第67話【終わり】
遂にゼンヴァールを超える強さを手にしたイージス……
今、 決着の時が来る……
「……」
「……」
イージスとゼンヴァールはしばらくお互い睨み合った。
そして次の瞬間、 イージスはゼンヴァールから10メートル程離れた距離から拳を突き出した。
すると時間差でゼンヴァールの体に何者かにパンチをされたかのようなくぼみが出現し、 吹き飛ばされた。
(なっ、 何をされた……距離はあったはず……それにただのパンチでこの威力……! )
「まだだ……! 」
そう言うとイージスは片手を空に掲げた。
するとイージスの上空に無数の光る魔法陣が出現し、 そこから大量の光の剣が出現した。
光の剣はゼンヴァールに目掛けて飛んでいき、 追尾した。
「ぬぅ……舐めるなぁぁぁ! ! ! 」
ゼンヴァールはそう叫ぶと黒い輪のような物体を出現させた。
その輪を光の剣の方へ投げると輪は剣を破壊しながら反射するようにイージスの方へ飛んで行った。
輪がイージスに当たろうとした瞬間、 輪はイージスの前で消滅してしまった。
「あれだけ濃い魔力を消滅させた! ? 」
「ゼンヴァール……もう諦めろ……」
すると先程ゼンヴァールが破壊した光の剣は再び光の塵から収束し、 元の形に戻りゼンヴァールの方へ飛んできた。
ゼンヴァールは反応できず数本の剣に腹を刺されてしまった。
「ぐっ……まだだ……余は……世界に終焉を! 」
ゼンヴァールは刺さった剣を無理やり抜くと体の傷が治った。
……俺と同じスキル……不死身か……でも……そのスキルにも弱点がある……
(滅黒点が完成するまで、 残り5分……)
ジースがそう知らせるとイージスはゼンヴァールの方を指さした。
そしてその指を下へ向けた瞬間、 ゼンヴァールは凄まじい速さで地面へ叩き落された。
「がはっ! 」
(何が起きた……滅黒点によって辺りの魔力が乱れている……余に魔力干渉はできないはず……この力は……魔力ではない……! ? )
「……もう終わりにしよう……ゼンヴァール……」
イージスは静かにそう言うと手のひらに小さな光の玉を出現させた。
「……収束球……」
そう呟くとイージスは光の玉を落とした。
光の玉はゆっくりと下へ落ちて行き、 地上から数十メートル地点まで来た瞬間……
『っ! ! ! ! 』
まばゆい光が辺りを包み込んだ。
その光は世界中にまで広がり、 世界は真っ白な光に包まれた。
不思議と爆発や轟音などは発生せず、 ただただ辺りが暖かな光に包まれていた。
すると滅黒点は灰のように散らばり、 消滅してしまった。
収束球……全てを元に戻す『技』……これは魔力ではなく、 覇神の持つ『力』によって成される……そして……破壊された世界を……元の姿に……
しばらくして光は収まった。
「……」
光が収まるとそこに広がっていたのは元のヒュエルの街の風景だった。
それだけではない、 世界中の破壊されたありとあらゆる物全てが元に戻ったのだ……
そしてゼンヴァールは……
「ぐぅっ……あぁ……」
苦しみ悶える様子を見せている。
するとゼンヴァールの翼はボロボロに散ってゆき、 消えてしまった。
頭にあった光の輪もガラスのように砕け散り、 無くなった。
「……これは……何が……! 」
「お前を強くしていた力を消したんだ……もうあのような魔法は使えない……」
ゼンヴァールは全ての力を奪われてしまったのだ……かつての人間に……戻ったのだ……
「余の……負けか……」
「……もう決着はついた……終わりにしよう……」
そう言いながらイージスはゼンヴァールの元へ降りてきた。
地上に降り立つと同時にイージスの姿は元に戻り、 剣もイージスの手に握られていた。
「……余は……一体どこから間違っていたのだ……」
「……ゼンヴァール……お前の悲しみや怒りに間違いは無い……お前の正義に間違いは無い……でも……その怒りや悲しみを罪のない今を生きる人達に押し付け……この世界を滅ぼすのは間違っている……」
「……ダイアの子よ……余を滅してくれ……汚れてしまったこの心、 例え転生しようと消えそうに無さそうだ……ならばいっそ……」
その時、 ゼンヴァールは初めて涙を流した……
……ゼンヴァール……お前の人を救いたかったという思いに罪は無い……でも……お前は多くのモノを奪い過ぎた……
するとイージスは剣をゼンヴァールの心臓に突き刺した。
スキル……不死身の弱点……それは封印……スキルも使えなくなったゼンヴァールはもうただの人間と同じ……これで全て終わる……
「……ダイアの子よ……済まなかった……」
ゼンヴァールはそう言うと体がボロボロに崩れ、 消えてしまった……
「謝るのは……俺にではなく……この世界に……」
イージスは晴れた空を見上げ、 そう言った……
……終わったのか……遂に……
そしてイージスはメゾロクスの方へ戻ろうとした。
その時……
「イージス様ぁぁぁ……! ! 」
「……! ? 」
遠くからザヴァラムの声がした。
イージスが上空を見ると……
「イージス様ぁぁぁ! 」
ザヴァラムが慌てた様子でイージスを探して飛んできているのが見えた。
そしてザヴァラムはイージスに見つけると一目散に飛んできた。
「イージス様! ! 」
ザヴァラムはイージスに抱き付いた。
「ラム、 何でここに! ? 」
「それが……」
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数分前……
「くそっ! ! 」
ザヴァラム達はイージスの結界により避難所に閉じ込められていた。
(確かに私がいては足手まといかもしれない……でも……私はこの命に代えてでも貴方の側にいたい……お守りしたい……! )
「ザヴァラムさん……ここは大人しく待つ方が……」
ロフィヌスがザヴァラムを止めようとするも……
「分かっている! ! ……でも、 イージス様一人で危険な目に合わせる訳にはいかない! ! 」
ザヴァラムは諦めず結界を破ろうとした。
その時……
「……うわっ! ! 何だこの光! ! 」
ゼンヴァールの放った魔法による光が差し込んだ。
しばらくして凄まじい揺れが避難所を襲った。
しかしイージスの結界のお陰で出入口付近にいたザヴァラムとロフィヌスは無傷で済んだ。
「この爆発は……一体……? 」
するとイージスの張った結界がボロボロに崩れ、 消えてしまった。
「結界が……まさか……そんな! 」
イージスの危機を感じ取ったザヴァラムは慌てて避難所を飛び出した。
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「あの時……イージス様が死んでしまったのではないかと……」
「そうだったのか……心配してくれてありがとう……」
あの時俺は死にかけていたから結界が消えてしまったのか……
するとザヴァラムはイージスの胸に軽くパンチした。
「もう……あんな無茶は止めて下さい……私達守護者は貴方を守る為にいるのですから……」
そう言いながらザヴァラムは涙を溢した。
「……ご無事で……本当に良かった……」
「……」
「帰ろうか……ラム……」
「はい……! 」
そしてイージスとザヴァラムはメゾロクスへ戻った。
…………
その後、 世界中の避難は解除された。
世界中の破壊された街はイージスの力により元に戻されていたため復興まで時間はかからなかった。
そしてその数か月後……
メゾロクスの王城にて……
「イージス様、 行きましょうか……」
「おう」
この日、 イージス達はルスヴェラートに呼び出されていた。
ゼンヴァールを倒した功績によりイージスは表彰されることになったのだ。
俺はただ俺のしたいことをしただけなんだけどな……
そしてイージス達は馬車に乗りヒュエルへ向かった。
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数時間後、 イージス達がヒュエルに到着すると街中の人達が歓声を挙げた。
「今やイージス様は世界の英雄ですな! ハハハッ! 」
「……あぁ、 そうだな……」
イージスは素直に喜べなかった……
ゼンヴァールも……こんな風に皆から感謝されたかったんだろうな……
そんな思いがイージスの中にあったからだ……
そして馬車は王城に着いた。
『お待ちしておりました! 我らの英雄、 イージス様! 』
城の前では十二天星騎士団が待っていた。
そうだった……もうベルムントは……
数か月前にイージスはカルミスからの知らせで全て聞いていた。
「さぁ、 皆さまがお待ちです。 こちらへ……」
イージス達は騎士団に案内され、 玉座の間へ案内された。
玉座の間に着くとそこにはイージスが今まで出会ってきた人達が待っていた。
「皆、 どうしてここに! 」
「世界の英雄様が表彰されるんだ、 暗殺の依頼を受けてる場合じゃないだろう? 」
「このためにわざわざ図書館を休みにしたんだから……感謝しなさい……」
「勇者達がいないのは少し寂しいが……残った俺達だけでも祝ってやらないとな! 」
「遂にゼンヴァールを倒したんですね! 流石です! 」
「貴方を手助けしたこと……探偵として誇らしいです」
テルフォレーヌ、 カルミス、 クローロ、 フメラ、 へランデの他にもイージスのクラスメートやアルメナルダの魔法学園の生徒達まで来ていた。
皆来てくれたのか……
イージスが感激しているとあることに気が付いた。
「あれ……ドラゴンキラーの人達は? 」
この時、 イージスはドラゴンキラーのパーティが全滅していたことに気付いていなかったのだ……
イージスの質問にテルフォレーヌが答えてくれた。
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「……そうだったのか……皆……」
「気の毒だが……冒険者をしていればこんなことはしょっちゅうだ……」
ヴァランデに会っていなかったとは思っていたが……まさか……メルシャがな……
すると玉座の間に一人の青年が入ってきた。
「あの人は……? 」
「ハスマン様だ……ベルムント様の後継ぎとして任命されていたお方だ……」
なるほど……
そしてハスマンは玉座に座り、 隣にいた騎士に何か指示を出した。
「ではこれより、 英雄イージス様の表彰式を行う! イージス様、 こちらへ」
「……は、 はい」
……やべぇ……こういう式典ってどうするのが正しいんだっけ……確か漫画とかアニメで似た場面を見たことあるけど……えぇい、 もう成り行きだ!
こういった式典について何も知らなかったイージスはとりあえずハスマンの前に立った。
するとハスマンはフッっと笑った。
「なるほど、 世界最強の王たる者……たかが一国の王の前では跪かんということか……」
「え、 あっ、 申し訳ありません! 」
やっべぇ……すぐに跪かないといけないのかぁぁ……!
イージスは慌てて跪いた。
すると会場にいた人たちは笑い声を上げた。
「ハハハッ、 イージス様らしいですね! 」
「はぁ……何やってんだか……」
カルミスはため息を着きながら言う。
そしてハスマンは立ち上がり、 イージスの前に歩み寄った。
「この世界の偉大なる英雄、 イージス……其方には全世界の王族が感謝をしてもしきれぬ功績を残した。 この伝説は時代が変わろうとも永遠に語り継がれるであろう……そして今ここに、 ゼンヴァール討伐の功績を称え、 其方にこの勲章を授与する! 」
ハスマンがそう言うと一人の執事が勲章を持ってきた。
その勲章にはイージスの剣を模った装飾が付けられており、 虹色に輝く宝石がいくつも飾られていた。
ハスマンはその勲章を手に取り、 イージスの左肩に付けた。
それと共に会場で大拍手が巻き起こった。
「その勲章は世界に一つしか無い『覇剣の証』という物だ。 このためだけに世界中の名高い職人達に依頼し、 それぞれの部品を作らせ組み立てたのだ」
うわぁ……高級品だよ……
そしてその後もイージスは騎士に促され、 その場を退場した。
「それでは以上で、 表彰式を終わる! 偉大なる英雄に、 捧げ! 剣! ! 」
先程の騎士の掛け声と共に各国の騎士たちは剣を持った。
……これで母さんの夢も叶ったかな……
騎士達を見ながらイージスはしみじみ思った。
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式典が終わった後、 イージス達はヒュエル全体で行われる大宴会に参加した。
「……」
……とうとう世界最強の悪を倒してしまったんだなぁ……これからどうしよう……
イージスは街にある川の橋の上でボーっとしているとヒューゴが話し掛けてきた。
「イージスさん、 食休みか? 」
「あぁ、 ヒューゴもか……」
「……イージスさん、 これからどうするつもりだ? やっぱり冒険者を続けるのか? 」
「……そのことなんだが……俺……冒険者は引退するよ」
その言葉を聞いてヒューゴは驚いた。
「なっ、 どうして! ? 」
まぁそんな反応になるわな……
イージスは以前から考えていた……ゼンヴァールを倒した暁には自身はどのような道を歩むのか……
「俺……思ったんだ……これ以上の戦いはきっと意味なんて無い……今後も出てくる魔王や強い魔物は俺がいなくたって勇者を受け継ぐ人や冒険者達だけでも問題ない……」
「それじゃあ……イージスさんはメゾロクスの王様として今後は過ごすのか? 」
正直それも考えたけどなぁ……王様なんてものに俺には向いてないしなぁ……守護者達の方がよっぽど向いてる部分があるし……
「いや……メゾロクスの管理は守護者達に任せて、 俺は一人でどこかの原っぱで農業でもしながらのんびり過ごすかな……」
「そっか……だとしたら……俺達はお別れだな……」
「……そうだな……」
ヒューゴは少し寂しそうな顔をしていたがイージスの考えを否定することはしなかった。
皆と別れるのは寂しいが……ヒューゴはもう一人でも十分に戦える……俺がいなくても大丈夫……
すると二人の元にザヴァラムがやってきた。
「イージス様、 皆様がお待ちです」
「おう、 今行くよ……それじゃヒューゴ、 またな」
「あぁ」
そしてその夜は盛大に宴が盛り上がった。
…………
その頃、 ヒュリスは……
『……遂に成し遂げましたね……イージスさん……覇神の力を与えられし英雄……』
そう言いながらヒュリスは少し悲しそうな顔をした。
『……この世は時として……残酷な運命を突き付けてきますね……』
続く……