けながら鳳凰の像となったミカドを抱え、斉天大聖は眉をしかめる。

 上空に神は静止したまま、動かない。神は顕現した『神の器』に吸い込まれるはずだが、これでは不十分ということか。

「……まだ、何か足りないようね。『神の器』はこれで完成形ではないの?」

 直後、ある可能性に思い当たる。

 自分がミカドに投げかけた言葉。

 あれが仮定でなく真実であれば、合点がいく。

「そう……土屋ミカドとユリさんが双子であれば、母親の胎内で力を分けていてもおかしくないわけね。鳳凰の像と対になる像があるということ。それがユリさんの体……」

 周囲に漂っている影たちに、斉天大聖は問いかけた。


「岬ユリがどこにいるか、わかる?」

 社の祈祷師たちが張った結界は、外から逢魔空間を抑えるだけでなく、内部からの脱出も不可能だ。そう遠くには行っていまい。

 般若が斉天大聖の耳元により、ぼそぼそと呟いた。

 斉天大聖はむっとした顔をする。

「……あの二十日鼠が逃した。そんなことだろうと思ったわ」


 ふぅ、と斉天大聖は息をつき、神輿から腰を上げた。

「私は回復に少し時間がかかるわ。仏舎利塔で休ませてもらっていい? ユリさんの捜索はあなたたちに任せる。二十日鼠は八つ裂きにして構わないけど、ユリさんを殺しては駄目よ」

 四つの影は頷き、ふわりと浮遊して、飛び去っていった。


 斉天大聖のこめかみからどっと汗がでる。

 斉天大聖にしても一瞬の賭けだった。普通『神の器』は生まれたときより器としての役割しか持たない。『神の器』が人間としての形を保っていたことから、人の体をなす天叢雲剣と同じ物質で相殺していたと考えた。結果、読みは当たったわけだが、ミカドはあれでも器の力が万全の状態ではなかった。


 しかも力の一部を交換しており、ミカドだけでもユリだけでも不十分。太極図の陰と陽のように、二人で一つの存在。

 もしユリを無力化していなかったら、ミカドは全力で戦っていた。この場で仕留められたのは、運が良かったからに他ならない。

 土屋ミカドが何らかの形で復活しないとも限らない。こうしてミカドであった像を手中に置いても、どくどくという力強い鼓動を感じる。斉天大聖はそれに危機感を覚えた。


「……私も、奥の手を使うべきね」


 かつて地球に飛来した宇宙の罪人、『十二匹の猿』。彼らは地球の生物の遺伝子に含まれる、『神』と呼ばれる高次生物を呼び出す因子に目をつけ、『天叢雲剣』と『神の器』で神を降臨させ、自分たちがかつて住んでいた星に近い生態系を再現することを願った。

 その中で不要とされる生命体は地底深く閉じ込められ、天魔波旬の祖先となった。そうした世界の構築に異を唱えた斉天大聖は他の猿たちによりツングースカに封じ込められ、1900年代の『ツングースカ大爆発』と呼ばれる事件にて復活した。

 今、封じられていた斉天大聖以外の猿たちは皆魂まで朽ち果てた。斉天大聖は彼らの乗ってきた宇宙船を、この町の地下に所有している。

 その宇宙船に秘められた力を取り出すべき時が来たのだ。

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