出会い 後編
「ど、どういうことだよ。そもそもなんで僕の名前知ってるんだよ。」
猫に今から協力しろと言われて、うろたえないはずがない。そもそもなんで僕の名前を知っているのかもわからず、問いかけた。しかし、猫は僕の疑問を無視して話を続けた。
「タイチは子どもの頃から、何度もこの神社にお参りしてくれとる。しかしな、そんな人間は近頃ほとんどおらん。なぜなら、人間の信仰を――」
「ちょちょちょ、ちょっと待って。だからなんで僕の名前知ってるんだよ!というかなんで僕が子どもの頃からこの神社に通っていることも知ってるんだよ!僕の疑問にも答えてくれ!」
この猫は僕のことを名前で呼び、子どもの頃から通っていることも知っているようだ。当たり前だが僕にはこの猫に面識なんてない。なぜ僕のことを知っているのか。
「はぁ、とりあえず人の話を聞かんか。・・・まあええわ。わしはこの神社に祀られている小判猫や。」
猫は呆れた顔でそう言った。そして小判猫と聞いて僕は即座に置物を思い出した。
「小判猫ってあの小判を持って右手を挙げてる置物みたいな?」
「わしを置物と一緒にするんちゃうわ!わしは力のある神やぞ!」
猫は得意げな顔をしてふんぞり返った。
「えっ、神様なの?」
「いや、実際は精霊に近いけど――」
神様なのか問い直すと顔を逸らしゴニョゴニョ言うので、何を言っているのかわからなかった。
「えっなに?」
「うるさい!とにかくわしは神なんや!」
聞き直したら怒られてしまった。なんて言っていたのだろうか。というか本当に神様なのか?
「まあとにかくわしはこの神社でお金を招くとされている小判猫として祀られ昔から信仰されずっとここにおった。やから、タイチが子どもの頃からずっとお参りしてくれてたのは見てたんや。ちなみに子どもの頃の〜〜〜とか〜〜〜も知っとるぞ。」
「うわあ!やめろよ黒歴史なのに!・・・でもなるほど、だから僕のことを知ってるのか。」
神様かどうかは置いといて、この猫は僕の子どもの頃の黒歴史を知っているから本当に見てきたのかもしれない。というか恥ずかしすぎる。
「そうや。で、最初に話を戻すけどな、近頃の人間でタイチみたいに信仰してくれるのは稀や。なぜなら害魔というやつが人の信仰心を抑えとるからな。」
「害魔?ってなにそれ。」
聞いたこともない言葉について記憶を探ったが、何も浮かんでこなかった。
「害魔は人の心に取り憑いて、人の信仰心を抑えよる物の怪や。わしら神道系の存在は人々からの信仰がないと生きていけん。害魔は神道系の存在を消そうとしとるんや。」
「そうなんだ・・・。じゃあ僕もその害魔に取り憑かれてるの?」
「いいや、不思議なことにタイチは害魔の影響を受けず取り憑かれることはないみたいや。やからこそ、タイチに協力を頼みたいんや。」
「さっきも言ってたよね、もし協力するとしたら・・・僕は何をするの?」
「害魔は、神社が置かれてる地域の人々に取り憑いとる。しかしそれとは別に神社自体にその地域の親玉が取り憑いとるんや。親玉を倒せばその地域の害魔は全て消える。この親玉を倒してもらいたい。」
「親玉って・・・、じゃあここも?」
「そうやよう気付いたな。ここも例外ではないんやが、こっちから手を出さん限りは向こうも出てきよらんから今はおらん。」
「じゃあ、倒すってどうすればいいの?」
「親玉と直接戦って倒すんや。わしが親玉を呼び出して戦うための武器をタイチに授ける。」
「それって怪我することもあるってこと?」
「そうやな。場合によっては死ぬこともあるかもしれん。」
「え、じゃあ・・・協力・・・したくないんだけど。」
死ぬという言葉を聞いて僕の脳内は嫌が応にも協力しない方に傾いた。
「なっ!怪我するのが嫌やからか!?」
「当たり前じゃん!僕はただの大学生で授業もあるし、怪我したくないし死にたくもないよ!」
「しかしな、タイチが子どもの頃から通ってた神社に祀られてるこのわしが危機なんやぞ!」
「知らないよ!そもそも急に現れて神様なんて言われて誰が信じるんだよ!」
「そんな・・・。ほんまに頼む。もうタイチだけが頼りなんや。」
そう言うと小判猫はうつむいた。初めてこの猫の弱っているところを見た気がした。少し罪悪感を感じてしまった。そして猫は続けて、ゆっくりとそれが本当に真実であるかのように言った。
「わしは今日で消える。タイチだけがわしの命綱やったんや。しかしもう限界が来とる。今、この神社にいる親玉を倒さなわしに明日はない。」
この猫が話したことが本当であるなら、もし協力しなければずっとお世話になっていたこの神社とこの猫を見殺しにすることになる。でも死にたくないなと迷っている時に猫は顔を上げ、続けて慈愛に満ちたような声で言った。
「しかしな、わしはタイチを子どもの頃から見守っとって、わしの子どものように思っとる。やから、わしもタイチをこの戦いに巻き込むのは本意ではない。もし死ぬのが怖いようなら怒ったりせんからこのまま帰ってくれ。」
それから数分の間アルコールがすっかり抜けた頭で僕は考え続けた。死にたくはない。そもそもこれは夢かもしれない。けどこの神社にはずっとお世話になっていて、これが夢でも現実でも僕が協力しなければこの神社と猫は死んでしまう。と色んなことを考えてそして決断した。
「やるよ!協力する!この神社にはずっとお世話になってるか――」
「ほんまか!ありがとう!ほんまに!」
僕が協力すると言った途端、猫は明るくなっていつもの口調に戻った。
「ほんなら今から害魔の親玉を呼び出すから頼むで!」
「ちょちょ、展開が早すぎ!せめてどうやって戦うのか教えてよ!」
「習うより慣れろやいくで!」
「まじかよ!」
最初の戦い編に続く




