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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢と結婚した俺は、悪魔の囁きで帝国に復讐を誓う。

作者: 怒筆丸 暇乙政

 俺は帝国に復讐を誓った。


 かつて俺は〈天使の囁き〉と言う特殊能力を持っていたが、突如として現れた帝国軍に全てを破壊されると、俺の特殊能力は〈悪魔の囁き〉へと変貌を遂げた。〈悪魔の囁き〉とは、囁かれた者をその気にさせる能力である……。


 事の始まりから話すと、妻はかつて帝国名門公爵家の御令嬢だった。そして皇太子の婚約者でもあった。しかし何かを知ってしまった妻は濡れ衣によって婚約破棄され、そして妻の公爵家は激しい内戦の末に滅亡してしまった。

 その後、なんとか妻だけは隣国に落ちのびて、隠遁しながらも俺と出会い、過去を忘れて俺と結婚し、幸せになった。きっと幸せだったはずだ……。少なくとも俺は幸せだった。努力は欠かさなかった。昔の事は一切話さずに子供たちの世話を楽しんでいる様に見えた……。

 だが、帝国によってその存在を察知されると、俺の親戚も親友も、兄弟も父も母も、そして妻も、全て消えてなくなってしまった……。

 俺は守ってやれなかった……。俺は唇を強く噛んだ。血が流れ落ちる。景色は霞んだ。風の音が聞こえない。川がよどんでゆく。だが不思議と涙は出なかった……。

 そうして俺は誓うのである。必ず帝国を滅亡させてやる。

──この、悪魔の囁きで、と。


「向かいの奥さんに聞いてまさかとは思ったのですが……どうやら貴方の奥さんは隣の家の旦那さんと浮気をしているみたいなんです……」


 思い当たる節があるのか、真に受けてしまう裕福な男。

 俺は嘘をついていない。調べはついている。俺は証拠を見せた。この裕福な男はこの証拠を見ると、みるみる顔が赤くなり、家の奥に戻ると怒声と何かが壊れる音がした。もうじきにこの家庭は崩壊するだろう……。

 俺の亡き息子を虐めていた奴の家。妻の存在を帝国に密告したこの男は、俺の密告によって意地の悪い浮気女と共にじわじわと不幸になってゆくのだ……。

 俺は密偵にカネを渡す。密偵は何も言わずに姿をくらました。思った通りだった。密告した裕福な男は俺が誰だか気付いていない。

 思わず俺は笑った。


──帝国はいまだ、俺の存在を知らないのである。


 俺は薄暗いアパートの一室で精神分析の書類を鞄に詰め込む。聖職者の偽りの衣装を身にまとい、額、胸、左肩、右肩と十字を切った後、相応の笑顔を選び出しては帝都の表通りへ出るのである。

 今日の帝都は、日の差す雪が降っていた……。

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