26-1.お祝い事にピザを①ーまずは、トーストで
すいません、すぐにエピア回じゃなくなったです!
*・*・*
エピアちゃんが、もう最高に可愛くおめかししてから、私達は寮を出る事にした。
「ついていかなくても、大丈夫?」
「……大丈夫。私……いいえ、私とサイラ君の問題だから」
「わかった」
『でっふぅ!』
一緒にとは言わないが、見守ってて欲しいのならついて行く気ではいたが。
エピアちゃんが、自信を持って彼と向き合うのなら何も言わない。
ヌーガスさんに一声かけてからすぐに別れたけれど……本当に、勢いがすごいのかダッシュでサイラ君がいる厩舎に行ってしまった。
他にも、エスメラルダさんとか飼育員もいるけど。あの様子なら、多分大丈夫なはず。
エピアちゃん、決めたら即行動派なようだから。注釈に、勢いがないともあるが。
ひとまず、結果報告待ちになってる状態にはなったが、お互いに想い合ってるのだから成功しないわけがない。
きちんと話し合えば、きっと大丈夫。
だから、私もすべき事をしようと部屋には戻らずにお屋敷の一階に足を運んだ。
「シェトラスさーん」
『おじしゃーん!』
出来る事と言えば、料理だ。
だから、上司のシェトラスさんにまずは了解を得なくちゃならない。
服装が私服なので食堂側から声をかければ、シェトラスさんはすぐに出て来てくださった。
「おやおや、お昼にはまだ早いんだけども。どうかしたのかな?」
「いえ、ちょっとお願いが」
「お願い?」
「仕事じゃないんですけど、調理場と食材を使わせていただきたくて」
「休みの日なのに、新しいパン作りかい?」
「それもあるんですが、お祝いのために作りたいのがあって」
「祝う?」
本題を言っていないから、シェトラスさんにはピンと来ないようだけど。この人は口が固そうだし、言ってもいいかも。
「えっと……エピアちゃんとサイラ君が、多分付き合うかもしれないんです」
「…………ほぅ。エピアとサイラが? では、彼女が前髪を切ったきっかけも?」
「あ、それは多分違うんですけど。今日話し合うみたいなので、内緒でお祝いの準備とかしたいなぁって」
「…………それならば、チャロナちゃん。もうひと組、お祝いを追加してもらってもいいかな?」
「もうひと組?」
『誰でふかー?』
使用人同士さんで、誰か結ばれたのだろうかと思っていると。シェトラスさんはふふふ、と意味ありげに笑い出した。
「少し前に、マックス様がエイマーを連れて行ってね? 戻って来ないようだし、ひょっとしたら話し込んでるかもしれなくて」
「えええええ!」
『ふぉおおおおお!』
多分今日明日くらいには、悠花さん告白するだろうとは思っていたけども。
早過ぎやしないだろうか?
昨日は孤児院での行事があったからしょうがないけれど、今日即行動って!
私もあんまり他人の事は言えないけど、周りもなかなかに行動派が多かったようだ。
「君とマックス様は仲が良いから、ほとんど聞いてるかもしれないけれど。私もエイマーの事はずっと見守ってたからね? マックス様はあの通りのお方だから、きっとエイマーを頷かせてくれるだろう。だから、ちょっと前から二人のメニューだけでも何か変えてあげようかなと思ってたんだ」
「なるほど。了解しました!」
『でっふ、でっふぅう! ちゅぎは、ご主人様のば……ふご』
「私はとりあえずいいから!」
「おや、今可愛らしい事を耳にしたんだが?」
「い、いいい、今はまだ言えません!」
「はは、そうかい。とりあえず、私も手伝うよ」
なので、やるからにはとまずは自室に一旦戻ってコックスーツに着替えて。
調理場に戻って来たら、ロティとよく手を洗ってまずは生地の仕込みだ。
「今から作るのは、パン食の一つで『ピザ』と言うものを仕込みます」
「ピザ??」
「手づかみで食べれる、カレーパンやマヨコーンパンよりも。もっと豪勢な食事なんです。シェトラスさんには、トマトのソース作りをお願いしてもいいですか?」
材料と作り方を紙に書き、彼はざっと目を通しただけで理解してくれたのかすぐに材料を集めに行った。
私はその間に、ロティと生地作り。
「強力粉、砂糖に塩とイースト。オリーブオイルにぬるま湯!」
本場のピザとかと違って、パン屋の仕込みだから。
変換したロティの撹拌器に、計量した材料を全部入れて回すのみ!
「まとまったら、ボウルに入れて濡れ布巾をかけて」
少し日当たりのいい小窓の近くの台の上に置いておく。
ここから、倍に膨らむまで少し時間がいるので。
今のうちに、試しておきたいパンを作りに食パン保管スペースに!
貯蔵庫の一角を少々改造した食パン保管スペースとは、棚の一角を全部食パンにして。
布を敷いて棚の上に並べ、あとはシェトラスさんの結界を張ってあるだけ。
でも、この結界は許可されている人間以外は触れると電撃が走る仕組みになっている。
私とエイマーさん以外は、許可されていない。
盗み食い防止のためなので、いくら旦那様のカイルキア様でもダメだけど。彼の場合、まずシェトラスさんに聞くからそう言う事はないはず。
主に、食べ盛りの男性使用人さん達と、悠花さんへの対策だ。一回だけ、悠花さんが貪り食べた事もあったから。
前置きは長くなったけど、私には触れても害のない結界の中に入って、食パンを一本拝借する。
戻ってからは、シェトラスさんの側でいい子にしてたロティを呼んで、自分達の調理台に戻った。
「ロティ、ピザトーストで試作したいから。あとで、トースターじゃなくてオーブンに変わってもらえる?」
『あいでふ! ピザトースト! トッピングどーしゅるんでふ?』
「そのためなの。土台は違っても同じ小麦の食べ物でしょ? ソースはケチャップ、トマト、マヨネーズで試すけど」
『にゃ〜、おいししょーでふぅ〜』
「こらこら、まだ作ってもないんだから」
とりあえずは、サンドイッチのよりは厚めに食パンをスライスする。
シェトラスさんのトマトソースはまだだけど、先にケチャップとマヨネーズを用意し。ここで、シェトラスさんにも試食の事を話した。
「なるほど。そのピザと言うのは、具材を変えれば何通りもの種類があるようだけど」
「もう百は軽く超えます!」
『でっふ!』
「ひゃ、百以上??」
「私と悠花さんがいた世界では、国問わずの国民食の一つでもあったんで」
「ふむ。それならば、ソースはひとまず私のも含めて三種。そこから……私達のお昼ご飯も兼ねて、四か五種類に絞ろうか?」
「はい!」
ならば。用意する具材は一部を調理した以外は、ほぼカットするだけに済ませて。
出来上がったら、大容量オーブンを活かして、一種類を三人分焼く事に。
「ロティ、焼き時間はお願いね?」
『あいでふ〜!』
そうして、待つ事約10分。
一番目に焼いたのは、言うまでもなく!
「まずは、ミックスピザトーストです!」
焼き上がったのは、香ばしいチーズの香りとケチャップを少しアレンジしたソースの匂いが鼻をつく一品!
具材は、玉ねぎ、ピーマン、ベーコンとチーズ。
王道な感じだけど、日本人でピザと言えば。
家庭でも簡単に作れるこの組み合わせ!
「なんと食欲をそそるいい匂い! これは胃袋をかなり刺激してくるね」
「熱々のうちにいただきましょう!」
『ロティもでふ!』
「うん」
皿に一つずつ移し変えて、さあ食べようと思ったが。
食堂側から、大き過ぎるお腹の虫の音が響いてきた。
「…………すまない。いい、匂いがした、からだが」
音の主は、カイルキア様だった!
「おや、旦那様。お仕事がひと段落つかれたのですか?」
シェトラスさんがお皿を置いてから対応されたので、私からカイルキア様は見えない。
セルフサービスタイプの窓口って、大人二人分の幅だから遠目だと向こうが見えないからだ。
「仕事もだが……色々あってな。嗅いだことのない匂いだが、チャロナがいるのか?」
「ええ。マックス様やエピア達のために、お祝いの料理を振る舞いたいと今試作を」
「そう、か。それは……邪魔をしたな」
「あ、あの! 旦那様にも本番のは食べていただきたかったんですが。ピザトースト、召し上がられますか?」
あんなにもお腹を空かせていたのなら、是非とも食べてもらいたいもの!
私も窓口の前に立つと、カイルキア様はちょっとだけすみれ色の瞳を丸くされていた。
「……いいのか?」
「まだ試作はたくさん焼くので、大丈夫です!」
なので、私の分を差し出すと、カイルキア様は口を少し開けそうになったのをすぐに閉じた。
「…………席で、食べてくる」
そう言って受け取ってから、数分も経たないうちに。
おかわりが欲しい、と口の端にケチャップを可愛くつけてから空の皿を私に差し出してきた。
パン作り全然だと思ってたので、挟み込みました!
少し続きます!