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第二十五話 黙って聞け!

 がちゃり!!



「ひいっ! お、おはようございます、センセ……イ? 御子柴さんもご一緒なんですね!」

「くはぁ……くはぁ……」

「ひゅー……ひゅー……」



 無駄で無意味なダッシュが祟り、二人とも虫の息である。今にもふかふか絨毯に倒れ昇天しそうな俺たちを見つめ、凛音お嬢様だけは困り顔をしていた。まあ、無理もないか。


 ずごぉっ!


 俺は全身で息を吸い込み、凛音お嬢様に五体全ての力を振り絞って伝えようとしたのだが、



「聞いてくれっ、凛音ちゃんっ!」

「やらせはせん! やらせはせんぞおおお!!」

「んなっ!? ジャーンク、クラ~~ッシュ!」



 どこかで聞いたようなみこみこさんの絶妙なカットインを、さらにこれ以上ないタイミングで悪魔超人じみた強引なハグによって封じ込めることに成功した俺は、ここぞとばかりに声を張り上げた。



「『宅検』合格のための! 最後の一手! 思いついたんですよ! これしかない!」

「むぐぐぐ……きゅう」

「あ、ありゃ?」



 と、ふと腕の中のみこみこさんを見てみると、実に幸せそうなだらしないにやにや笑いのまま失神していた。唐突に細くて柔らかな身体が、ぐっ、と重みを増したが、今は後回しだ。



「俺は! 何かを詰め込むことばかり考えてました! だけど、違ったんです! 逆だったんだ! 凛音ちゃんから、凛音ちゃんらしさを形作っている物を奪わないといけないんです!」

「え? え?」

「それは……お嬢様であること! 鞠小路家を継ぐ者であるということだったんです!!」



 そうだったのだ。



「それを一度、全て捨て去らないと真のオタクにはなれない! 成績優秀で、スポーツ万能、品行方正で見た目もパーフェクト! そんなの、絶っ対オタクじゃない! だから――!!」






 俺は、


「一回、徹底的にダメ人間になってください!!」


 最後のワードを吐き出した。






「……はぁ。どのようにすれば良いのでしょう?」

「まずはその、言葉遣い、です!」



 呆れ、戸惑うばかりの凛音ちゃんを俺は、ずびしっ! と指さした。



「そんな落ち着き払った口調はダメです! この前、ニンゲン相手に喋ったのはいつだったかなー? って思い出せないくらいのハイテンションで、ここぞとばかりに声を張り、語気強く喋ってください!」

「は、はいっ!」



 しゃきっ! と背筋を伸ばし、真剣に相手の目を見つめて答える凛音お嬢様に、ぶんぶんと手を振りながら続けざまに駄目出しをする俺。



「あーそこもダメです! 喋る時は相手の目を見てはいけません! 伏し目がちに、相手の視線を避けるように! ギリギリ相手の顔が見えるか見えないかのラインを守ってください!」

「えええ!? あ……はい! そうします!」



 俺の無茶振りに忠実な凛音お嬢様は、どよん、と暗く淀んだ雰囲気を醸し出しつつ俯き加減に答えた。が、まだ何となく違う。



「喋る時はなるべく早口で! オタクは日々吸収する情報量が膨大なのに対し、コミュニケーションの機会が少なく、やり方もとにかく下手糞なので、高回転で駆動する頭脳に喋る口の方が追い付かないんです! だから、早口、です!」

「はい! わかりました!」



 矢継ぎ早に訳の分からない妄言のごとき指摘を受けながらも、それを一つずつ着実に消化していく凛音お嬢様はやはりまぎれもない天才である。だがそれでも、その真剣で凛々しい表情が気になってしまう。



「はい、ダメ! 意味なくうすら笑いを浮かべてください! なるべく好印象を与えようとした結果、逆に不審がられるようなにやにや笑いです! できますか? できますよね!?」

「はい! やります!」



 途端、にへら、とふやけた笑いを口元に浮かべる凛音お嬢様。もしかして、女優としても立派に通用する存在なんじゃなかろうか。しかし、理不尽な俺の指導はそこでは止まらなかった。



「なんですか、その可憐で儚げな恰好は!? 自分の部屋にいるんですから、もっとだらけた恰好をしなければダメです! スウェットかジャージはないんですか! はい、今すぐ着替える!」

「はい! えと……センセイのいる前で……ですか?」

「大丈夫です! センセイ、今から後ろを向きますので! 見ません、絶っ対に!」

「そ、それならいけます! やります!」



 ごそごそ……。

 衣擦れの音が背中越しに届いた。



「は、はい! できました!」



 良く考えたらイキオイに任せてとんでもないリクエストをしていることに若干の反省をしつつも、そおっと振り返った俺は、目に映った光景にまたもや無茶苦茶なキレ方をしはじめた。



「な……なんなんですか、その非の打ち所のないジャージ姿は!? センセイ、言いましたよね? 自室でとことんリラックスしてだらけるための恰好ですよ!? ダメダメ! ダメです!」

「い、いえ、でも……これ、鎌北清廉女学院のジャージで……。これしか持ってません!」

「ぐぬぬぬ……!」



 どこのデザイナーズブランドの一品だよ。汚れやシミや、毛玉の一つもないだなんて。

 こんな完成された物がジャージだなどとは、断じて認めるわけにはいかない。


 俺はダンスパートナーよろしくまだ腕の中に抱え込んだままその存在を忘れかけていたみこみこさんのカラダを大急ぎで揺さぶると、強引に再起動させた。



「ぬ、ぬわっ! な、何だ宅郎!? せっかくいい夢を見ていたところだったのだぞ!?」



 みこみこさんは口元のよだれを拭う素振りをしながら唇を尖らせて抗議するが無視する。



「そんなの後回しです! みこみこさん、凛音ちゃんにぴったりなスウェットかジャージを大至急手配してくれませんか? た・だ・し! 完璧な一品じゃなく、もう見るからにダメな、自宅警備員が装備するにふさわしい毛玉だらけの使い古したよれよれの奴が必要なんです!」

「……まるで意味不明なんだが」

「説明は後!」

「むう。……来い、エージェントども!」



 みこみこさんの号令とともに凛音お嬢様の部屋に突入して整列したエージェントさんたちに向けて再度俺の口からリクエストを伝えると、中央にいた黒服が一歩前に踏み出し、みこみこさんに何やら耳打ちした。



「良し。宅郎、十五分くれ。それでお前の望む物を用意しよう」

「は、早いっすね……。だったらこれとこれも――」



 追加で必要な物資を素早く伝えると、分担して揃えてくれると言う回答が、またもやみこみこさん経由で返ってきた。面倒だから直接言ってよ、もう。




 なら、後は待つしかない!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【今日の一問】


 次は、アニメ・漫画における『リアルロボット』の名称です。この中から『リアルロボット』ではないものを一つ選びなさい。


 (ア)ウォーカーマシン(『戦闘メカザブングル』より)

 (イ)メタルアーマー(『機甲戦記ドラグナー』より)

 (ウ)バスターマシン(『トップをねらえ!』より)


          (私立小学校入試問題より抜粋)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






【凛音ちゃんの回答】

(イ)。

 ちょっとわかりませんでした。これだけ『アーマー』だったので選びました。






【先生より】

 間違ってしまいましたね。正解は(ウ)の『バスターマシン』です。ロボットアニメに関してはまだまだ知識と理解が足りないところが見受けられますので引き続き頑張りましょう。ちなみに(ア)のウォーカーマシンは、車同様にハンドルとペダルで操作します。それのどこが『リアル』なのかと言われると、先生も少し困ってしまいます。いまだに操縦方法が謎な作品の一つですね。






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