02.王女にして生きていること
朝から私の部屋には、担当侍女たちがやって来て、私を飾ってくれている。 初めては不慣れだったが、意外とすぐ、慣れた。 確かに前生の暮らしと比べると、裕福で飢えなく、創造主の話通り豪華な日々を暮らしている。 でも、こんな生活が続いてくるのが怖いときもある。 この甘い夢がいつか壊れるかもしれないって思うと私が王女に生まれたのもまだ信じられない。
「姫様、いつも美しいですね。姫様はソフィア女王様と本当に似ています。」
「そう、そう、この太陽を溶かしたようなこの美しい金髪、まるで人形が生きて動いているようにサフキュエル様が、魂をつぎ込んでつくったみたいんです。」
私は侍女の話にびっくりした。本当に私の外貌は創造主が自分の魂を削って、磨いて、創造した外貌だった。 創造主がそのようなことは言ったものの、まるでオリキャラを何時間も精魂を込めて作った人形ようだった。 甚だしくはこの顔を見ると心が乱れるから、私の部屋には鏡を置かない。私の表情が深刻なると、何人かの侍女たちがひそひそと話をした。
「君、そんなこと言うとどうするの!姫様の前で女王様の話をするなんて!!」
「わ…わ、私、知らないうちに口が勝手に....姫様、申し訳ございません!!」
髪を梳きながら、私は彼女に「大丈夫」という言葉だけを残したまま、部屋から出て広い宮殿を歩いた。そして廊下の中央に掛かっている母の肖像画で足を止めた。
子どものころの記憶はない。年をとると、自然に前生の記憶と創造主との契約が思い浮かれだ。 ぼんやりと私の母という人の肖像画を見ていた。みんな私が母に似てると言う。確かに、美しい金髪と青みがかった緑眼は彼女から受け継いだようだが... この顔は見れば見るほど創造主と似ていて気持ちが悪い。幸いにも創造主とは違って右目の下にぼくろがないということだ。
女王ソフィアは母だけど、私が生まれて2年後、原因が分からない病気で死んでしまった。だからか、母の記憶や思い出がなくて、家族というより、他人を見るような微妙な感じがした。 彼女の死には数々の疑問があった。毒殺とか、元来体が弱かったとか、暗殺とか、いろんな噂が飛び交った。結局、誰も彼女がどう死んだかは知らないという。私の父エノク王が一人で私を育てた。 まあ、乳母が私を育てたも同然だが、乳母は私が生まれてから新しく入った侍女だった。 たまに一人でいる乳母を見ると、何か冷たくて神秘な空気が漂っていた。それでも私を本当に愛されるし、実の母のように面倒を見てくれる。そして私の父はとても優しくて民に信頼される立派な王だ。13年前ソートフィルトは長い飢饉と雨不足から解放されてエノク王の政治に他の大陸との交流が活発になったという。こんな二人がいるから私は全然寂しくない。
そろそろ席を移して他のところに行こうかと思ったが、遠くからエノク王とその家臣ヴィクトル大臣が、私を見つけたのか手を振りながら近づいてきた。 あんなに走って来るほど急用なのか"と首をかしげた。
「ローズ!!私の可愛い娘、ここで何をしたかい?」
愛情が溢れる父エノクと隣では長い鼻ひげを触るヴィクトル大臣は私に礼を尽くした。
ドレスのすそをそっと握って、学んだとおりにあいさつをした。
「父上にご挨拶を申し上げます。ヴィクトル大臣も機嫌よろしゅうございますか。」
「オホ、ロザリア姫様がお会いしない間、とても美しいレディーに成長しましたね。そういえばもうすぐ14歳になるからお嫁に行ってもいいですね。 クハハハ!!!」
ヴィクトル大臣の不礼儀なうるさい笑い声は耳が痛くなるほどだった。ううぅ、あのおじさんまた始まるね。飽きもしないか、私はヴィクトル大臣が気に入らなかった。暇さえあれば、私を自分の一人息子と結婚させたいというのが目に見えたからだ。 それでも私は笑いながら応えた。
「ほほ、私は父上がそばにいらっしゃるなら十分です。そして私が何で嫁に行かなければならないんですか。夫になる人が私に嫁に来ないといけません。」
「私の娘が合うことだけ言うね!夫は自分で選ばなければならない」
「そうじゃん!いいえ、もちろんです。父上」
私の話にヴィクトル大臣が不愉快そうに咳を吐いた。そして、自分の欲望を露した。
「ふむ…あ、そういえば、うちの息子とも年が似ていて結構お似合いだと思います。」
「ええ?あなたに息子がいたのか?あなたが結婚しているなんて、驚いたな!ハハハ!」
『父上ナイス!!』って、ぷっと笑いが出るのを歯をくいしばって、心の中で私はくすくす笑った。
「冗談が過すぎます。陛下…」とヴィクトル大臣の額にしわが現れるのが見えた。自分の意中どおりにならないからだろう。
「私も今日初めて知りました。父上、後で私とお話しましょう。」
「そうそう、最近忙しくて私が気にしてくれてなかったねぇ。今日は久しぶりに食事でもしよう。」
「はいーでは、私はこれで失礼します。」
父上と話するのはいいが、創造主の次に嫌いなのがヴィクトル大臣だった。ヴィクトル大臣に向かって、丁寧に中間指を上げた。
今度は庭に向かった。ヴィクトル大臣は、私の行動が釈然としないのか眉をうごめいたが、何の返事もしなかった。
どういう意味か、一人で「うんうん」と音を立てながら、頭を転がすヴィクトル大臣を思うと、メシウマと思った。庭には赤いバラがいっぱい咲いていた 。バラを見ながら一人でくすくす笑っているうちに,後ろから誰かの足音が聞こえた。
後ろを振り向くと、うわさをすれば影がさすというか、ビクトル大臣の偉い息子『アヴァン・チェレスティア』だった。彼は私を見て照れそうに頬を赤くした。 ああ,気持ち悪い!
初恋をする少女のように私を眺めている彼を見ると吐き気がした。しばらくの間,私を黙って見ていたが,何か決心したように彼は口を開いた。
「ロ、ロザリア姫様! おはようございます! いや、はじめまして。わ、わた、私はア、アヴァンと申します。」
「あ、はい、よく知っていますよ。」
「私をですか?!至極光栄です。」
自分を知っているという言葉に、赤かった顔は耳まで赤くなって、まるで庭に咲いているバラのような色に染まった。
喜ばないでよ!!あなたのお父さんがしつこく私とそちらを結婚させたいから知っているのだけだからと!!そのような言葉が喉まで詰まってきたが、私は理性が存在する人間なので、自然に対話を続けていった。
「だって。とても有名でしょう。貴族の令嬢たちの間では噂が広がっています。冷徹で頭脳明晰で名門トラインウィングラデイスアカデミーを最年少で入学し、多くの女性の心をとらえたことは、風評として聞かれました。」
「恥、恥ずかしいです。そんなに偉い人ではありませんが、姫様にほめられるなんて家門の栄光です。」
飽きてしまった。私は彼に答えず、バラに目を向けた。彼も私についてバラを見上げ、明るい表情で一人で話を始めた。
「バラが好きですか?しかしそのそばに姫様がいらっしゃるならどんな花も姫様の美貌を見て恥ずかしいでしょう。バラより姫様の美しさに私は魅了されています。」
するとバラを一輪が折って私に出した。 私は折れてしまったバラを貰って彼の顔を見つめた。私がバラをもらうと、うれしそうに笑ってみせた。
「バラは美しいですね。皆、美しい花を愛してる。でも、茎があってこそ花もあるものですが、人々は花の華やかさだけを見て愛しています。アヴァンあなたは私の外貌だけをほめたたえて、私がどんな人なのか知りたくもないようです。これはあなたに差し上げるようにしましょう。」
まったくうんざりした。私が創造主の顔に似た姫に生まれてからみんな私の殻だけをほめたたえたり、料理の味を評価するよソムリエになったようにひたすら私の外観を評価された。
人は本能的に他人の容貌を見てその人を評価する。それはよく分かっていることだ。しかし、私はこの人生で誰も自分自身を認めてくれないという乖離を感じた。童話の中のお姫様たちはいつも美しく結局、姫の身分に合う隣国の王子とハッピーエンドの人生を生きていく。どうして姫は美しいしでなければならないのか...それが大嫌だった。女だから女の子らしさを強要され、その中で生まれた偏見が作り出した数多くのもののひとつではないかとふとそんな思いがした。私はアヴァンにバラを渡し、にっこりと笑いながら彼に両手の中指を持ち上げた。
ぼんやりと私の言葉を聞いていたアバンの目から急に大粒の涙がに頬を伝わって流れ落ちた。彼はすすり泣きながらバラを持っている右手の袖で涙を拭った。
「私が愚かでした。私が勝手に容貌を評価して姫様を判断しました。自身がとても恥ずかしくて涙が…」
「.....以外ですね、そんな言葉を聞いたのは初めてです。 私もあなたに対して分からないのに思ったとおりに判断しました。悪い人ではないから、お詫びします。」
私はアヴァンの純粋な姿に手を出して、握手を求めた。 彼も笑うのか泣くのか知らない顔をして手を握った。
「そう言えば、姫様、さっき私にされた行動の意味はどういう意味ですか?」
「え?あ...あ、それ、親友にする友情の標識みたいなものですよ!アハハ...」
アヴァンの質問に対し、当惑した私が急に考えた言い訳だった。私の言葉に感銘を受けたアヴァンはバラを握り、両手で中指を上げて、私に堂々と見せてくれた。
『なに···??このやろう今何やってんの?』
瞬間、理性を失ってアヴァンが胸ぐらをつかんだ。
『この子やっぱ気に入らない!!』
「ヒイィッ、姫様!どうしましたか!私の親しい友達ではなかったんですか?失礼でありましたらごめんなさい!」
今日一日は縁起の悪い日になりそうだ。アヴァンの悲鳴だけが静かに庭に響き渡った。
*
ロザリアが庭に向かうのを見て、ヴィクトル大臣はエノクにおべっかしていた。
「陛下、姫様がとても明朗で可愛いです。ははは、でも若いけど、母である、ソフィア女王様が懐かしいかもしりません···」
「確かに、そういうかもしれないね。ソフィアの肖像画をずっと見ていたから」
ヴィクトル大臣は言葉尻を濁しながら、そばでエノクの機嫌をうかがい、再び話しを続けた。エノクは煩わしいという表情が歴然していた。
「えへん、ほかでもなく、私の甥の仲にとても優しくて誠実で美貌がすぐれた子がいます。陛下はもうソフィア女王様が亡くなって久しいし、そして代を継ぐ王子様もいらっしゃるのがよくではないでしょうか。姫様にはお嫁に行けば終わりですが、せめて陛下の代を継ぐ方がいなければならないのでしょう。」
「また、その話か!!私はソフィア以外の女には興味がない、その話はやめさせよう。そして、後を引き継ぐひとはローズがあるのに、再婚なんかしなければならない?ローズはこの後を次いでこのソートフィルト帝国の王になるからその話はもうしないでくれ」
ヴィクトル大臣は自分の王が正気なのか疑った。代を継ぐ子が必要な状況で、あえて男の子ではなく女の子を王に育てるとは。 王が狂っていると思った。彼にとって女が政治をして王になるとはとんでもない話だ。
「うん…陛下、本当に今日は冗談が通り過ぎます。男でもなく女である姫様が王になるなんて。 今までこのソートフィルト帝国の歴史の中で、女性が王になったことは一行も書かれていません!!!」
激怒するヴィクトル大臣を気にせず、エノクは黙々と自分の意思を曲げなかった。
「どこかに[女性が王にならばいけない]という法が書いてあるわけでもないし、たとえそうだとしても私がその法律を消すだろう。ローズはきっと立派な王になるよ。 あ、もちろんその子が王になることが嫌だと言ったら、私は強要する考えはないけど、とにかく、そう分かってくれ。」
エノクは、不機嫌になっヴィクトル大臣の話を切って、執務室に戻った。ポツンと廊下に一人で残ったヴィクトル大臣は、沸き立つ怒りを抑え、不敵な笑みを浮かべた。
「ハハハハハハ!陛下その言葉をしたことを後悔することになりますよ。」