表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/825

19-1.耐えた(フィーガス視点)

午後の更新!








 *・*・*(フィーガス視点)






 我ながら、よく声を上げずに済んだと……自分で自分を褒めてやりたかった。



(おいおいおいおいおい!? 報告でも聞いてはいたが……)



 嬢ちゃん……いや、『マンシェリー姫』のお声を聞いた時にもしや、と直感で思い出すくらい……彼女の母君と酷似してやがった。



(瓜二つ過ぎだろ……この嬢ちゃん)



 事前にカイルからの報告がなきゃ、表面上取り繕う事が出来なかった。


 思わず、自分の技能(スキル)を発動させちまったが、無理があり過ぎる。


 幸いにも、彼女は赤ん坊の頃に国外へと逃がされたので、俺を含める貴族の名前を知ってなかった。


 自己紹介をしても、アルフガーノの名前にすらピンときてなかったようだし。



「じゃ、作ってきますねー」


「大人しくしてんのよ、フィー?」



 さっき食わせてもらった、絶品過ぎる『カレーパン』とやらを作りに行くのに、彼女はマックスとレイを連れて出て行ってくれた。



「へいへい。作ってもらえんのに、暴れやしねーだろ?」


「ふ〜〜ん?」



 大人しく手を上げても、相変わらず信用のない目で睨んでから、マックスは最後に出て扉を閉めた。


 そして、俺の耳でもだいぶ足音が遠ざかってから……カイルに向き直った。



「おいおいおい! マジで似過ぎだろ、王妃様に!」


「声を荒げるな。…………彼女は、何も知らない」


「まだ打ち明けてねーのか!」



 孤児院の件から、兄であるシュラ王子ともとっくに面会済みだと聞いていたのに。


 従兄弟であるカイルですら、まだ打ち明けられない事の意味がわからん。


 それに今、こいつはかつて候補だった俺とは違い……ほぼ正式にあの姫様の婚約者になったとも聞いているが。



「打ち明けられないんだよ、フィー。……シュラ様に止められてさ」


「何?」



 レクターの発言にも意味がわからなかったが。


 だが、カイルの代わりに答えてくれた奴の説明に、少なからず俺も納得出来た。



「育て親に……か。そりゃ、無理もねぇ」



 成人したての、まだ10代のお嬢ちゃんだ。


 普段は気を張ってても、緩んだ時はどうしようもない。


 俺は、屋敷にいる将来の相手の事と重なり、少し目頭を押さえた。



「家族が恋しい理由があっても、それは俺を含めるセルディアスの人間ではない。前世の記憶も戻って、彼女は『マンシェリー姫』でも『チャロナ』でもない自我が目覚めた」


「その上……今の『母親』が戦死したとわかれば」


「彼女の心は耐えられるかわからない。だから、シュラ様もしばらくは言わないし、引き取るのもやめると言われたんだ」


「無理、だな」



 背負い込み過ぎてる、あの幼い背中が耐えれるとは、俺ですら思えない。


 この中で、一人だけ幸せになろうとしてても、それはもう覆せないが。



「…………だが」



 しんみりしかけてたとこで、何故かカイルがある書簡を取り出してきた。


 紙の質から、それは王家しか使えない魔法鳥用の特殊な奴って事がわかったが。



「レクターにもまだだったが、伯父上(・・・)からの通達だ」


「「はぁあ!?」」



 レクターと一緒になって叫んじまったが、無理もない。


 カイルが、シュラ様の父親……国王をその呼び方にする時は、私用での書簡くらい。


 そして、とてつもなく面倒なことを押し付けられた時に使う呼び方だ!






【我が甥へ



 シュラから聞いているだろうが、仕事がたっぷりとそちらへ行くだろう?



 残念ながら、愚息の仕業じゃなく俺の仕業だ!



 感謝状の使者は俺がなるから、当日マンシェリーに会いに行くぞ!





 アインズバックより】






「阿保か、あのバカ親父!」



 短いが、自分勝手な文面に呆れと怒りが込み上がり、思わず握りしめそうになった。



「それで、この仕事量か……カイル、これいつまで続くの?」


「…………四日後には、来られるようだ」


「はあ!?」



 と言うことは、サボってはいないつもりでもうちにまで流れ弾が飛んでくるはず。


 まだうちから魔法鳥は飛んでこねーが……予想くらいはしておいた方がいいだろう。



「誰だよ、あの親父を馬車馬のように働かせやがったの!」


「……カイザー殿らしい」


「宰相の爺さんが、なんで焚きつけんだ!」


「本人も来るらしい」


「……………………あー、もうわかった。俺も手伝う」



 当日は、念のために俺も参戦くらいした方がいいだろう。


 自分の身内が画策したからには、一発殴りてぇしな!



「じゃ、早速流し読みだけお願い」



 そっからは、レクターに渡された中でも俺が代筆していいのは片付け。


 後から後からやってくる書類を片付けた頃には。


 姫様もとい、チャロナの嬢ちゃんが青ざめちまうくらいの状態で、全員ぶっ倒れてた。



「だ、大丈夫ですか!?」


「なーに? そこのバカまで使ってようやく終わったの?」


「マックス……おっ前、一人だけ役職ねーからって!」



 あの山終わらせたんだから、褒めろや!



「え、えと……たくさんカレーパン作ったんですが……今お渡ししても?」


「あー、大丈夫だ。もらうぜ」



 気力はだいぶなかったが、カーミィに食べさせたい例のパンを思うと、起き上がらんわけにもいかない。


 無理にソファから体を起こせば、姫様は厚手の紙袋に入れたパンを俺に差し出してくれた。



「一番最後に揚げたものなんですが……多分、お帰りになられる頃には、冷めちゃってると思います」


「んじゃ、今からとっとと帰るか。カイル、追加分ありゃ、今度はうちに流せ」


「…………ああ」



 カイルですら、気力で机に突っ伏すのを耐えていたが……了承がもらえたんなら、さっさと帰るにこしたことはない。


 俺は、頭の上に手を上げ、指を思いっきり鳴らした。



「あ、シュライゼン様と同じ!」


『でっふぅ!』


「また今度な、お嬢ちゃん達?」



 シュラ様と同じっつーか。


 教えたの、俺なんだけどな?


 俺が先に会得した転移魔法は、勉学などをサボる時のためにと必死こいて覚えた得意技。


 今はあんまサボりは出来ねーが……意識が次に浮上した場所には、ふわふわの金髪がパタパタと部屋の中を動いていた。



「あ、フィーさん。お帰りなさいー」


「…………よ、ただいま」



 俺の姿がいきなり出てきても、カーミィ……カレリアは柔らかい笑顔でいつも出迎えてくれる。


 座標は、彼女の今いる場所にと指定したが。


 どうやら、俺の執務室を片付けてたらしく。書簡の山だらけだった。



「っくしょ……やっぱ、こっちにも来てたか」


「な、なんか。夕方前からすっごくすっごく届いてきたの。フィーさん、これ一人で大丈夫?」


「あー、頑張る。先に土産があるんだ、冷めないうちに食おうぜ?」


「うわ〜〜何々?」



 俺の差し出した紙袋を受け取ると、まだあどけない少女のような笑顔で包み紙を開いていく。


 その顔に、今こいつがいて良かったと、思わずにはいられなかった。



「うっわ〜! いい匂いのするパン! あ、例の姫様の?」


「そ。作り手の事はあんま大声で言うなよ?」


「うん!…………んぐ、おいひい! すっごく美味しい!」


「だろ?」



 せっかくだから、俺も仕事を頑張って、国王が来る当日に出来ればカレリアも連れて行こう。


 それに、元パーティーメンバーが全員で揃うのも随分となかったからだ。



「……ところで、その顔どうしたの?」


「う゛!」



 マックスとレイの野郎に、顔と髪をいじくられたのを忘れてて。


 そっから、カーミィに『フィーさんの綺麗な顔は私だけなのに!』と、可愛くプンスコと怒り出したのを止めるのが大変だった。

では、また明日〜ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こちらの作品も出来たら読んでみてください。
下のタイトルから飛ぶことが出来ます。



名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~


転生したら聖獣と合体〜乙女ゲーム攻略のマッチングを手助け〜
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ