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第一話 極刑“迷宮流し”



「被告人エルを、強盗殺人の罪により……極刑“迷宮流し”の刑に処す!!」



 身に覚えのない罪状により、俺は“迷宮流し”の刑を下された。

 無罪を訴える気はない。無駄だ。なぜならこの裁判は全て出来レース。俺を罪人にするためだけに(おこな)われたもの。


(それにしても“迷宮流し”かよ……)


 この小国、〈アルファム〉には所謂(いわゆる)“死刑制度”はない。最高刑とされるのはこの“迷宮流し”だ。いや、言ってしまえば……この“迷宮流し”が死刑なのだが。

 〈アルファム〉には1つの大迷宮がある。迷宮の名は〈ティソーナ〉。この大迷宮〈ティソーナ〉に送り込むことを“迷宮流し”と言う。

 一度〈ティソーナ〉に入れば、〈ティソーナ〉を攻略するまで外に出ることはできない。迷宮の外に出ることを禁じられているというわけではなく、迷宮自身が一度入った者を外に出さない()()なのだ。

 鎧や剣なども持たされず、迷宮に放り込まれれば、迷宮に巣食う悪魔に食われるのがオチだ。だから死刑と変わらない。


「知っていると思うが、大迷宮〈ティソーナ〉を攻略することができれば無罪とする」


 ちなみに大迷宮にはこれまで10万人以上が挑んでいるが、帰ってきたものはいない。


(くそ。こうなったのも全部アイツのせいだ)


 俺は傍聴席に居る貴族、マハルトを睨む。

 マハルトは「ざまぁみろ」と笑い、席を立った。


「……貴様のようなクズが、私に逆らうからだ」


 裁判官に聞こえない小さな声で、マハルトは言う。


(マジでうぜぇなアイツ……!)


 沸々と、怒りが湧いてくる。

 あーあ、俺の人生終わった。たったの14年の命だったぜ、ちくしょうが。

 どうして俺が、こんな目に遭っているか。


 俺は3日前のことを思い返す。



 ◆3日前◆



 剣闘士(グラディエーター)。それが俺の職業だった。

 剣闘士(グラディエーター)とは、円形決闘場で猛獣や同じ剣闘士(グラディエーター)と決闘する者を言う。俺は10歳まで騎士の子として育ったが、両親が戦死し、身寄りがなくなった挙句に奴隷になった。奴隷となった俺は剣の腕を認められ、闘技場の経営者に買われた。それから14歳になるまで剣闘士(グラディエーター)として働くこととなる。


 334戦321勝13引き分け。

 勝ち星の数は同時に俺が殺した人間・猛獣の数となる。


 相手を殺すまで決闘は終わらない。生きるためには殺し続けるしかなかった。

 そして、335戦目を控えた日のこと。

 俺はいつも通り、決闘場に向かうため闘技場の廊下を歩いていた。


「待ちなさい。剣闘士エル」


 口髭の長い、貴族の男に呼び止められた。


「はい、なんでしょうか?」

「君に話がある。ついて来なさい」


 口では丁寧な言葉を吐いていても、表情は『早く来い。クズが』ってな感じだった。


「私の名はマハルトと言う」

「そうですか」

「今日は君に頼みがあって来たんだ」


 人目のつかない場所まで連れてこられたところで、マハルトは足を止めた。

 そして、マハルトはある要求をしてきた。


「八百長試合しろってことですか?」

「そうだ」


 聞くところによると、今回の俺の相手はゾウマという、戦闘民族の凄く強いやつらしい。

 好成績を収める俺と、期待の新人ゾウマ。この好カードには観客も湧き、珍しく多額の賭けが(おこな)われているそうだ。


 客の予想では……8対2で俺の勝ち。

 そこで目の前の貴族殿はゾウマに多額のベットをしたらしい。

 だから俺に負けてほしい、ということだ。でもそれはつまり、


「つまり、俺に死ねって言うんですか?」


 決闘での敗北はイコール死だ。


「いやいや、ちゃんと救済措置は用意してある。君はゾウマの攻撃を受けて、死んだフリをしてくれ。そうすれば、私の息がかかった死体処理班が君を回収する。そのまま君には国外逃亡してもらい、晴れて自由の身というわけだ。ゾウマにもこの話はしている。ゾウマとは決闘の後、暫くしてゾウマを買い取り解放することで契約を結んでいる。ゾウマが必要以上に君に追い打ちをかけることはない」


「もしも、断ったら?」


「君を適当な罪で告発する。私はこれでも法関係の知り合いが多くてね。剣闘士1人を“迷宮流し”にすることぐらい、わけないんだ」


 否定する選択肢はない、ってことだな。

 もしも成功すれば俺にとって悪い話じゃない。死んだフリなんてしたことないから不安も残るが、やるしかない。


「わかりました。その話受けましょう」

「……助かるよ」


 こうして、ゾウマとの決闘が始まった。


 ゾウマは熊の如き体格の男だ。

 手には斧を持っている。

 俺は両手に剣を持った双剣士。


 決闘が始まって暫くは良い勝負を演出した。剣と斧をぶつけ合いながら、一進一退の攻防を繰り広げる。


(こいつ、パワーだけだな。スピードも鈍いし、斧の扱いも拙い。殺すことはわけない、が)


 八百長を指示されている以上、勝つわけにもいかない。


(この辺か?)


 ゾウマが一歩退いた所で、俺は大雑把に剣を振り上げ、隙を作った。


「ゴアァ!!!」


 野獣の如き咆哮と共に、ゾウマのタックルを受ける。


「ぶはっ!?」


 馬鹿力。

 パワーだけは俺よりも遥かに上。俺の体は思い切り飛ばされ、何メートルも空を飛んだあとに落下する。


 倒れた俺の脚を掴み、ゾウマは地面に二度、三度、叩きつける。


(てめっ、やりすぎだろアホ!!)


 いやでも、これぐらいじゃないと死んだと思われないかと思いつつ、ジッと殺意を抑え込む。

 噓抜きに満身創痍になったところで、俺は全身の力を抜き、眼球の動きを固定して、一切身じろぎしないようにした。死んだフリを遂行する。


「……」


 審判のコールを待つ、が、審判のコールが耳に届かず、なぜか客の悲鳴に似た歓声が聞こえた。


 なにか身の危険を感じ、俺は眼球を動かしゾウマを見た。


――ゾウマは斧を振り上げていた。


(あ。こいつ、俺を殺す気だ)


 そう思ったら体は勝手に動いていた。

 余計な思考を省き、斧を躱した後、落ちていた剣を拾ってゾウマの首を斬り下ろした。


「やっちまった……」


 審判は右手を振り上げる。


「勝者、エル!」


 審判のコールで観客が沸く。

 観衆の中に、偶然にもマハルトを見つけた。マハルトは笑顔で、口をパクパクさせていた。唇を読む能力なんてないけど、なんて言ってるかはわかった。


『し・け・い』


 うん。まぁそうだよね。

 後々になって思う。きっとゾウマに手加減の指示は出ていなかった。マハルトは最初から俺を殺す気だったんだ。俺を生かすリスクは多いからな、妥当な判断と言える。


 あの八百長を持ちかけられた時点で、俺には死刑オア死刑の道しかなかったわけだ。とほほ。


 決闘から3日後に裁判は(おこな)われ、有罪判決。

 それから7日後に“迷宮流し”執行。



 俺は大迷宮〈ティソーナ〉を訪れる。

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