第65話【目覚め】
バアル達が裏世界へ行って二週間、 ザヴァラムの避難指示も終わり、 今は全世界でゼンヴァールに備えた避難が殆ど完了した……
……あとは知らせを待つだけか……ロフィヌス以外の守護者達は避難所の守備を任せている……住民の心配は無いな……
玉座の間で一人、 イージスが待っているとロフィヌスが現れた。
「イージス様、 勇者達が帰ってまいりました……」
「……そうか……いよいよだな……」
するとロフィヌスは深刻な表情になった。
「イージス様……これは私の予感なのですが……ゼンヴァールが現れるのは恐らく……カロスナかと……」
「! ? ……どういうことだ? 」
「分かりません……ただの私の勘なのですけど……ただ……カロスナはまだ……避難が完了していません……」
それを聞いたイージスは凍り付いた。
ロフィヌスの勘は絶対に当たる……だとしたら……カロスナとバアル達が危ない!
「ロフィヌス、 君は避難所の守備に当たれ! 俺はカロスナへ行く! 」
「は、 はい! ……しかし……ザヴァラムさんとヒューゴさんは……? 」
ロフィヌスがそう言うとイージスは言った。
「……絶対に来るな……そう伝えてくれ……」
「……はい……」
そしてイージスは一人でカロスナへ向かった。
…………
その頃、 カロスナでは避難の真っ最中だった……
「……大丈夫だろうか……急がないとまずい気がするのだが……」
バアル達は避難者の誘導をしていた。
そんな時、 バアル達の前にイージスが現れた。
「バアル! 」
「イージス様! 何故ここに! ? 」
「嫌な感じがしたから来たんだ、 カロスナはまだ無事のようだな……」
「えぇ、 しかしこのペースでは……」
するとどこからか地響きがしてきた。
「な、 何だ! ? 」
次の瞬間、 カロスナの中央広場の方で大爆発が起きた。
蒼黒い炎が大きな火柱を作り、 周辺の地殻をめくりあげていた。
「来た側からかよ……! 」
「まさか……こんな早く! ? 」
「バアル達は避難者達を頼む、 俺は……行ってくる……」
そしてイージスは中央広場へ向かった。
…………
中央広場へ着いたイージスは辺りの惨事に驚愕した。
「これは……酷過ぎる……」
すると爆発のあった場所から何者かが上空へ飛び出してきた。
『……この時を待ちわびていた……ここが今の世界か……』
上空に飛び出してきたのは……
「あれが……ゼンヴァール……」
300年以上も前に封印された世界の邪悪、 ゼンヴァールだ……
その姿はイージスと似ており、 瞳は血のように赤く、 髪は白く長い髪をしていた。
服は何も飾られていない……ただの白いローブのようなものだった。
頭の上には三日月のような形をした赤い天使の輪が浮いていた。
そして一番の特徴は大きく広げた漆黒に染まった天使の翼である……
「手始めにこの街を消してくれようか……」
ゼンヴァールはそう言うと片手を空に掲げた。
するとその手のひらに小さな光の球が出現した。
ゼンヴァールはその光の球を真下へ落とした。
「あれは……やばい! ! 」
危険を感じたイージスは咄嗟に防御魔法を展開した。
次の瞬間……
『ドグワァァァァァァァ! ! ! 』
光の球が地面に接触した瞬間、 聞いたことも無い轟音と共に凄まじい大爆発が起きた。
その爆発はカロスナを呑み込み、 街に立ち並ぶ建造物と共に地殻をめくっていった。
「……」
爆発が収まり、 イージスは辺りを見回した。
そこに広がっていたのは……
「……そんな……ここはカロスナなのか……? 」
辺り見渡す限りの更地……所々に蒼黒い炎が燃え盛り、 カロスナの街の名残は何一つ残されていなかった……
(ただいまの爆発により、 半径5キロメートルの範囲が蒸発……範囲内の生命体の反応は……ありません……)
ジースが告げている報告の意味するのは……
皆……死んだのかよ……? こんな一瞬で……
カロスナ……完全崩壊……
「……あれは……ほぅ、 今の攻撃を防いだか……」
ゼンヴァールは地上にいるイージスを見つけ、 降りてきた。
「流石はダイアの子なだけはある……剣を受け継ぎし者……」
「貴様……何故この街を……! 」
イージスは怒り紛れに聞くとゼンヴァールは済ました顔で答えた。
「決まってるだろう、 ほんの肩慣らしだ……300年以上も封印されていたのだ、 準備運動くらい当たり前のこと……」
「そんなことでこの街の人達を! よくも皆を! ! 」
そう叫ぶとイージスはゼンヴァールの前に高速移動し、 剣を抜いて斬りつけた。
しかしゼンヴァールはイージスの剣をたった指二本で摘み取ったのだ。
「ふむ……ダイアよりも素早いようだな……余の指に少し傷が入ったぞ……? 」
「っ! ? 」
まさか……今の速さで止められるのか! ? それにこの力……
イージスはゼンヴァールの手を解き、 距離を取った。
「……」
イージスはスキルを使いゼンヴァールのステータスを見た。
(……能力値、 測定不能……レベルは不明、 しかし9000は超えております……)
レベル9000! ?
今までとは桁違いのレベルを見たイージスは驚愕した。
「……これで実力差が分かったであろう……もはや戦う意味も無いのだ……」
……だけど……ここで逃げたら……
イージスはまだ戦う意志を見せた。
「……そうか……ならばこうしようではないか……今から30分後までにヒュエルへ来い……そうすれば余は相手をしてやろう……もし来なければ……」
「この世界を終わらせる……」
ゼンヴァールはそう言い残すとイージスの前から姿を消してしまった。
……俺は……この状況に安心しているのか……?
「……くそ……」
そしてイージスは一人、 メゾロクスへ戻った……
・
・
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メゾロクスにて……
「何だって! ? イージス様が一人で! ? 」
「は……はい……しかし絶対に来るなと……」
ロフィヌスからの報告を聞いたザヴァラムは慌てて避難所から出て行こうとした。
それをヒューゴが止める。
「ザヴァラムさん、 俺達は行くべきじゃない! 」
「何故、 今にもイージス様は危険な状況に遭っているかもしれないのに! 」
ザヴァラムとヒューゴが口論しているとイージスが現れた。
「イージス様! ゼンヴァールは……? 」
「ロフィヌスの予想通り、 カロスナに現れた……そして逃げられた……いや……逃がしたが正確か……」
「え……? 」
するとイージスは避難所全体に強力な結界を張った。
「イ、イージス様! ? 」
「……済まない……ラム達を連れて行くわけにはいかない……俺一人で行く……」
ザヴァラムは慌てて結界から出ようとするもイージスの作る結界はどんな物よりも強力、 破れるはずもなく弾かれてしまった。
「イージス様! いけません! ! 」
「……」
ザヴァラムの呼びかけにも応じずイージスはその場を立ち去ってしまった。
「イージス様ぁぁぁぁ! ! ! 」
……済まない……今の俺じゃ……君らを守れないんだ……
ミーナの出来事がトラウマになっていたイージスはこれ以上の犠牲を恐れ、 一人でゼンヴァールに挑むことにしたのだ。
…………
その頃、 ヒュエルでは……
「……人がいない……この事を予想して避難したか……ただ、 あそこにいる者達を除いては……」
ヒュエルの上空へ瞬間移動してきたゼンヴァールは王城の方を見てそう呟いた。
するとゼンヴァールは片手を王城の方へ向け、 そこへ火の玉を撃ち込んだ。
王城の壁に着弾した火の玉は瞬く間に王城全体を包み込む程の大爆発を起こした。
「……ほう……」
爆破された王城は全壊していた……しかしそこから現れたのは……
「……久しぶりね……ゼンヴァール……」
「あれが……ゼンヴァール……」
ベルムントの元にいた十二天星騎士団とまだ王城に残っていたカルミスだった。
カルミスはゼンヴァールが来ると感じ、 十二天星騎士団を守ったのだ。
しかしベルムントは……
「……まさか王が息を引き取ってから城が爆破されるなんてね、 最悪にも程があるわね……」
爆破される数分前に既に死亡していたのだ……
「陛下……我々に生きろということなのですか……」
エルセはそう呟くとカルミスは十二天星騎士団全員の足元に転移魔法の魔法陣を展開した。
「アンタたちは足手まといになるだけだから避難所に行ってなさい……」
『……はい……! 』
十二天星騎士団はそう返事し、 避難所に送られた。
「……さて……あとは英雄様を待つだけね……」
カルミスはゼンヴァールの方を見た。
ゼンヴァールはゆっくりとカルミスの方へ降りてきた。
「まさか貴様から来るとは思わなかったぞ……心なしか魔力が弱くなっているのではないか? 」
「……相変わらずの減らず口ね……あの頃の決着を付けるわよ……! 」
そう言うとカルミスは両手を上に掲げ、 魔法陣を展開した。
するとカルミスの周囲に無数の光の槍が出現した。
カルミスがゼンヴァールに向かって指を差すと光の槍はゼンヴァールに向けて一斉に飛んで行った。
「またその魔法か……もう見飽きたぞ……」
そう言うとゼンヴァールは飛び上がり、 光の槍をかわしながら黒い炎の槍を出現させた。
そしてゼンヴァールは黒い炎の槍で光の槍を打ち消した。
「……私だけじゃ時間稼ぎにもならないか……せめてクローロがいれば……」
カルミスがそう言った瞬間、 ゼンヴァールはカルミスの目の前に瞬間移動してきた。
ゼンヴァールはカルミスの首を掴み、 持ち上げた。
「ぐっ……防御魔法が……効いてないなんて……」
「こんな薄い防御壁など簡単に破れるわ……」
そしてゼンヴァールはカルミスの首を折ろうとした瞬間、 二人の間に空気の刃が飛んできた。
ゼンヴァールはカルミスの首から手を離し刃を避けた。
「……わざわざ東の果てから来るとはな……」
「はぁ……はぁ……全く……遅いわよ……」
「悪い、 瓦礫が邪魔だったものでな……」
聞き覚えのある男の声と共に刃が飛んできた方向から現れたのはクローロだった。
クローロは片手に白い剣を持っていた。
「さて……イージス殿が来るまで時間稼ぎだ……」
「えぇ……」
そしてクローロとカルミスはゼンヴァールに攻撃を仕掛けた。
ゼンヴァールは二人の攻撃を片手ずつ捌いていった。
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・
・
…………
その頃、 イージスは……
「……」
黒こげの更地となってしまったカロスナの前に来ていた。
……俺は……ゼンヴァールに勝てるのだろうか……ゼンヴァールは圧倒的過ぎた……
イージスはゼンヴァールの元へ行くのを恐れていた。
でも、 このまま逃げるわけにはいかない……俺は前のような臆病者にはならない……!
イージスは前世の自分から変わろうと必死になっている時、 ヒュリスの言葉を思い出した。
『……自身の心に在る影を受け入れるのです……決して否定し、 拒絶してはいけないのです……』
「……自分の心の影を……受け入れる……」
……駄目だ……意味が分からない……ヒュリス様は俺の剣と心が導いてくれるって言ってたけど全然分からない……
そんなことを考えながらイージスは目の前の景色を見た。
「……こんなことしてる場合じゃない……皆を殺されたんだ……これ以上犠牲は出させない……! 」
そう言ってイージスは自分の中で渦巻く思いを振り切りゼンヴァールのいるヒュエルへ向かった。
…………
ヒュエルでは……
「っ……! 」
「……イージス殿はまだ来ないのか……」
カルミスとクローロは体力の限界に来ていた。
「なんだ……もう終わりなのか……? 」
するとゼンヴァールは空を見上げた。
「……そろそろ時間か……では……終わりを始めよう……」
そう言うとゼンヴァールは空高く飛び上がり、 両手を広げた。
次の瞬間、 空の色が暗くなり、 ゼンヴァールの上空に黒い玉のようなモノが出現した。
黒い玉は不気味な赤い光を放ち、 周りの空気を吸い込むように渦を作り始めた。
「……終焉魔法……滅黒点……この玉に世界中の魔力が集まりし時、 瞬く間にこの星を破壊する魔力爆発を起こす……」
「滅黒点……あれが完成してしまったら……」
「どうする、 もう俺達では手に負えないぞ! 」
カルミスとクローロがどうすることもできずにいると……
「……間に合わなかったか……ごめん……カルミスさん、 クローロさん……」
二人の背後からイージスが現れた。
「ふっ……逃げたかと思ったわよ……」
「あとは頼むぞ……」
そう言うとカルミスとクローロは転移魔法で避難した。
ジースさん……あれは……?
(終焉魔法、 滅黒点……世界中に存在する魔力を一点に集め、 放出する爆裂系の魔法です。 もし魔力爆発が起きればこの星は消滅するでしょう……)
そんな魔法が……集まるまでどれくらい時間がある?
(現在の魔力量から計測……残り時間、 約2時間です)
二時間か……それまでにゼンヴァールを倒さないといけないって感じか……
そしてイージスは背中の剣を抜いた。
「……ゼンヴァール、 来たぞ! 」
「ふむ……まさか本当に来るとはな……やはり所詮ダイアの子か……だが少し遅かった、 もう世界の終焉は始まっている……止めたくば余を殺すしか方法は無い……」
「……言われずとも……! 」
するとイージスはゼンヴァールの方へ空高く飛び上がり、 ゼンヴァールを斬りつけた。
しかしゼンヴァールの周囲には見えない膜のようなものがあり、 剣がゼンヴァールの体まで到達しない。
「くっ……! 」
「その程度では余に傷も付けられんぞ? 」
するとゼンヴァールの周囲に黒い炎の槍が出現し、 イージスに目掛けて飛んできた。
イージスは空中を飛び回り槍を避けていった。
「駄目だ……やっぱり歯が立たない……」
でも……やるしかない!
そしてイージスは槍を剣で弾き、 再びゼンヴァールに攻撃を仕掛けた。
次にイージスはいくつもの魔法を発動させ、 召喚獣達を全て呼び出し、 黒い鎖でゼンヴァールの動きを止めようとするなどと様々な攻撃をした。
「これでどうだ! ! 超位魔法、 ゴッド・オブ・ディストラクション! 」
ゴッド・オブ・ディストラクションは周囲の地形を破壊するほどの威力を持つ俺が作った爆裂系魔法、 ただ使うだけじゃ周囲を破壊してしまう……そこで着弾寸前で防御結界で閉じ込めてゼンヴァールにだけ爆発が当たるようにする!
そしてイージスは小さな光の球をゼンヴァールに目掛けて飛ばし、 ゼンヴァールの周囲に防御結界を作り光の球ごと閉じ込めた。
光の球は結界の中で爆発し、 ゼンヴァールの姿は煙で見えなくなった。
「まだ終わらないぞ! 」
そう言うとイージスは召喚獣達を一斉にゼンヴァールのいた方向へけし掛けた。
しかし……
「この程度か……」
煙の中からゼンヴァールの声がした瞬間、 煙の中から凄まじい爆風が発生した。
召喚獣達は爆風に触れた瞬間に灰となって全滅してしまった。
「威力こそ高かったが……余に傷を与えるまでは至らなかったようだ……」
「……ゼンヴァール……何故お前はそこまでして世界を滅ぼしたいんだ……」
戦いの途中にも関わらずイージスはふとゼンヴァールに聞いた。
さっきから気になっていた……何故ゼンヴァールは世界の脅威となってしまったのか……さっき受けた槍を見て感じたんだが……どうも変な感覚があった……戦いの途中だけど……これだけは聞いておきたい……何か理由があるはずだ……
するとゼンヴァールは気にする様子も無く答えた。
「……それは……余はこの世の全てに失望したからだ……」
ゼンヴァールは話した、 世界を滅ぼそうとする理由を……
続く……