No.1 転生・合体
この話を読む時に、まず4話まで読んで頂けると幸いです!
たくさん通る車。
周りに並ぶ高いビル。
その中をぼちぼちと歩く俺。
極ありふれた日常。
そんな中で、突然俺は死んだ。
なぜ死んだのか覚えていない。
ショックと痛みで記憶が消えてしまったのだろうか?
まぁ、ともかく俺は死んだ。
普通、異世界転生って、転生する時にチート能力やスキルを手に入れたり、高い魔力や才能を持って産まれてくるものなのではないだろうか?
そうでなくとも、成長する時に何かしらアクシデントが起こり、強い力を手に入れたり、強い仲間が居たり。
そんなことが起こるんじゃないのか。
まぁ、所詮は物語の中のみの話だがな。
そもそも、小説や漫画、アニメと言ったものは人を楽しませるだけのエンタメに過ぎない。
そんなものが、現実の世界で起こるはずがない。
俺はそれを身をもって学んだ。
俺が転生した場所は小さな村の中だった。
貧しく、常に食糧不足に陥っている村。
衛生状態もあまり良くなく、虫を食べることもざらだった。
そんな、壊滅寸前でボロボロの村の中に産まれた俺。
とても不自由だが、楽しい生活を送っていた。
しかし、ある日のこと、村に疫病が流行った。
肌にはぶつぶつができ、しばらくしてそこから血が流れる。
何だこの病気は。
しばらく日が経つと、俺もこの病気にかかってしまった。
全身に渡る痛み。
まだ幼なかったためか、俺の症状は、周りの人に比べると酷いものだった。
何日にも続く痛み。
気づけば、親は死んでいた。
それどころか村の7割の人は死んでいた。
俺には妹がいた。
妹もまた病気にかかり、苦しんでいた。
翌日、俺の体から痛みはなくなった。
俺は生き残ったのだ。
だが、それからしばらく経つと、村に火が回った。
俺達の村を恐ろしく思った隣の村の住人が、火でも放ったのだろうか?
村の人は全滅だ。
疫病にかかってない人でさえ死んだ。
残酷だ。
罪のない人達が次々と殺されていく。
これが世界の厳しさか。
俺は必死に炎から逃げた。
しかし、俺にはもう絶望しか無かった。
親を失った悲しみも、村の人が殺された怒りもなかった。
ただそこにあったのは絶望。
自分も死ぬという運命に立たされた絶望。
妹ももう、見えない。
父さんや母さんみたいに死んでしまったのだろうか?
俺にはもう嘆く気力すらなかった。
あとは最後に残った自分が死ぬのを待つだけ。
「つら...い...」
俺は6年ぶりに日本語を喋った。
降り続ける雨。消火された炎。
俺は遂に目をつぶった。
その後、俺の目が覚めたのは6年後の頃だったという。
目が覚めた合図は博士の言葉だった。
「目を覚ますが良い少年。」
俺の目の前にいたのは、眼鏡をかけた白髪のアフロのおっさんだった。
彼はニヤニヤと気持ち悪い笑顔をしながら俺に話しかける。
「私の名前はドンマ。名も知られていない優秀なマッドサイエンティストさ。」
俺は体を動かそうとするも、違和感を感じた。なんと液体の中に閉じ込められていたのだ。
それもスライムのような体に吸い付く、変な液体の中に。
ドンマという男は、再びガラス越しから話しかける。
「体の調子はどうかね?君が死にかけてから6年も経ったのだ。絶好調という訳には行かないだろう。」
6年...?
あの地獄のような苦しみから6年の年月が経ったのか...
俺は博士を見る。
それから舌を出し、彼を威嚇した。
「しゃー」
「おいおい。そう怒るなって。それとも言葉を喋れないのか?」
彼はとても興味津々に俺を見て言った。
「それにしても、独特な姿になったな。お前。」
「お前...何...言ってる...?」
そう俺が言うと、博士は一瞬黙ってから叫び出した。
「おお、言葉を喋った!なんと素晴らしい。多少カタコトとはいえ、言葉を喋ったァ。初めてだ!初めて蛇との合成で喋るキメラを作れたぁ!」
だいぶ喋りづらい口。何故か始めてしまう威嚇。
なんだ?俺の体は何かがおかしい。
俺がそう考えていると、博士は何か気持ち悪い動きをしながら、俺に話しかける。
「フォッ!カィッ!ラぉー!生まれてきてくれて、ありがとう!キメラになってくれて、ありがとう!俺の実験動物として働いてくれて、ありがとう!ナルゥロトモクハァイ!」
分からなかった。この博士の言っていることはほとんど理解することができなかった。ただし、ひとつだけ理解することができたことがある。
俺の記憶の中に別の記憶があった。
ひたすら地面を這って、ひたすら獲物を追い続ける。
そんな記憶が存在した。
そう、なんと俺は、半分蛇になってしまったのだ。
「お前...俺の...体....に....何...した....。」
俺が苦し紛れに質問すると、博士は笑いながら答えてくれた。
「君の体を、蛇の魔物と合成したんだよ。苦労したんだよォ。蛇ってさ、人の体とびっくりするほど合わなくてさぁ、君の前に100人もの人が犠牲になっちゃったんだよぉぉぉ。君が成功して、ほんとによかったあああ。」
俺は無言で話を聞いた。
要は俺は蛇とのキメラになったそうだ。
人と動物の合成という非人道的な行動。多少俺はこの博士に軽蔑を覚えた。
しかし、恨むことはできなかった。
「お前...は...6...年前...に ....俺を...助けて...くれたのか...?」
俺は彼に聞いた。
「助けた訳じゃないよ。死にかけている人がいたから実験に使った。ただそれだけの話さ。」
博士は薄気味悪い笑顔を浮かべた。正直言ってかなり不快だった。
人をモルモットとしか思っていないような言動。俺はこれからなにをされるか、正直心配だった。
「お前...の...目的....は ...なんだ...?」
「目的?どうしてそんなものが必要なんだ?俺は人の進化が見たいだけだ。人間の極地を見たいだけなのだ。それ以外は何もいらない。君にも見せてあげよう!人間の進化を!」
そう言って、博士は液体の中から、俺を取り出した。
それからまもなく、俺は自分の体の圧倒的な違和感に気づいた。
「あれ?関節が...」
俺がそんなことを言っていると、博士が俺に話してくれた。
「体がくねくね動くだろう?それが君の特性だ。君の骨が蛇と合成されたことで、ほぼ全て関節になったのだ。」
「骨が全て関節?」
俺が聞くと、博士は答える。
「蛇というのは特殊な生き物でねぇ、体の骨がほぼ全てが関節で、できているんだ。それで、俺はその蛇の特性を君の体に入れ込んだという訳だ。新鮮な感覚だろう?」
「俺の他にも、俺みたいなやつはいるのか?」
俺がそう質問すると、博士は歩き出しながら話した。
とりあえず俺は彼について行きながら話を聞いた。
「その質問がどういう意味かで答えは変わるね。蛇と人のキメラは君一人だけだ。厳密に言うと、失敗作はたくさんあるがね。しかし、人と他の生き物を合成したキメラならば君の他にもたくさんいるよ。」
キメラ。それは複数の動物を合成させて作った、合成生物だ。
よく漫画を読んでいた俺には、その知識があった。
「なぁ、ドンマ博士。どうやって動物と動物を掛け合わせたんだ?」
俺は気になったことを聞いた。
俺が転生した時に気づいたことだが、この世界はどうやら、俺が元々いた世界とは違う世界のようだ。
時々現れる魔獣と呼ばれる生物。
見たことも無い文化。
俺は6年間、貧乏な村に住んでいたため、自分のいた世界と違う世界にいる、ということはわかってもこの世界がどんな世界なのかは理解出来ていなかった。
アニメやゲームなどのようなファンタジーの世界なのか、はたまた文明も特に発展していない古代の世界なのか?
それとも、実は科学技術が発展した、未来の世界なのか?
俺はそれを知りたかった。
「錬金術だよ。」
博士は言った。
「元々はただの石を金に変えることを目的とした学問。俺はそれを使ってお前のようなキメラを作り出したのさ。」
錬金術...か。予想もしていない答えが返ってきたので、少し戸惑った。
錬金術の知識はあるが、実際にあるだなんて夢にも思わなかった。
正直現状、ありえないことが重なりすぎて、俺の脳が拒絶反応をおこしそうになっていた。
「錬金術なんてほんとに存在したんだな。」
俺が独り言を言った。
「あぁ、存在するとも、見るか?俺が錬金術によって作った傑作達を。」
そう言って博士は目の前にある扉を開いた。
その扉の先の光景を見て、俺は驚愕した。
そこに居たのは、俺のようなたくさんの人型キメラだった。
蛙、狐、蜘蛛...
そこには目に見てわかる、様々な種類の動物と合体したキメラがガラス越しにいた。
「お前の部屋はこっちだ。」
そう俺は博士に案内されて、ある部屋に入った。
「部屋からは勝手に出るなよ。なにか要件があれば、そこのボタンを押せ。」
そう博士は言い残し、この場を去る。
俺は周りを見渡した。
白い壁と1枚の大きなガラスで覆われた部屋。
そして、部屋の中にはベッドが2つと机が1つ。
2人部屋なのだろうか?
それにしても、あんなに人を物としてしか扱っていない発言を繰り返していたというのに、謎に良い待遇。
俺は少しあの博士に不気味さを感じた。
まぁ、最初から頭がおかしかったから特に違和感はないけど...
それよりも俺が気になったのは、ベッドの上でうずくまっている一人の少女だった。
容姿から見るに猫のキメラだろうか?
彼女は、何故かは知らないが、ずっと俺の事を睨んでいた。
とりあえず話しかけようかな?
「き...君...!」
俺がそう言うと、彼女はまるで猫のように俺を威嚇してきた。
まぁ、半分は猫なんだろうけど。
「お前...誰...にゃー」
取ってつけたようなにゃーはさておき、彼女は闘気全開だった。
とりあえず俺は手を挙げて言う。
「俺に戦うつもりはないよ。」
そういうと、彼女は言った。
「お前...強い...私より...強い...にゃー。」
なんだろう、俺は幼稚園児と喋っているような感覚を覚えた。
相手は見た目は俺と同世代のはずなのに、何故だろう?彼女はどこか幼く感じた。
どうしたらいいのかわからず、とりあえず俺は彼女に殺気を向けた。
「しゃー。」
ダメだ、半分が蛇だからだろうか?なんだか考え方が野生動物みたいになってる気がする。
俺が彼女に威嚇した瞬間、彼女は本能的に後ろへ下がった。
「にゃー」
彼女は体の低くして俺を睨む。
駄目だ。威嚇をしたのは間違いだったか?
どうやら俺は状況を悪化させてしまったようだ。
「なあ、とりあえず話し合わないか...」
「お前...強い...」
俺がどんなに頑張っても、彼女の心は開きそうにない。
はぁ。
俺は部屋の端っこで肩の力を抜いて座った。