第61話【滅びの斬跡】(後編)
ケルトゥーンの街にてイージスはズネーラと対峙し、 今までにない危機に直面していた。
「ぐぁっ! 」
ズネーラの攻撃を防御していたイージスは攻撃に追い付けず突き飛ばされた。
肋骨が折れたか……痛くて動けない……!
「中々しぶとい人間よ……だがここまでのようだな……」
そう言うとズネーラは宙に飛び上がり、 複数の槍を出現させた。
このままだととどめを刺される……でも体が……
(回復完了まで、 残り5分……)
くそ……心なしか回復が遅い!
イージスは追い詰められていた……
…………
同時刻、 ザヴァラム達はイージスを見つけた。
「いた! でも……」
「あれは……やばいんじゃないか! ? 」
「助けないと……」
一番早く動いたのはミーナだった。
「待ちなさいミーナ! 」
「待て! 」
ザヴァラムとヒューゴはミーナを止めようとするも間に合わなかった……
…………
そしてズネーラがイージスに目掛けて槍を飛ばした……
くそ……ここまでなのか……俺は……
イージスは死を覚悟し、 目を閉じた……
しかしいつになってもイージスの元に槍が飛んでこなかった。
「……ハッ……! ! 」
イージスが目を開けると……
「……グッ……ブハッ……! 」
イージスに覆い被さるように立ちはだかり、 背後から心臓を貫かれたミーナの姿があった……
ミーナは口から大量の血を吐き出しながらもイージスの方を見て安心した表情をした。
「……イ……ジス……さ……ん……よか……た……」
「あ……あぁ……」
イージスは何も言えなかった。
ミーナはズネーラの攻撃からイージスを守ったのだ……
ミーナ……そんな……
「どうして……」
「私の……使命は……イージ……ス……さん……を……守ること……だから……」
「だからって……そんな……! 」
するとミーナは涙を溢した。
「私……嬉しかったんです……仲間を失って……一人ぼっちになって……行く道を……失ってしまった私を……あなたは……拾ってくれました……本当に……嬉しかった……だから……ずっと……恩返しを……したかったんです……」
するとミーナは赤い炎に包まれ始めた……
そしてみるみる内に彼女の体は焼けただれていく……
「ミーナ……駄目だ……死ぬな! ! 」
傷が完全に回復できていないイージスは動けず、 叫ぶことしかできない……
「色んな冒険……して……皆で……笑い合って……私……幸せでした……」
「これからだってできる! 待ってろ、 今すぐ回復を……! 」
(呪いの効果により魔法行使ができません。 完全回復完了まで残り30秒……)
無情にもジースはそう告げる……
早く……早く……でないとミーナまで……!
するとミーナは両手で胸を抑える……
「こんな……形になっちゃい……ました……けど……イージス……さん……」
炎がミーナの体を完全に覆い尽くす寸前、 ミーナはイージスに優しく微笑み……
あの時……私を拾ってくれて……ありがとう……
ミーナは静かにそう言った……
その刹那……イージスの中でミーナとの冒険の日々が走馬灯のように蘇る……
時に笑い……時に悲しみ……時には喧嘩をする時もあった……
でも……その一つ一つの出来事全てが……彼にとっても大切で……かけがえの無い思い出だった……
また……誰かを失う……それも……次は大切な仲間である……ミーナまで……
嫌だ……失いたくない……
ミーナ……
「ミーナぁぁぁぁぁぁぁぁ! ! ! ! 」
イージスは必死に手を伸ばすも、 ミーナは炎に包まれ消えてしまった……
(修復完了しました……)
丁度その時イージスの傷が完全に回復した。
「うわぁぁぁあぁぁぁぁ! ! ! ! 」
イージスは泣き叫んだ。
しばらく地面にうずくまっていたがイージスは再び立ち上がり、 盾を剣に戻し構えた。
「……ほぅ……まだ向かうか……その覚悟、 実に気に入った……」
ズネーラも再び剣を出現させ、 戦闘体制に入った。
「目の前で仲間を殺されて……逃げる奴がどこにいる! ! ! 」
イージスは今までに無い程の怒りの感情が湧いてきた。
絶対に倒す……! !
イージスの表情を見たズネーラはフッと笑った。
「……そうだ……我を許すな……英雄よ……」
こいつ……一体何を考えてる……
そしてイージスとズネーラは再び姿を消し、 超高速での戦いが始まった。
ズネーラはイージスに向かって無数の剣を飛ばし、 それをイージスが弾く。
時にイージスがズネーラに斬りかかるもズネーラは素早く防御し、 反撃する。
数時間にも感じる程の激しい戦いは周りの地形にも刃の跡を残す。
「うおぉぉぉぉぉらぁぁぁ! ! ! 」
「そうだ……その勢いだ……我を殺してみせよ! 」
イージスの剣とズネーラの剣は激しくぶつかり、 お互いに弾き跳ばされた。
それと同時に動きを止めた二人は決着を付けようとお互いに構えた。
……ミーナの犠牲を絶対に無駄にしない……本当はゼンヴァールとの戦いまで使わないと決めていたが……この技を使う時が来てしまったみたいだ……
するとイージスはおもむろに背中の鞘を手に取り、 剣をゆっくりと納めた……
そしてイージスは剣を納めた鞘を腰に付け、 体勢を低くした。
それはまるで侍のような雰囲気を出していた。
「……その構え……やはりあの英雄の継承者だけにあるか……かつてこの世界に転生した人間の一人が残した完全無欠の超戦闘技術……その人間はそれを『抜刀術』と呼んでいたな……クローロやガムールもその使い手ではあったが……これ程までに凄まじい完成度は見たことない……見事だ……」
ズネーラはそう言うとガムールの時と同じように防御の構えを取った。
……母さん……力を貸してくれ……
「……剣技……末刃……」
次の瞬間、 イージスはズネーラの前から青い炎と共に姿を消し、 ズネーラの背後へ回った。
「神殺し……! 」
イージスはズネーラの背後から目にも留まらぬ速さで通過した。
剣はガムールの時と同じく天に向けて抜かれていた。
ただ違ったのはイージスがズネーラの背後にいないのにも関わらず青い炎と残像が残されていたのだ。そして……
「……」
ズネーラの防御した剣は二本ともズネーラの背中と一緒に斬られていた……
「見事だ……英雄よ……」
致命傷を負ったズネーラは武器を離した。
「……だが、 これでは我は死ねない……」
まさか、 まだ死なないのか!
イージスは驚き、 後ろを振り向いて剣を構えた。
しかしズネーラは何もすることもなく、 イージスの前で正座をした。
「……我の心臓に剣を突き刺せ……さすれば我の魂は破壊され、 肉体諸とも滅びよう……」
「! ? ……でもそんなことをしたら……」
「間違いなく我はこの世から消えるだろうな……だがそれでいい……」
ズネーラは空を見上げ、 言った。
「もう……疲れたのだ……悪として……人を殺めるというのも……だが我は自身でその身を滅ぼすことは叶わない……だからずっと探していたのだ……」
するとズネーラはイージスの目を見た。
「其方のような……英雄を……我を滅ぼし……滅びをもって罪を償わせてくれる者を……」
「ズネーラ……」
こいつ……いや……この人は……本当は普通の人として生まれたかったんだ……人生をゼンヴァールに奪われ、 悪を重ねることしか許されなかった魂なんだ……
そしてズネーラは
「さぁ……一思いに……」
と言い胸をイージスに差し出す。
イージスは少し躊躇したがズネーラの心臓部に剣を突き刺した。
「……礼を言う……そして……すまなかった……仲間を……殺してしまって……」
最後にそう言い残しズネーラは灰となって消えていった。
ズネーラが消えた後、 イージスは空を見上げ
「……俺は……あんたを許す……」
と言い、 ザヴァラム達の所へ戻っていった。
・
・
・
ザヴァラム達の元へ戻ったイージスは何も言うことなく二人を無視していってしまった。
「イージス様……」
「……そりゃああなるよな……実際俺もミーナが死んだって……実感が湧かねぇし……」
するとザヴァラムはイージスの元へ向かった。
「ヒューゴは避難者の所へ……」
「あぁ……分かった……」
…………
「……」
イージスは火の海となった街の中で一人項垂れていた。
そこへザヴァラムがやってきた。
「……イージス様……」
「あぁ……ラムか……済まない……ミーナを……仲間を救えなかった……」
ザヴァラムはイージスの顔に手を添えた。
「貴方の責任ではありません……全ての元凶はゼンヴァールにあります……」
「違う……俺の力不足だ……あの時……俺がもっと強ければ……もっと早く回復ができていれば……」
イージスは改めて自分の弱さを痛感した……仲間を守れない自分に哀しさと怒りを覚えた……
またしても俺は守れなかった……よりによってミーナを……
やりきれない後悔がイージスを埋め尽くす……
「イージス様……ミーナが貴方を救ったのはミーナ自身の意思です……ミーナは自身の死を覚悟の上で貴方を守ったのです……貴方はそんなミーナの死を後悔したままで終わらせるのですか? 」
「……それは……」
するとザヴァラムはイージスを抱き締めた。
「……ミーナが貴方に与えたのは後悔じゃない……ゼンヴァールを倒すという意志です……」
「ラム……」
そうだ……ミーナは俺のこんな姿は望んでいない……ミーナが紡いでくれた意志、 命……無駄にはできない……
「……そうだな……行こう……ゼンヴァールを倒す手段を知る方法は他にもあるはずだ……」
「はい、 行きましょう……」
その後イージス達は避難者達をルスヴェラートから救助に来た十二天星騎士団と話し、 救助者は騎士団に任せ一度メゾロクスへ戻ることにした。
…………
その頃……
『……ズネーラとヴァランデの気配が無くなった……信頼していた仲間がいなくなるというのは耐え難い悲しみに襲われる……』
一人の男が暗い空間の中、 玉座に座りながら呟いた。
『……いや、 元より余には信頼なんて言葉……無かったか……』
男はどこか悲しそうな声で言った。
すると男は立ち上がり、 片手に蒼黒い炎を出した。
『……さぁ……もうすぐだ……ダイアの子よ、 その剣と共に心をへし折ってくれよう……』
決戦の時は近い……
続く……