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21-1.兄と呼ばれない(シュライゼン視点)

午後の更新、一時間早くお届け!








 *・*・*(シュライゼン視点)







 頭ではわかってる。


 いくら望んでも、呼ばれないのは。


 だけど、なんで!


 密偵部隊の一人でもあるシュィリンがマンシェリー(俺の妹)の幼馴染みで、すんなり『お兄ちゃん』と呼ばれてしまうんだ!


 しかも、カイルくらい滅多に笑わない男が綻んだ表情まで見せて!



(むむむ! 悔しいんだが、今は突撃出来ないんだぞ!)



 あんな安心しきった妹の表情を見て、家族関係なく、一人の人間として割り込むことなんて出来ない。


 が、タイミングは見計らって、わざと駄々はこねる予定ではいる。



「え、でもでも。なんで? なんで、セルディアスにいるの?」


「……俺は元々はここの孤児院に引き取られてたんだ。あそことは、交流があるのと出身だった関係で交換留学のようなのをさせられただけだ」


「あ、それで期限付き!」



 敬語抜きに話せるなんて羨ましいんだぞ!


 俺は構わないと思ってても、未だに本当の身分と家名を明かしていないし、家族とも言えてない状態。


 出自を知らない孤児院出の子が、王族とタメ口で話すのなんてもってのほか。普通ならそうだろう。


 だが、マンシェリーは本当は俺の妹で王女。


 しかも、直系なのに!


 一昨日の事件のせいで余計言いにくいと自覚した俺だが、こういう状況も歯がゆくて仕方がない。


 それに、ある意味のライバルが出来てしまったんだ。


 シュィリンには後でお説教なんだぞ!



「で、大人になる前とかに……悠花さんのお父さんが隠密さんに引き抜いたとか?」


「嬢ちゃんせいかーい!」


「あちきらもそうやで〜! ちなみに今幹部!」


「ほえー」



 ああ、感心する表情まで母上そっくりなんだぞ。


 こんな表情の変化が見放題なのは嬉しい事だが、今城で仕事に忙殺されている父上からの雷が怖〜い。


 今日の提案自体は俺だが、許可を出したのはもちろん父上。


 けど、先日はああ言っても使者のくだりを爺やが言わなければ、何が何でも付いて来る気満々だった。


 今は流石に、その考えを改めて仕事に専念するように爺やがホイホイ書簡の山を増やしているらしい。


 だから、俺は俺の処理出来る仕事を終えて今日を迎えた訳なんだが……父上来なくて良かったんだぞ。


 二人で、マンシェリーの満面の笑みを見たくなかった!


 家族以外の男に向けて!


 例え、恋心とかじゃなくても!



(ん? 恋心?)



 なんか引っかかった気がしたんだが、今は考えないでおこう。


 と言うのも、その考えの時一緒に浮かんだ……カイルがパンを貪り食べてる表情が、何故か過ぎったので。



「けど、すっごい出世だね! それに、昔は可愛いかったのに今は綺麗だし!」


「チャ、チャロナ!」


「そーやんね? 昔は可愛げあったのに」


「今は店一番の無愛想野郎だぜ? でも、店長に次ぐ人気ナンバーツーなんだよこれが」


「納得!」


「……しないでくれ、チャロナ」



 それよりも、もう俺は突撃するんだぞ!


 マックスが気づいて止めかけたが、もう俺の足は動いていた。


 背後が無防備な我が妹にタックルしてそのまま抱きつく!



「わっ!?」


「ずるいんだぞ、チャロナ! 俺のことをお兄ちゃんと呼んでくれなかったのに、シュィリンには簡単に呼んで!」


「び、びっくりした! シュライゼン様、急にどうしたんですか? あと、お兄ちゃんは呼べません。私市民ですもん」


「構わないんだぞ!」



 本人を除く全員がマンシェリーの本当の身分を知っているので、やっぱり他は黙ってしまったが。


 けど、妹と望んでたハグが出来て俺は嬉しいんだぞ!


 自分の婚約者とは久しくしていなかったが、女性の体は確かに柔らかい。


 ほぼペアルックにしてもらったメイミーお手製のコックスーツも相まってか、俺達は今兄妹に見られてるはず!


 実質そうなんだけど!



「構います! 私のような、出自もわからないただの小娘が、お貴族様の事をそんな風に呼んじゃ」


「じゃあ、マックスはー?」


「あたしはマブダチだからよ、シュラ!」


「うぅ……」



 同じ貴族でも、前世の繋がりがあるだけでも大違い……か。


 悔しいんだが、少し妹の頭をスリスリしてから離れた。



「うー……諦めないんだぞ」


「諦めてください」


「無理!」



 俺が本当のお兄ちゃんなのに!


 自分で決めたとは言え、遊び半分にも呼ばれないのもやっぱり辛いんだぞ!



「観念しなさいな、シュラ? チーちゃんは一度決めたら、ほぼ絶対覆さないわよ?」


「その挑戦乗った!」


「乗らないでください! 悠花さんも何言ってるの!?」


「こうでも言わないと、こいつ諦め悪いもの」


「えー……」



 諦めてくれ、マンシェリー。


 お兄ちゃん、実は父上似の頑固者だからな!



「あ、シュィリンとマックスは後で話あるんだぞ!」


「へーい」


「……わかり、ました」


「あ、その前にリンお兄ちゃんとお話ししたいです!」



 ダメ?と少し潤んだ目で見て来る女性は、妹関係なく破壊力凄いんだぞ!


 仕方ない……仕方ないんだが、幼馴染の再会とあれば無理もない。


 積もる話は多少あるだろうから、許可は出した。


 それよりも、今は子供達のために作るお菓子の下準備の続きだ。



「この芋まんじゅうは、私と悠花さんがいた前世の世界でも……一部の都市や地域で親しまれてるお菓子なんです。芋の角ばったところが、この世界で言う(オーガ)やゴブリンの角に似てるところから、『鬼まんじゅう』とも言われています」


「あ。あたし覚えてるわ〜。岐阜とか愛知の和菓子屋さんにあったやつね? 出張先の商店街とかで見かけたわ」


「うちは、お父さんが愛知の人だったから作ってただけだけど」



 今ここにいる全員が、マンシェリーの本来の身分だけでなく転生者である事を知っている。


 後者については、先にマックスが転生者であるのを伝え済みでいるからすんなりと受け入れられたが。


 シュィリンは、今マンシェリーに直接会ってどう思っているのだろうか?


 それも、あとで聞き出すつもりではいるが。



「ただ、鬼って言うと子供達が怖がるんじゃないかなって。だから、さっきは芋まんじゅうって言ったんです」


「うむ。冒険者に憧れている子も多いが、まだ小さい子も多いしね?」



 血気盛んな年頃の男の子はともかく、オーガの単語だけで泣きそうになる年代も多い。


 その年頃は戦争孤児は少ない方でも、身寄りのないまま孤児院に引き取られた場合が多い。


 つまり、親に一番甘えたい子供達の事だ。



「材料も事前に芋をカットしておけば、包丁も使わず火傷に注意する以外怪我の心配もありません。今の時期、ペポロンやかぼちゃ……カライモなどが旬です。保存も利きますし、気に入れば自分達でも作れますから」


「そやね? 下準備に手間かかるけど、あとは楽ちんやし」


「ところで、お兄さんのお名前は?」


「名乗ってなかったっけ? あちき……わいはカーミア言うんよ。ミアとか呼んでや」


「俺はフェリクス!」


「ゴツい男は煙たがられるで〜」


「んだとぉ!」


「喧嘩は他所でやんな!」


「「…………はい」」



 仲が悪いわけではないんだが、相変わらずの二人なんだぞ。


 これが、ユーシェンシー隠密部隊の双翼とは思えない。


 ただのバカコンビにしか見えないんだぞ。



「作り方をもう一度お教えししたいんですが。シュライゼン様、もうすぐ皆さん来られますよね?」


「俺が見て来るんだぞ!」


「え、でも」


「引き止められるのはシュラくらいだから、ちょーどいいわよ」



 まさしくその通りなので、急いで厨房を抜けて渡り廊下に向かえば。


 職員の網をかいくぐってきたのか、やんちゃ坊主を筆頭に年齢がバラバラの男女が走ってきていた。



「こーら、止まるんだぞ!」


『げ、シュラ王子様!』


「ここじゃ王子じゃないんだぞー」



 セルディアスの家名は伏せて、母上の実家だったレミエール侯爵家の立場を借りた、一貴族でしかない。


 身分を隠して、と伝わったのか大半の子供達がしまったと口を塞ぎ出した。



「チャロナのお姉ちゃんには内緒なんだぞ?」


「あ、あの。シュラ様!」


「ん?」



 質問してきたのは、普段は大人しい事で有名なケーミィだった。


 彼女が俺の側まで来ると、耳を貸してくれないかと言ってきたのですぐに屈んであげる。



「チャロナのお姉さん、シュラ様のご親戚さんなんですか?」


「ふふーん。それも内緒なんだぞ」



 やはり、母上の絵姿がいまだに出回ってるのもあるが。


 この孤児院の最初の支援者は、母上の実家なのだ。


 未だに、マザー・ライアも今使ってる執務室に侯爵家の自画像があるから、知っていても無理はない。


 だが、今は嘘としておくしかないのだ。



(シュィリンも絶対言わないと思うだろうけど……)



 昔は、気づいていたのだろうか。


 それなら、引き抜かれたあの頃に、何故俺だけではなく雇い主であるユーシェンシー伯爵にも告げなかったのか。


 お菓子教室が終わったら、確かめなくてはならない。

明日の朝には、幕間を二つ公開予定でーすノ

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