第64話【剣を創りし者】
十二天星騎士団がルスヴェラートの住民を避難させている時、 メゾロクスにイージス達が帰ってきた。
『……お帰りなさいませ、 イージス様』
いつものように守護者達が出迎えた。
「……ただいま……」
イージスの視界にはもうミーナはいない……
……寂しいものだな……そして……静かだ……
何も言うことなく玉座に座ったイージスにレフィナスが話した。
「イージス様、 お話に聞いております……ミーナさんの事は……残念です……」
「もういいんだ……それよりもゼンヴァールの事についてだ。 皆はもう知っていると思うがズネーラによってケルトゥーンの街が破壊されてしまった……それで女神のヒュリス様と話す機会を逃してしまった……何か他にも女神と話せる手段は無いか? 」
今は落ち込んで立ち止まっている時じゃない……ここで止まっていたらミーナのような人たちが増えてしまうんだ……
イージスは立ち止まることはしなかった……ミーナがイージスに賭けた思いを無駄にしない為にも……
「……一つだけ……方法はある……」
守護者達が答えられずにいる中、 メゾルが口を開いた。
「本当か! ? 」
「うん、 でも……その為には膨大な魔力が必要になるの……街一つを動かせる程の魔力……」
メゾルの話によれば対象の魂を体に繋いだまま死後の空間へ送ることで女神ヒュリスと接触ができる装置を作れるそう……しかし、 その装置を動かす為の魔力の量は莫大であり、 街一つを100年は活動させられる程は必要なのだ。
街一つを100年か……そんな魔力量……いくら俺でもなぁ……
(主様の魔力量はメゾロクス王都を40年間活動可能にします)
それでも結構凄いな……しかしどっちにしろ足りない……
イージスが頭を抱えているとメゾルがイージスの剣を見て言った。
「イージス様、 その剣……少し見せてくれない……? 」
「ん? あぁ」
イージスは背中の剣を抜き、 メゾルの目の前まで持ってきた。
すると剣をしばらく眺めたメゾルは驚いた。
「これは……一体何で出来てるんだろう……普通の金属じゃここまでの魔力濃度は出せない……それにこの硬度……一体どこでこんな……! 」
驚くメゾルに続いてアルゲルもイージスの剣を凝視した。
「……確かにこの金属……この世界に存在しないものだ……」
するとメゾルがイージスに迫ってきた。
「イージス様、 その剣を貸して頂けませんか! ? 」
「えぇ……残念だけど貸したくてもこの剣は俺にしか持てないみたいなんだ……」
「なら、 装置が完成し次第イージス様の手でその剣を装置に使って頂ければ……! 」
まさかできそうなのか……?
するとメゾルとアルゲルが研究所へ向かおうと玉座の間を飛びだそうとした。
「ちょっ、 できそうなのか! ? 」
イージスが聞くとメゾルは振り向いて答えた。
「イージス様の剣……少なくともこの世界のバランスを崩壊させかねない程の魔力量がある……でも、 何かしらの力が働いていてしっかり制御ができている……装置でその剣から出す魔力量を調整できれば……もしかしたら……」
「……そうか……とにかく今は時間が少ない……可能性があるなら、 早速頼む! 」
「はい! 」
そしてメゾルとアルゲルは玉座の間を後にした。
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メゾルとアルゲルが出て行った後、 イージス達は話をした。
「そうだ……ガムール、 ズネーラと接触したみたいだな……」
「はい……しかしながら……」
ガムールはうつむいた。
……ズネーラ……瀕死になったガムールを殺さなかったのか……
イージスはズネーラの人間らしさを僅かながら感じた。
「ガムール……この国を守ってくれてありがとう……」
「……いえ……勿体なきお言葉……」
……今のガムールにはこの言葉が最善……か……
そしてイージスは別の話に移った。
「それで……今のメゾロクスで異常は? 」
「はい、 警備も何も問題はありません。 依然としてメゾロクスはゼンヴァール襲撃に備えて防御を固めております」
レフィナスがそう言うとフォルドゥナが口を開いた。
「イージス様、 これは別件なのですが宜しいでしょうか? 」
「あぁ、 何だ? 」
「現在勇者達が魔王討伐の為に裏世界へ向かったという情報がありましたの……恐らく勇者達が帰還するのは……二週間後かと思われますわ……」
それを聞いたイージスは少し疑問に思った。
「ちょっと待てよ……何故二週間後だって分かるんだ? 」
「恐らく魔王は大人しく勇者に命を差し出すと思われますの……イージス様という存在が現れた以上、 ゼンヴァールを倒す最後のチャンスですから……きっと魔王はイージス様に託すと思われますわ……」
なるほどなぁ……今までの魔王軍からの襲撃を考えると確かに辻褄が合う……多分だけど俺を試していたんだろうな……でも……
「……にしては二週間は長いと思うんだけど……魔王との戦闘が無いとしたらすぐにでも帰って来られるはず……」
「実は裏世界と現実世界とでは時間の流れが大きく異なるんですの……裏世界ではしばらく魔物との戦闘、 及び移動時間を合わせても数時間……そこから現世の時間を考えると二週間が妥当な答えになるかと……」
裏世界ってそんな場所なのか……本当に二週間後にバアル達が帰ってくるとしたら……結構時間が無いのかもしれないな……
あまり余裕が無いと感じたイージスは立ち上がった。
「ラム、 早急に他の国に知らせてくれ、 ゼンヴァールが目覚めるまで少なくとも一ヶ月も無い……急いで住民の避難を開始した方がいいと……」
「承知致しました……では、 行って参ります」
そしてザヴァラムは姿を消した。
さて……あとはメゾロクスだな……頼んでいた避難所は完成したのだろうか……
「レフィナス、 前に密かに頼んでおいた避難所はどうなっている? 」
「はい、 もう完成しております。 後は資材と一緒に住民を運び込めば避難完了です」
「よし、 住民の避難を開始しよう! 残った守護者達はメゾロクスにある街や村を回って住民に避難を促してくれ! 」
『はっ! 』
そしてメゾロクスの避難を開始された。
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一週間後、 メゾロクスの避難は完了間近になった……
「あとは資材を運び込むだけか……」
しかし守護者達の働きぶりには驚かされてばかりだ……数千万はいようという住民をたった一週間で全員地下の避難所へ転移させてしまうなんて……
イージスは改めて守護者達の凄さに感心した。
するとイージスの前にレフィナスが現れた。
「イージス様、 アルゲルとメゾルがお呼びです……今すぐに研究所へ来て欲しいとのことです」
……例の装置が完成したのか……流石天才二人組……こんな短い期間で……
「分かった、 ありがとう」
そしてイージスは研究所へ向かった。
…………
メゾロクス魔法研究所にて……
「アルゲル、 メゾル、 完成したのか? 」
研究所の前でアルゲルとメゾルが待っていた。
「はい、 あとはイージス様の剣で装置を起動すれば……」
そう言われてイージスは研究所の地下深くへ案内された。
「……これが……」
地下深くの広い空間に出るとそこには巨大な柱のような建造物が佇んでいた。
その柱の下にはイージスの剣が丁度刺さる大きさの穴があった。
「イージス様、 これが女神との接触を可能にする装置です……あとはここにイージス様の剣を刺せば起動します……」
「よし……早速始めよう……」
そしてイージスは装置に剣を突き刺した。
すると装置の至る所から光が漏れだし、 装置の真下にあった台座が輝き出した。
それを見たアルゲルとメゾルは驚愕した。
「凄い……これほどまでの魔力量……この剣のどこに……」
「こんな凄まじい剣……一体誰が……」
この装置……本当に動かすのが難しいんだな……
イージスはそう感じながらも台座に上がった。
「ではイージス様……その台座にある椅子に座って下さい」
アルゲルにそう言われ、 イージスは台座にあった椅子に座った。
するとイージスの意識は薄れ、 眠るように意識を無くした。
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『……ス……ージス……イージスさん……』
聞き覚えのある女性の声と共にイージスは目を覚ました。
「はっ……! ……ここは……」
俺が死んだ時に来た場所……装置は成功したのか……
イージスが辺りを見渡すと目の前にはあの女神、 ヒュリスが立っていた。
ヒュリスはイージスとの再会で少し嬉しそうな顔をしていた。
『良くぞここへ……クーランデルタが崩壊してしまった時はどうしようかと思いましたよ? 』
「ヒュリス様……そうだ! 貴女に聞きたいことが! 」
イージスが慌てるとヒュリスはイージスを宥めた。
『慌てなくても大丈夫ですよ……今は現世の時間は止めてありますから……』
「そ……そうですか……」
するとヒュリスはイージスを連れて歩き始めた。
『それで……ゼンヴァールの弱点を聞きたくてここへ来たのですね……』
「はい……やっぱり何か知っているんですか? 」
イージスが聞くとヒュリスは黙ったまま歩き続けた。
……何か見せたいものでもあるのか……?
しばらく黙ったまま二人は途方もなく続いていそうな空間を歩いていると……
『……見えてきましたよ……これを貴方に見せたかったのです……』
「え……? 」
ヒュリスにそう言われ、 イージスは前を見ると……
「これって……」
そこには見たことも無い美しい光景が広がっていた……
真っ白なオーロラのような光るオーラと、 黒く燃え盛るような不思議なオーラが螺旋を作るように上下にどこまでも伸びている柱のようなものを作り出し、 それを中心に無数の不思議な色をした光の球が舞っている……辺りには見たことも無いような形と色の透けた植物も生えており、 地面が見えないのにまるで地面があるかのように生えている。
「凄く綺麗だ……何と言うか……凄く不思議な気持ちになる……」
『えぇ……私も初めて見ました……』
「えっ……じゃあヒュリス様……これは一体……」
『……貴方が持つ剣……その力の源となった存在が創った……この世の全てを可視化したモノです……』
剣を作った人が創ったもの! ?
『本来……私のような許可のされていない者は……例えそれが神々であっても見ることは絶対に不可能なのです……しかし……イージスさん……貴方は選ばれた者……この世の全てを創造し、 支配している絶対的存在が創りし剣に認められた者……その権利は……貴方をここへ導いた……』
でも……なんでここへ……
イージスが疑問に思っているとヒュリスは答えた。
『イージスさん……あの柱を見て下さい……あの螺旋は光と影の調和を意味しているのです……この世は光無くして影は生まれず……影無くして光も生まれず……二つはバランスを保ってこそ……この美しい光景を生み出しているのです……イージスさん……貴方は過去の自分という影を拒絶し……必死に自分を変えようとしている……しかしそれでは駄目なのです……』
「……」
ヒュリスの言うことは図星だった。
確かに俺は……過去の俺を否定し続け、 必死に今の自分を変えようとしてきた……
『……自身の心に在る影を受け入れるのです……決して否定し、 拒絶してはいけないのです……ゼンヴァールも元は正義感が強く、 勇者を志す人間の一人でした……しかし彼は人々から恐れられ……彼の優しさすらも拒絶され……否定され続けたことにより……影の中へと吞まれてしまった……結果的に……この世をも脅かす存在、 『邪神』に近い存在へと変貌してしまったのです……』
ゼンヴァールは……元々人間だったのか……! ?
ヒュリスは話を続ける。
『私の言う『邪神』は……あの邪神軍のような生易しいものではありません……この世の絶対的存在をも苦しめるほどに強大で……恐ろしい存在なのです……もとい……『全て』における『影』と言えましょう……』
「そんなの……どうやって戦えば……」
『ゼンヴァールはまだ不完全な『邪神』です……ですからまだ倒す手立てはあります……』
「どうすれば……」
『……影と光……その二つの調和を貴方の中に生み出すのです……そうすれば貴方はゼンヴァールには無い強さを手に入れることができます……しかしそれはすぐには不可能です……』
すぐには不可能って……もう時間が無いのに……
イージスの中に焦りが生じるとヒュリスは落ち着いた様子でイージスに言った。
『慌てなくても大丈夫です……光と影の調和は……貴方の持つその剣と心が生み出してくれます……貴方がその強さを……本当に必要とした時に……』
「……」
俺が……本当に必要とした時……
するとイージスの視界が歪み始めた。
「な……何だ……」
『私が貴方に教えられることはこれが全てです……』
「待ってください! 最後に聞きたい事が! 」
『はい、 何でしょう? 』
まだ聞けていなかった事がある……
「あの剣を創った人って誰なんですか……? 」
『……私達の『全て』の主……シュラス様です……』
シュラスって……やっぱりあの紙に書かれていた名前は……
イージスは砂漠の街、 ティタルでシューラに見せてもらった紙を思い出した。
シュラスさん……一体貴方は何を目的で俺に剣を持たせたんだ……
そんなことを考えているとイージスは意識を失った。
『英雄よ…………どうか…………希望に…………』
意識を失う直前、 途切れ途切れに謎の女性の声が聞こえた気がした……
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「……はっ……! 」
イージスが気が付くとそこは研究所の地下、 あの装置の台座の上だった。
……戻ってきたのか……
「イージス様、 早いお目覚めで! 」
「どうだったんですか! ? ゼンヴァールの弱点は……? 」
アルゲルとメゾルがイージスの元へ駆け寄ってきた。
「残念ながらゼンヴァールには弱点は無いみたいだった……」
「そんな……」
「だけど……勝てる希望はある……俺にはそれを実現する力があるそうだ……」
「左様……ですか……」
不安なのは仕方ない……だが今はヒュリス様の言葉を信じるしかない……
ゼンヴァールに勝つヒントを得たイージスは引き続き決戦に備えることにした……
続く……