004
ドワーフ。鍛治ポケ…じゃなかった、鍛治生業とする種族だ。
この世界には様々な種族がいるが、私はこの日初めて他種族を見た。なるほど、ここの武具がドワーフ産なら一級品揃いなのに納得だ。
「はじめまして」
テオドラン様も他種族に会う機会があまりない為か、普段より分かりやすくワクワクされている。まあ武具屋に行く機会もないからそれも好奇心を刺激されているのかも知れないが。
「……なにをお探しで?」
テオドラン様のお忍びの貴族の御坊ちゃま感に少し、憮然としながら聞いてくる。このドワーフは作ったものを調度品にされたり、身を飾るアクセサリーにされるのは好まない様だ。
「買い求めるのは僕ではないですよ。リオン」
その素直な様子を笑いながら、テオドラン様はこちらに視線を寄越す。……………買う事を許された様だ。
それならばともう一度店内を見渡し、気になった物を手に取る。普段侍女を兼任しているので護衛としては、大振りな武器は持ち運べない。
そのナイフは装飾の殆どない無骨で質素な物だった。ただ切れ味や耐久値なんかは逸品と言えるだろう。大きさも武器を所持していると悟らせない様に、隠し持つのにちょうど良さそうな大きさの投げナイフだ。
「こちらのお品は素晴らしいと思います」
ドワーフと騎士達の私に対する目付きが変わる。騎士達は私が護衛である事も知っているはずだが、武具対する目利きもできない程度と思われていたのかしら。
「ナイフ…ですか?」
「投げナイフかとおもいますが」
騎士の1人が思わず疑問を出す。ああ、そうかそうだった。彼等は騎士だから武勇は剣でだった。誇りをかけて戦う騎士と生き残る為にどんな方法でも足掻く私の戦い方は相容れないだろうから、投げナイフをあまり見ないのだろう。
「この王都では需要がない武器の一つでの、売れ残りの様なもんじゃ」
「これほどのお品が売れ残り、ですか」
「気に入ったのかい?」
少し顔を暗くしたドワーフの言葉に信じられない思いが出てしまう。投げナイフではあるが、普通のナイフとしても扱えるだろうに。
また騎士への不理解を感じていると、にこにこと笑いながらテオドラン様がナイフから顔を上げて私を見る。こくりと頷くとテオドラン様の笑みが深まり、ドワーフへと向き直る。
「こちらのナイフを頂けますか?」
やっぱり買い上げて下さる様だ。騎士達は先ほどの様に声を上げる事は堪えられた様だが、驚きが表情に出ている。
神子様が武具店に入るのも武器を購入も普通はされないだろうから、分からなくはないけれどポーカーフェイスをもう少し努力すべきだわ。
「おお、まいどあり!」
……………まあこのドワーフよりは表情を取り繕えてはいると思うけれどね。ドワーフって案外感情豊かなのね。
私はドワーフ産の投げナイフを下賜して頂けた。暫くは使い勝手を見なければいけないけれど、きっとテオドラン様をお守りする時に活躍させてみせよう。
ドワーフ産の武具を持つのは初めてだから、私も少し気分が高揚している。ドワーフの鍛治能力は超一流だ。武器に見合う実力がなければ売らないとすら言われる頑固な職人がドワーフなのだ。
彼は私が頂くのを分かっていて売ってくれたのだ。つまり私はこのナイフをそれに見合う実力があるとドワーフに太鼓判を押されたも同然だ。
武具の一つでもドワーフ産を持っていたらそれだけで、ステータスになるのだ。騎士達はもう表情一つ変えなかったけれど、女子供が武器を手にするのを好みはしないだろう。私は女でまだ成人を迎えていない年頃だろうから。
まあ神子様のされる事に文句なんて付けたらシシリー様が神子様に責任を取らなければならなくなるから、何も言えないのだろうけど。
神の一族とはいえ貴族階級の様々な面倒に配慮しなければいけないものね。階級制度って面倒な事多いわよね。
そんな無礼な事を考えながら王都に移り住んでからの初めての休日を終えました。