最終話【I am Aegis】
・
・
・
「……っ……ん? 」
ここは……どこだ……俺は確か……
小学生を助けて……
それで……
イージス……いや、 龍人が目を覚ましたのは病室のベッドだった。
そう、 龍人にはイージスだった頃の記憶は無くなったのだ。
すると病室へ様子を見に来た看護婦が龍人を見て驚いた様子で医師に知らせに行った。
その後すぐに龍人の通う高校の生徒達も集まってきた。
「龍人! 大丈夫なのか! ? 」
「俺は……どのくらい眠ってた? 」
「二ヶ月も意識不明だったんだ……」
そんなに眠ってたのか……でも……何か他に聞きたいことがあるはずなのに……何故か思い出せないというか……
そう、 クラスメイトも龍人と同様世界中の人間達の記憶から異世界に関する情報は全て抜き取られ、 改ざんされていたのだ……
ずっと……夢を見ていた気がする……とても楽しくて、 悲しい夢……
「大丈夫か? 龍人、 あんまり無理すんなよ? 」
「あ、 あぁ……」
その後、一ヶ月が経ち龍人は無事退院し、学校へも通い始めた……
俺……皆に嫌われてなかったんだな……勝手に嫌われていると思っていたのは俺だったのか……
あの事故以来、 龍人は以前よりも明るい性格になり、 心なしか心身共に強くなっていた。
・
・
・
その年の夏休み……
龍人は前以上に友達が増え、 家に友達を呼んでゲームをしていた。
「……うっひゃあぁ! やっぱり龍人には勝てないなぁ……流石は学校一のプロゲーマー! 」
「よせよプロなんて……」
「にしても本当にゲーム上手いよなぁ……なんつーか本当にゲームのキャラと戦ってるみたいな? 」
「あっ、 それ俺も思った! 龍人の動かすキャラって何故か魂が込もってるんだよなぁ」
龍人は学校では有名なゲーム上手として注目を集めていた。
「入院中はやること無さすぎたからゲームをやってて少し上手くなっただけだよ……俺みたいな人なんてどこにでもいるさ」
でも確かに……何故かキャラクターそれぞれの動きがゆっくりに見えるから素早く判断できるんだよなぁ……俺ってそんな動体視力良かったっけ?
「しかも龍人のゲームでの名前、 『イージス』ってさ……どうしてそんな名前にしたんだよ? 」
「分かんね……何故かこの名前がしっくり来るんだ……」
「ははっ、 何だそれ? 」
そんな何気ない会話をしながら龍人達はゲームを楽しんだ。
・
・
・
その夜……
龍人は夢を見た……
『イージス様……』
そう呼ぶ声と共に見覚えのあるような女性の影が見えた。
いや誰だよ……イージスって……
『イージスさん、 今日はどのクエストに行きます? 』
また声がした、 今度は少女の声だ。
目の前には白い魔法使いの帽子を被った少女の影が見えた。
何故だろう……この声を聞くと寂しくなる……
『早く攻略して飯食いに行こうぜ、 イージスさん! 』
次は少年の声だ。
背中に大きな剣を担いだ少年の影が見えた。
誰なんだ……誰だよ……イージスって……
「はっ! 」
龍人は目を覚ました。
「何で……泣いてるんだ……俺」
龍人は無意識に涙を流していた。
何か……大切な何かを忘れている気がする……
「……寝よ」
龍人はその日はそのまま眠った。
・
・
・
それから時が経ち……
5年後……
龍人は社会人となり、 安定した職業も見つけ引っ越しもしていた。
「はぁ……ただいまぁって誰もいないよなぁ~……」
仕事から帰った龍人はすぐにシャワーを浴び、 買ってきた弁当を食べながらパソコンに向かった。
今の龍人の趣味は小説を書くことである、 と言ってもさほど有名でもないネット投稿者である。
「はぁ……こんな日常を変えてくれる何かが起きたらなぁ……」
……そういえば高校の時もこんなこと言ってたな……それでトラックに轢かれたんだっけ……
そんなことを思い出しながら龍人は新しい小説のキャラクターを考えていた。
「うーん……もう思い付くものがなぁ……」
キャラクターの名前にしばらく考え込んでいた龍人はふとある名前が思い浮かんだ。
「ザヴァラム……」
いやいやこんなんヒロインの名前に合わないだろ……
他の名前を考えようとした龍人はザヴァラムという名前に引っ掛かった。
「……あれ……ザヴァラムってどこかで……」
すると突然龍人は無意識に涙を流した。
「えっ……何で……? 」
……疲れてるんだな俺……早く寝よ……
その日、 龍人はいつもより早く寝た……
・
・
・
翌日、 龍人は休暇で前に住んでいた街へ出掛けて散歩しながら遊び回っていた。
どうせなら友達でも誘いたかったけど皆忙しいみたいだしな……
「はぁあ……突然俺のタイプの美人が声を掛けてきたりしねぇかなぁ……」
なーんてそんな漫画みたいなこと起きねぇよな……
一人でそんなことを考えながら公園を歩いていると……
「あの……」
後ろから突然声を掛けられた。
「えっ、 はい? 」
龍人が振り向くとそこには夜空のような綺麗な黒色で長髪の女性が立っていた。
肌は透き通るように白く綺麗だった。
手には何か棒のような物を布で包み、 大事そうに抱えていた。それはまるで剣のような……
やっべぇ……俺のタイプじゃねぇかぁぁ……!!!
龍人は緊張した。
「道をお伺いしたいのですが……」
「あ、 あぁはい、 どこです? 」
龍人は女性が行きたい場所へ案内した。
・
・
・
案内した場所へ着くとそこは龍人がかつて通っていた高校だった。
こんなところに用があるのか……新人の先生か? それとも誰かの親御さん?
「ありがとうございました! 」
「いえ……」
女性は龍人にお礼を言うと学校の方へ振り向き、 去ろうとしていた。
その時……
あの後ろ姿……どこかで……
龍人は女性の後ろ姿に違和感を覚えた、 そして……
「……! ! 」
龍人は何かを思い出した。
龍人から見て女性の後ろ姿がザヴァラムの後ろ姿に見えたのだ。
「……ラム……? 」
無意識に出た言葉に女性は突然足を止め、 驚いた表情で龍人の方へ振り向いた。
「イージス……様……? 」
女性のその呼び掛けに龍人は全ての記憶が蘇った。
そうだ……そうだった……俺は……!
仲間との大切な思い出……今まで戦ってきた強敵達……そして忘れていた愛する人……龍人は全てを思い出した。
すると女性は龍人に再び聞いた。
「イージス様なのですか……! ? 」
それに対して龍人……『イージス』は……
「あぁ……俺は……『イージス』だ……! 」
それを聞いた途端に女性……ザヴァラムはイージスの方へ駆け寄り、 泣きながら抱き付いた。
もう二度と離れないように、 強く、 そして優しく……
……イージス様……守護者ザヴァラム……今ここに……
…………
ヴェルゾアにて……
イージスがヴェルゾアから立ち去り、 それから数年の時が経った……
世界には相変わらず魔物は蔓延っており、 新たな魔王と勇者も現れていた……
その頃、 メゾロクスにて……
「今日も問題は無いな? 」
「警備は大丈夫です」
メゾロクスの警備をしているロフィヌスにガムールが話し掛ける。
「しかし……あれからもう10年か……」
「早いですよね……」
「あの時……ザヴァラム殿がいなければどうなっていたか……」
「……」
この時、 ヴェルゾアの人間達は全て記憶を書き換えられ、 世界に終焉をもたらす存在を倒したのはザヴァラムであり、 何時しかザヴァラムは果て無き旅へ出たということになっていた。
勿論、 ゼンヴァールの事は何も覚えてはいなかった……そしてイージスの事も……
「……でも、 何故でしょうね……ザヴァラムさんの他にも……誰か……大切な方がいたような感覚が捨てきれません……」
「奇遇であるな……俺もだ……その方の為に……この国を守っているような……そんな感覚だ……」
ガムールとロフィヌスは高台からメゾロクスの景色を見ながらそう呟いた。
…………
メゾロクスの王城にて……
「……」
フォルドゥナは書庫で本を読んでいた。
「フォルドゥナ、 また読書ですか? 」
レフィナスが書庫に入ってきた。
「もうやることは済ませてありますの……何をしたっていいでしょう? 」
「構いませんよ……」
その後お互い黙り込んでいた。
「……レフィナス……」
しばらくしてフォルドゥナが口を開いた。
「何ですか? 」
「……誰か大切な人を失って……それが誰なのかを忘れてしまったとき……貴女はどんな気持ちになる……? 」
「……そうですね……私は……心にぽっかりと穴が空いてしまった……そんな感覚になりますね……」
「貴女も今そんな気持ちで……? 」
「えぇ……」
そして二人は再び黙り込んで読書を始めた。
…………
メゾロクスの研究所にて……
メゾルとアルゲルはいつものように魔道具の研究をしていた。
「……」
「……ねぇ、 アルゲル……」
メゾルが話し掛けた。
「……何だ……」
「こうして私がここにいることができたのって……誰のお陰だったけ……」
「……それはザヴァラムがお前を連れてきてやったからだ……」
アルゲルは迷いもなくそう答えた。
しかしメゾルは納得できないような表情をした。
「……おかしい……私を連れてきてくれたのはザヴァラムじゃなくて……他の誰かだったような感覚がある……」
メゾルがそう言うとアルゲルは作業をしたまま言った。
「……我も……ザヴァラムではなく……他の誰かに忠義を誓っていたような……そんな感覚がある……」
「……」
そんな話をした後も二人はいつものように作業を進めた。
…………
ルスヴェラートの首都、 ヒュエルにて……
「今日もお疲れさん! 」
「お疲れ様」
ヒューゴ……そしてミーナが酒場で食事をしていた。
「しっかし今日のドラゴンも強かったなぁ! ミーナの防御魔法が無かったらどうなっていたか」
「ヒューゴ君の力も無かったら私だってどうなっていたか分からないよ……」
二人はあの戦いから10年経ち、 すっかり大人になっていた。
今ではダイヤ等級の冒険者として名を馳せており、 今や世界の英雄である。
「まさか俺達がダイヤ等級の冒険者になる時が来るなんてなぁ……感慨深いぜ」
「ここまで来るのに色んな冒険してきたものね……」
そんな話をしていると二人は突然黙り込んでしまった。
しばらくしてヒューゴが話し出した。
「……でも……何だろうな……俺達がまだ子供だった時……一緒に冒険をしていた人がいた気がしてならねぇんだ……この剣だって誰から貰ったのかも忘れちまったし……」
そう言いながらヒューゴは側に立て掛けてあるザヴァラムの大剣を見た。
「……」
この時、 ミーナだけは覚えていた……イージスとザヴァラム、 メゾロクスの皆との記憶を……今の自分がいるのはイージスの願いのお陰であるということを……
「……そうだね……とても強くて、 優しくて……私達の憧れだった人がいた……そんな感じ……」
そう呟いた瞬間、 ミーナは涙を溢した。
「ど、 どうしたミーナ! ? 」
ヒューゴは心配したがミーナは涙を拭い
「大丈夫……目にゴミが入ったみたい……」
と見え透いた嘘をつき、 席を立った。
「行こう、 まだまだやることはあるよ! 」
「……そうだな! 」
そしてミーナとヒューゴは酒場を後にし、 ギルドへ向かった。
…………
ルスヴェラートの王城にて……
「……以上が本日の報告であります」
「うむ……ご苦労、 下がって良いぞ」
『はっ! 』
十二天星騎士団はいつも通りやるべき仕事をこなしていた。
「ふぅ、 今の新しい王は中々厳しいな……」
「仕方あるまい、 元々それが普通だからな」
エルセとグランはそんな話をしていた。
騎士団の皆は全員メゾロクスと関わった記憶も全て消えていた。
「さて、 無駄話をしてる暇は無いぞ! まだ仕事はあるからな」
アリアスが前に出て皆に促した。
「そうだな、 俺達はやることをやるだけだ」
「行こうか」
十二天星騎士団は今日もルスヴェラートの平和を守っている。
・
・
・
世界中の誰もが忘れてしまった……
イージスが世界を守ったという事実を……
あの戦いで失った命もミーナ以外は戻ることはなかった……
しかしこの話はおとぎ話として一生受け継がれる物となり、 人々の心に希望を抱かせていた。
…………
アルメナルダの大図書館にて……
一人の少年がおとぎ話の本を読んでいた。
「……すごーい……みんなつよかったんだぁ……」
その本にはこう記されていた。
『昔々、 世界にゼンヴァールと呼ばれる偽りの神が存在した……偽りの神は世界に終焉をもたらし、 多くの命を奪ってきた』
『しかしそこに英雄が現れた、 英雄はたった一つの武器を手に仲間と共に偽りの神に挑んだ……戦いは世界を揺るがし、 いくつもの国が滅びかけた』
『激しい戦いと多くの犠牲の末に英雄は遂に偽りの神を打ち倒した』
『その後英雄は自分のいた世界へと戻っていった……世界中の人々から絶望の日々を忘れさせ……』
『その英雄は幻となってしまったのだ……しかし英雄は悲しんではいなかった……英雄は希望となったのだ……希望となることを望んでいた英雄は何一つ未練は無かった……』
『しかしそんな英雄はかろうじて人々の記憶の中で名前のみが残されていた……その名は……』
『イージス……』
そしてその本を読んでいた少年もまた、 イージスのような英雄を目指し、 冒険者を目指すようになるのだった……
『英雄よ……希望であれ……』
本の一番最後のページにはそう書かれていた……
「I am Aegis」完結……
The next hero devours the soul……
to be continued……
ここまで読んで下さってありがとうございました。
これでI am Aegis は終わりとなります。
振り返ってみると始めたきっかけは本当に突発的で「ファンタジーな物語えぇやん! ワイも作ろ! 」という感じでしたw
そして段々書いている内にキャラクター達の持つ過去の話や本編に登場した「名無しの剣」にまつわる過去の話などのイメージがどんどん溢れてきました。
その感覚が楽しかったのもあり、こうして最後まで続けることができました。
勿論、自身が描いた物語を誰かが見てくれているという実感だけでもやる気に繋がっていました。
改めまして読者の皆さん、 ここまで読んで下さり本当にありがとうございました!
しかし、まだまだ名を持たぬ剣の英雄物語は続きます!
この小説を基盤にして今まで登場したキャラクター達の外伝なども投稿する事を考えています。
もしこの小説が気に入って下されば是非見て頂けるとありがたいです!
出来れば評価や感想もお願い致します……((ボソッ




