第58話【神との誓い】
勇者に剣を渡すためにサメルーニア王国へ来たイージス達は目的を果たした後、 サメルーニアの王城へ来ていた。
「次は……あなた……」
クリラはミーナとヒューゴの前世を覗き、 前世の力を引き出していた。
そしてクリラはミーナの前世を覗いた。
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視界に白いローブを纏った魔導士の少女の姿が映る……
ローブの中から横顔が見え、 その表情は少し悲しげだった……
少女の前には黒いローブを纏った男がいた……
二人は何かを話している……
『……~~……本当にいいのか……? 』
黒いローブの男は名前を言ったように聞こえたがよく聞こえなかった……
『……はい……これでいいんです……それでこの世が救われるなら……』
黒いローブの男は少女の顔に手を添えた……そしてもう片方の手には一本の剣を持っていた。
謎の男はその剣を少女に手渡した。
『……お前の運命に対するその覚悟……俺は忘れない……この剣を……頼んだぞ……』
男が渡したその剣は正しくイージスの持っている剣だった……
『……任せて下さい……例えこの身が滅びても……私は貴方との約束は守ります……』
少女がそう言うと男は黒い霧のようなものになり、 姿を消した……
男が姿を消した後、 少女は空を見上げた……
見上げた拍子に少女のローブの頭部分が取れ、 少女の顔がはっきりと見えた……
少女の髪は燃えるような赤い髪をしており、 瞳は片方が青く、もう片方は赤い色をしていた……
その少女の目からは涙が零れている……
『……この剣は私が守ります……そして受け継ぐべき者へ……』
そう言うと少女は剣を魔法の鞄にしまい、 空に向けて青い火の粉を飛ばした……それは彼女の涙を表し、 また……愛する者へ送る花のようだった……
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「……見えた……神との……約束を誓った……氷炎の魔導士……名前は……分からなかった……」
「……え……? 」
「あなたは廻るべくして廻った存在……覇神との約束を果たすために再びこの世界『ヴェルゾア』へ降り立った……」
この世界……ヴェルゾアって名前だったのかよ……知らなかった……
クリラは話を続ける。
「……剣を受け継ぎし者を守る……時が来たるまで……」
「時って……ゼンヴァールとの決戦ってことですか? 」
クリラは首を横に振る。
「……分からない……私の瞳は……全てを見れるという訳じゃない……」
「そう……ですか……」
そしてクリラはミーナに力を戻した。
ミーナの前世……名前は分からなかったみたいだが……俺の剣を守るという約束をしていた……しかも相手はあの覇神……
イージスは何気なくミーナの方を見るとミーナは自分の手を見ながら涙を流していた。
「ミーナ、 どうした! ? 」
「っ……ごめんなさい……何だか……とても切ない気持ちになって……」
するとクリラは話した。
「……彼女は……覇神を愛していた……それは神としてではなく……一人の人間として……今彼女に……前世の意思が……僅かに甦った……」
「……そうだったんですね……本当に覇神さんのことが大好きだったんですね……前世の私は……」
「ミーナ……」
ミーナは涙を拭き、 イージスに言った。
「私の使命はイージスさんを守ることらしいですね! 何かあれば私が守りますね! 」
「守護者である私を差し置いてイージス様を守ると言うなんて聞き捨てなりませんね……」
ザヴァラムは少し微笑んだ表情で言った。
「はは……守られる側にはあまり回りたくはないんだがなぁ……」
そんな話をしているとクリラは席を立ち、 部屋を出ようとした。
部屋をでる前、 クリラはイージス達に言った。
「……次は……クーランデルタに……行くと……いい……そこに……女神……待つ……」
「え! ? 」
女神って……あの時の女神様のことか! ?
そしてクリラは部屋を出て行ってしまった。
その後を追おうとしたが兵士達にクリラは仕事があると言われ、 会うことを許されなかった。
「……仕方ない……クーランデルタへ向かおう」
「そうですね……」
イージス達は仕方なくクーランデルタ帝国へ向かうため、 サメルーニア王国を後にした。
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クーランデルタ帝国へ向かう途中、 イージス達は道の途中にあるというシードゥーと言われる街で休息を取ることにした。
ここ最近休もうにも休めていなかったしな……二日くらい休むか……
「シードゥーなんて初めて聞く街ですけどね……」
「俺も初めて聞くぜ」
「二人も知らない街か……それはそれで楽しみだな……」
久しぶりに街の観光を楽しむか……
「イージス様……ゼンヴァールの配下がいつ襲って来るか分かりません……あの二人は私が護衛致しましょうか? 」
ザヴァラムが小声でイージスに話し掛けてきた。
ん? ラムから俺の側を離れるなんて珍しいな……あの日以来少し変わったのか?
「……あぁ、 頼むよ……」
「承知致しました……」
シードゥーへ向かう馬車の中でイージス達は話していた……
しばらく馬車に揺られているとシードゥーへ着いた。
「兄ちゃん達着いたで! シードゥーは特別な製法で作られた菓子が有名だそうだべ、 良かったら食ってみるといいべさ! 」
馬車の運転手がイージス達にそう話し、 シードゥーで馬車を止めた。
「ありがとう、 折角だし食べてみるとするよ」
そしてイージス達は馬車を降りた。
「ここがシードゥーかぁ……」
「綺麗な街ですね……! 」
シードゥーの街は白いレンガ造りの建物が多く、 夜でも街の明かりが反射してより明るく見えた。
「さて……今日はもう遅い、 宿を探そうか」
「そうですね……」
その日イージス達は宿で夜を明かすことにした。
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翌朝……
イージス達は各自自由行動として街を観光することにした。
ミーナとヒューゴの護衛はラムに任せてる……たまには一人で観光っていうのも悪くないかな……そういえば馬車のおっちゃんがお菓子について言ってたな。
食いに行ってみるか……
イージスは街の人に菓子について聞き、 その店があるという場所へ向かった。
その店に着くとミーナとヒューゴ、 ザヴァラムがいた。
「あれ、 皆もここに来てたのか」
「私達もお菓子を食べてみたくて……」
皆考えることが同じだった……
するとミーナが店の窓から外を見た。
店の前には海が広がっており、 太陽の光が反射して煌めいていた。
「わぁ……ここの景色も綺麗ですね……」
「おぉ、 確かに綺麗だ……」
おっと、 お菓子を食べに来たんだった……
イージス達は早速シードゥーで有名な菓子を頼んだ。
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しばらく店のバルコニーにある席で待っていると頼んだ菓子が来た。
「これって……バニラアイス……? 」
出てきたのは正しくアイスクリームだった。
そういえばこの世界に来てからアイスを見てなかったな……製法がまだ広まっていないのか……
ミーナとヒューゴの方を見ると二人とも目を輝かせてアイスを物珍しそうに眺めていた。
「これがこの街で有名なお菓子……」
「早速食おうぜ! 」
そしてイージス達はアイスを口にした。
……うん……普通のバニラアイスだ……でも久しぶりに食べたから何だかおいしく感じる……
ミーナ達はと言うと……
「……っ! ! 」
「うめぇ! ! 何だこの味、 凍らせた牛乳みたいだぜ! 」
うん、 ほぼそうなんだけどね……
イージスがザヴァラムの方を見ると……
「……」
スプーンを口に入れたまま静止していた。
「ラ、 ラム……? 」
「……人間が作った菓子にしては……中々……///」
ザヴァラムの好物がまた増えたようだ。
「アイスなんて久々だなぁ……」
「イージスさんこのお菓子食べた事あるんですか! ? 」
「まぁ随分昔だけどね……食べ物や飲み物を凍らせて作る氷菓子って言うんだよ」
「へぇ……」
そして三人はアイスを気に入ったらしく、 もう一つ注文して持っていくことにした。
さて……今度こそ一人で観光でもするかな……
イージスは店から見えていた海辺へ向かった。
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海からは潮風が吹き、 店から見た時よりも水面が煌めいているように見えた。
……綺麗だな……こんなじっくり眺めたことなんて無かったなぁ……
「……母さんが好きになった理由も分かるな……」
しばらくイージスは近くにあったベンチに座り、 海をただただ眺めた。
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数時間後……
イージスはいつの間にかうたた寝してしまっていた。
……こんなにぼーっとしたのいつぶりだろう……
目が覚めて海の方を見ると
「……おぉ……」
夕日で海が琥珀色に煌めいていた。
……寝すぎたかな……?
すると横からミーナが声を掛けてきた。
「イージスさん、 ここにいたんですね……」
「あぁ、 ミーナか……ラムとヒューゴは? 」
「二人は別の所で一緒にいますよ、 ザヴァラムさんにはイージスさんの所に行くと言っておきましたから大丈夫です」
「そっか……」
ミーナはイージスの隣に座った。
……やっぱりクリラに言われたことが突っかかってるんだろうなぁ……
イージスがそう考えているとミーナが話し出した。
「……私……後々死ぬ運命なんですかね……」
「……ミーナ……」
折角あの時……生き残ったのに……死ぬなんて嫌に決まってるよな……ならいっそ……
「もし怖いなら……俺達から離れて、 一人で冒険者をするというのも……」
イージスがそう言うとミーナは首を横に振った。
「私……覚悟を決めたんです……だからイージスさんと話したくてここへ来たんです……」
ミーナは話を続ける。
「確かに死ぬのは怖いです……あの時だって、 死ぬのが怖くて隠れる事しかできませんでした……でも……今は違います……」
するとミーナは立ち上がり、 イージスに正面を向いて立った。
「私には仲間を守れる力があります……そしてイージスさんには沢山守って頂きましたし……その姿に勇気を貰いました……」
ミーナはいつしか強くなっていた……勇者にも劣らない程の強い勇気を抱き、 死をも覚悟の上で立ち向かう意志を見せたのだ。
「今度は私にも……守らせて下さい……」
「ミーナ……」
……強くなったなぁ……最初合った時は本当に憶病だったのに……今じゃ死ぬかもしれない戦いにも挑もうとしている……とても十代の少女には見えない……
「……あぁ、 頼りにしてるよ……何かあったら守ってくれ……」
イージスがそう言うとミーナは嬉しそうに微笑み
「はい! お任せ下さい! 」
と言って胸を張った。
そしてイージスは立ち上がり、 ミーナと共に街を歩き回ることにした。
…………
「そういえばミーナ、 その手に持ってるのってもしかしなくても……」
イージスはミーナの手に持っているカップを指さした。
「え、 えへへ……病みつきになっちゃいました……///」
その言い方やめなさい……
「まぁ……いいがあまり食べ過ぎるなよ? 腹が冷えて後が大変なことになるんだから……」
「う……はい……」
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その頃……
クーランデルタ帝国にて……
「ここがクーランデルタ……あの女神と意思の疎通ができるとされる雄一の国……」
ズネーラが上空からクーランデルタの王城を見ていた。
「ゼンヴァール様のご命令で即刻滅ぼせと言われたが……ここにかの英雄……イージスがやってくるようだ……奴が女神に会う前に破壊してもいいが……その前に奴と一度戦ってみるもよし……か……だが、 一度奴とも会わなくてはな……」
そう呟くとズネーラはその場から姿を消した。
続く……