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異世界未確認生物  作者: ダンディー
4/6

No.4 始まり

俺が博士を裏切ると決意してから数時間後、博士は俺に渡した鍵を取りにやって来た。


「おい! ゲイン。鍵を取りに来たぞ。」


ガラス越しでしか見えないが、博士はとても満足そうな顔をしている。


何か、いい研究成果が得られたのだろうか?


俺は扉を開けて、博士に鍵を渡した。


ミャオはこの1連の行動を黙って見ていた。


「なぁ、博士...」


俺は鍵を渡す時に、彼に問いかけた。


「なんだい?」


「1度作ったキメラは、元に戻せるのか?」


俺はそう聞く。


博士は即答した。


「無理だ。2つの物を1つにすることは出来るが、1つのものを2つには出来ない。原理はわからんがね、二つに分けると、数分後にどっちも死んでしまう。」


俺はなんとも言えない感情に襲われた。


「そうか。もうひとつ質問していいか?」


「なんだね?俺もそんなに暇じゃないんだ。あまり時間を取らせないでくれ。」


時間が無いって、ひたすら研究しているだけだろ! と思いながら、俺は2つ目の質問をした。


「あの実験サンプル2と書かれた部屋にいる生物。あれを作ったのは、お前か?」


俺の目からは憎しみの感情が滲み出る。


「何故それを俺に聞く。あの部屋に入ったなら察しはつくだろ。そもそも、この研究所を作ったのは俺だ。つまりここには俺の研究結果しかない。あれは、お前達のようなキメラを作る時に生まれた失敗作だ。」


博士はそう断言した。俺は腸が煮えくり返りそうになった。


「じゃあ......。じゃあ、お前がタムをあんな姿にしたんだな?」


俺の口からは複雑な声が出た。怒りと悲しみが混じりあったような声。


そんな声を聞いた博士はまるで俺を挑発するように言った。


「タム?あぁ、君の妹か。この度は悲惨な事になったねぇ。」


「てめぇぇぇぇぇ!」


俺は超高速で、博士の体に巻きついた。まるで蛇が獲物を捕獲するかのように。


そして、博士の首筋を全力で噛んだ。


「がああああ!」


博士は叫ぶ。俺は噛むのを辞めずひたすらにかみ続けた。


彼の首からは大量の血が噴き出す。


「お前を殺す。ドンマ博士!」


俺は叫ぶ。そこにあったのは憎しみと復讐心。


「けけけ。殺す?出来るならやってみろ。」


博士はそう言う。


俺には3つの記憶があった。


1つ目は俺が産まれる前の日本という国で住んでいた時の記憶。


2つ目はこの世界で生きてきた短い間の記憶。


そして、3つ目は、蛇として生きた俺の記憶。


その、3つ目の俺が蛇として生きてきた記憶の中では、俺が少しでも噛んだ相手は1分くらいで動かなくなっていた。


要は毒だ。


俺は博士に向かって言った。


「俺の歯には毒が含まれている。しかも、生ぬるい毒ではなく、猛毒だ。もうすぐ、お前の体は痙攣して動けなくなるだろう。」


「うぐっ。」


博士は吐血した。


俺は構わず、博士の首を噛みちぎる。


「お前はここで死ぬ! ドンマ博士!」


博士は地面に倒れた。体が麻痺して動かないのだろう。


俺は意外と呆気なかったなと思いながら、床に座り込んだ。


「悪いなドンマ博士。あんたには感謝している。死にかけていた俺を助けてくれたんだからな。でも、お前はいては行けない存在だと思った。」


俺は博士に語りかける。


俺の言葉は半分は本心だった。しかし、半分は嘘だ。


俺は正義を盾に妹の復習を成しただけだった。


「ケケケ。」


ふと、不気味な笑い声が聞こえてくる。


見れば、それはドンマ博士が発した笑い声だった。


「何が面白い? ドンマ。」


俺は言う。


「ケケケケケ。ゲイン、お前自分の命を助けてくれた恩人に対してこの始末か? 酷いねぇ。精神が腐ってやがるぅぅぅぅ。」


博士の笑った顔は、まるで悪魔にでも取り憑かれたかのようだった。


俺はそんな博士に対して恐怖を覚えた。


「愚かだなゲイン。確かにお前の毒ならば、擬似細胞で作られているこの体を壊すことは出来る。しかしだ。そもそも、なんでお前の前にいる俺が、俺だと思ったんだ?」


俺の前に倒れている男はもう死にかけていて、体はピクリとも動いていなかった。


だが、彼の顔の表情と口だけは止まることを知らない。


ドンマ博士は続けて言った。


「俺は普段から危険な実験を繰り返しているんだ。命が一つだけじゃあ、そのうち自分の身を滅ぼしかねない。幸い俺には物凄い科学力がある。そうなれば、予備の体がいくつかあっても不思議じゃないだろう。お前は大きなミスを犯した。敵に回す人間を間違えたんだ、ゲイン。」


「ドンマ、お前...!」


「殺す?出来るならやってみろよ。俺が持っている数百体もの体を全て破壊してみろ。言っとくが俺が持つ研究所はここだけではないからな。様々な国、様々な地域、俺はこの世界に、数十個もの施設を所有している。もちろん俺には部下もいれば、手下だっている。お前はこの世界で最も偉大であり、最も強大な力を持った男に喧嘩を売ったのだ。楽に生きれると思うなよ。幸い俺はお前を殺さない。しかし、生きているからこその絶望をお前に与えてやる。覚悟しておけ、ゲイン。俺に喧嘩を売ってきた時点でお前は終わっているんだ!」


博士は薄気味悪い笑顔を浮かべて動かなくなった。


次の瞬間、俺の周りには大量のロボットが湧いていた。


まずい。非常にまずいことになった。


俺は、人の姿のまま地面を這いながらロボットを一体ずつ倒していく。


ぶっちゃけ、俺は蛇なので、あまり強い特性がない。


だから、一体一体、俺はロボットの体に巻きつき、首を噛みちぎることによってロボット達をたおしていく。


一体。また一体と、順調にロボットを破壊していく俺。


しかし、俺の考えは圧倒的に足りなかった。


奴らは突然銃を放ってきたのだ。


ダダダダダダン!


俺は左足を撃ち抜かれてしまった。


「痛っ。ガチの銃かよ。俺を殺さないんじゃなかったのか?」


俺はそっと呟いた。


しかし、今の俺にそんなことを呟いている暇などない。


俺は高スピードで逃げた。


蛇の持つ能力は特殊で、使い方によっては強いかもしれない。しかし、この状況では、蛇特有の能力は、あまり発揮することはできない。


しかし、一つだけ、今すぐにでも使える能力があった。


スピードだ。


俺の体は全てが関節だからか、地面を這って逃げるとかなりのスピードを出すことが出来た。


ダダダダダダン!


ロボット達の射撃は続く。


俺は一旦、目の前の角に身を隠して体を守る。


「はぁ、はぁ。1番最初に喋った時もそうだったが、体が急に変わりすぎて思うように動くことが出来ない。3日間もあったんだから、もっと動いて体を慣らして置けば良かった。」


俺はまた動き出す。


しかし、その時ようやく自分のミスに気付いた。


俺の逃げた先には、別のロボット集団がいたのだ。


「な!? まじかよ、挟み撃ちか!」


前にはロボット、後ろにもロボット。


絶体絶命の状況か。


こうなれば、がむしゃらにでも逃げてやる。


俺は、地面を這いながらロボット達の足を破壊することにした。


ガシャン! ガシャン!


足を破壊すれば、ロボット達も歩くスピードが下がるから、逃げるために、時間を稼ぐことが出来る。


幸いこいつらはとても脆く、いとも容易く壊れてくれた。


しかし、数体倒した所で、優勢劣勢が変わる訳では無い。


次の瞬間、俺は右手を銃で撃ち抜かれた。


「がァっ!」


ポトポトと体からは血が流れる。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。」


俺は痛いを連呼する。


右手から想像を絶する痛みを感じた。


それが原因か、麻痺していた足の痛みもじわじわと感じるようになる。


見渡すと、360°敵に囲まれていた。


「はは、もう...ダメかな?」


村が疫病に襲われた時の絶望感。


どうにもならない状況。


俺はそっと諦めて目をつぶった。


ガシャン!


その直後、たくさんのロボットが一気に壊れる音が聞こえた。


「私も...行く!」


目を開けると、そこに居たのはミャオだった。


彼女は次々にロボットを破壊していく。


「ミャオ!?」


俺はつい叫んでしまった。


「私...博士嫌い! 私の体...勝手におかしくした! 私の村を襲った! お父さんとお母さんを殺した! 」


そう言って、ミャオは周りのロボットを一掃していった。


ガシャン!ガシャン!


ミャオがロボット達を倒していくスピードは、俺のよりもはるかに速かった。


さすが猫といった所だろうか?運動神経も、スピードも、敵の破壊力も、俺と比べると段違いだ。


まぁ、さっきの発言で、少し気になる所もあるが、それは後でいいか。


少し経てば、俺の周りを囲っていたロボット集団は全滅していた。


戦いが終わった事を知らせるかのような沈黙。


ボロボロに壊れた機械の上に立って彼女は言う。


「私...寂しかった。何日も...何日もひとりぼっちで、だれもいなくて...。でも、久しぶりに誰かとお話した。ゲイン、すごくやさしいし、私の話...静かに聞いてくれた。嬉しかった。ずっと1人だったから。ずっと誰もいなかったから。だから...」


俺の目の前にいる少女は涙を流して振り向いた。


「だから...お願い...私を...置いていかないで。」


その言葉に俺は動揺する。


気付けなかった。たった3日間しか一緒に過ごしていないけど、彼女にとって俺は特別な存在になっていたことなんて。


知らなかった。ミャオが一体どれほどの苦労を背負っていたかなんて。


「死ぬかもしれないぞ。」


「それでもいい。」


「辛い旅になるぞ。」


「うん。分かってる。」


「相手は恐らくこの世界で最も恐ろしい存在だぞ。それでもついてくるか?」


「うん。」


俺はミャオの目をじっと見つめた。


それに気づいたミャオも俺の目を見つめ返した。


彼女の目にはいくつかの感情が混じっている。


寂しさ、悲しみ、怒り、覚悟。


どっちにしろ、ミャオは既に博士を裏切った身だ。ここに置いていくことは出来ない。


俺も、覚悟を決めないとな。


「わかった。俺はお前を連れて行く。ただし、ミャオ。お前を連れて行くのに1つ条件をつけさせてもらう。」


「条件?」


ミャオは首を傾げる。


「あぁ、とても簡単な条件だ。」


少し黙ってから俺は言いきった。


「絶対に死ぬな。」




その夜、ドンマ博士の研究所から2人の実験体が脱走した。


片方は猫と人のキメラ。


もう片方は、蛇と異世界人のキメラ。異世界から来た、異世界未確認生物!


この物語は、異世界より来たる異世界未確認生物となった男が、最悪の研究者を倒す、世には決して知られない影の英雄譚である。

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