18-1.複合のデメリット
お待たせしましたー
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寝てもモヤモヤは晴れないままだったが、いつものように朝と昼はきちんと仕事をこなした。
エイマーさんはと言えば、多少スッキリはしたのか仕事はテキパキとこなしていて。
今は私と一緒に、事務所のような小部屋で明日孤児院に持っていくパンのメニュー決めをしている。ロティは、スタミナが少し多めに減ったのでお昼寝中だ。
食事以外にも擬似的な睡眠で回復は出来るらしく、満腹じゃない時は睡眠で補うことに決定したので。
今は小部屋の隅に作った、簡易ベッドで可愛い寝顔でお休みしています。
シェトラスさんは、別で夕食と明日の朝に必要な仕込みをされている。全員でこっちに取り掛かると、お屋敷の夕食が食べれなくなっちゃうからだ。
「少しは考えてるんですが。バターロール以外だと調理パンって種類にしたいんです」
「と言うと、トウモロコシとマヨネーズのような?」
「あれもいいんですけど。一緒に作るのが甘いのなので、少し甘い野菜から離れたいんですよね。けど、お肉だけだとサンドイッチになるから」
候補、と言ってもほとんど決めてはいるが、一つ心配事があるのだ。
「その顔を見る限り、提案したいものはあるようだが。何か心配事でも?」
「……わかりやすいです?」
「ふふ。眉間にシワが寄ってる時は、悩んでる時が多いからね」
「う〜……」
前世もだったが、今も顔に出やすいとはよく言われてきた。
孤児院にいた頃は、リリアンさん以外のマザー達にも。下の子達にも結構言われたっけ?
エイマーさんはすぐに、素直な事だから全部が悪くないとはフォローしてくれたんだけど。
つまりは、隠し事が下手って事だ。
これは、大貴族の使用人だけでなく、たった一人の特殊な錬金術師になったから訓練してくしかない!
主に出来ることと言っても、表情筋を意識するくらいだけどね。
「えっと……私や悠花さんがいた世界だと、人気のパンがあるんです。それを作ってみようかなって」
「ほぅ。どんなのだい?」
「ずばり、カレーパンです!」
「…………カレー??」
うん、わからなくて当然。
だって、ホムラでもセルディアスでも、お米はあるんだけど『なにかをかけて食べる文化』がない。
つまり、カレーもだがハヤシライスとか丼物まで存在してないのだ。
味付けご飯だけはあるんだけど、パンと同様に不味いので不人気。
近々、炊飯の方もチャレンジ予定ではいるんだけども。
「正直に言います。大人も子供も病みつき間違いなしの料理をパンの中に入れちゃうんです」
「それは興味深い! けど、君の心配事は?」
「私が前世の記憶持ちじゃなかったら、多分気にしてなかったんですけど。…………この料理、辛いから子供向きにはなぁって」
それと、スパイスからのカレー調合って……パートさんの仕事だったから、パン屋にいた時多くは関わっていない。
まったく作れないわけじゃないけど……あと一日でどーにかなるかって言うと、微妙過ぎる。
「辛いの? なら、この国では平気だと思うが」
「え?」
「この屋敷では、旦那様が甘いものの方がお好きなんであんまり出していないけどね。香辛料の多い食事が一般的なんだ。だから、小さな子供も関係なく食べてるから特に騒ぐこともないよ」
「oh......(´・ω・`)」
そう言えば、昨日のリュシアに行った時に食べさせてもらったご飯は。
辛過ぎはしなかったけど、カレーとよく似た香辛料の多い料理ばっかりだった。
だから、カレーパンを思い出したんだけど、地球でも国によってはインドとかもっと唐辛子を食べてる人達で体質は違うって聞くし。いいかな?
ちなみに、ホムラは中国と韓国っぽい文化。
だから、チャロナも辛いのは全然平気だ。
「けど、一応甘めにしましょう。そっちも美味しいんで」
「なら、仕込みは手伝おう」
そうと決まれば、と。
ロティには無理を言って起きてもらい、まずは生地作りから始める。
「コクを足したいから、全卵じゃなくて卵黄だけを入れた配合にして。バター以外入れて」
余った卵白は、またフィナンシェか焼き菓子の使ってもらうのでエイマーさんにお願いする予定。
エイマーさんは今、カレー粉と具材に必要な食材を集めに行ってもらってます。
「……よし。複合使うわよ」
『あーい』
少し慎重になるのは、この技能が意外にも使いにくい欠点があったからだ。内容以外にもメリットがあるから使うは使うけど。
まず最初に、時間短縮を一つミキサーボウルの前に表示させる。
「重ねがけ……短縮化!」
続けて、もう一度時間短縮を発動させ、バナーを押さえながら既に出てる方に重ね合わせる。
一つ目は、予定していたタイマーにセッティングしているが。
もう一つを、『00:00:00』のまま重ね合わせると。
一瞬だけ、ロティのミキサーボウルが白く発光した。
『だ〜いじょぶでふぅ』
ロティが安心出来るトーンの返事をしてくれたので、私は大袈裟なくらいほっと出来た。
ボウルの中身は、綺麗にまとまった生地が出来上がっていたんだけど。
この技能、時間短縮の時間を更に速めて、三分クッキングならぬ『三秒クッキング』とかを可能にしてしまうチート技能だったのだ。
が、デメリットは私に直接影響はないが。ナビであるロティに大きな影響を及ぼしてしまう!
最初に使った時は、本当に本当に凄かったのだから。
▲・△・▲
【初始動、『複合』完了しました】
『ふわわ〜? 出来まちた?』
天の声と、ロティの少し疲れたような声が同時に聞こえ、発酵器の蓋がひとりでに開いた。
「ろ、ロティ? ごめんっ、ちょっと試したのが複合だったんだけど……大丈夫?」
『うにゃ〜、ちょっぴちちゅかれまちた……』
複合を試したのは、発酵時間を短縮させた時だけ。
そして生地のボウルを取り出すと、ロティがすぐ元の姿に戻ってしまい、調理台の上にへたり込んでしまったのだ!
「ご、ごめんねごめんね! 何か、飲む?食べる?」
『お腹……ちゅきまちた』
「え、えーと……えーと」
こんな状況になるのは初めてだったから、どうしたらいいのかわからず慌ててしまう。
そこに、一緒に見てたエイマーさんがすばやく対応してくれて。
「チャロナくん、簡単に出来るサンドイッチでも作ろう!」
「は、はい!」
『お、俺っちどうすれば?』
「ロティの様子見てて!」
暇だから、とその時は手伝ってくれてたレイ君にロティの面倒を頼み。
私とエイマーさんは白パンがあったので、簡単に出来るオープンサンドイッチをたくさん作りました。
出来るだけたくさん用意してあげると、レイ君に問題ないと言われたロティは、皿を見るなりアメジストのような瞳を輝かせた。
『おいちしょーでふぅう!』
「食べれる分だけでいいからね?」
『あいでふ!』
私はまだロティの容態が気になったが、彼女はぱくぱくとサンドイッチを食べ出したら途端に血色が良くなったのだ。
『おいちーでふぅ! いくらでも食べれまふ!』
その宣言通り、10個近く用意してたサンドイッチを見事完食。
食べ終わると、可愛らしいげっぷをしてからお腹をぽんぽんと叩いた。
「も、もう大丈夫?」
『ごちんぱい、おかけちました。多分、しゅたみながだいぶなくなったからでふ』
「す、すたみな?」
「あ〜ら、例の項目に載ってた箇所ね?」
「ゆ……悠花さん、いつから?」
「今よん」
後ろから声が聞こえたのでびっくりしたが、悠花さんが用事から戻ってきた。
ちょっとだけ、街の冒険者ギルドに行ってたらしい。
「けど、スタミナ……って、ロティのステータスにあったのだよね?」
「要は、人間の体力と同じよ。レイみたいな精霊だって、普通にバテるもの」
『そうでやんすねー』
「って、事は……」
私は今日ほど。元パーティーに居た頃より、後悔した日はないと思った。
「ほんとごめんごめんごめんごめん、ろ──てぃ──っ!」
『でふぅ? もう大丈夫でふよ、ご主人様ぁ』
「でも、ほんとごめんごめんごめんごめんごめん倒れさせるまで動かせてごぉーめーんーなーさぁーいぃーっ!」
『きゃふぅ!』
つまりは、時間短縮を重ね掛けしただけの『複合』のせいで、ロティはバテてしまう程のスタミナを消費してしまった。
いくら、『AIな契約精霊』だからって、今のロティは他の生きてる精霊達と同じだ。
その主人になった私が、匙加減を間違えて体調不良を起こさせてしまった今、この世界の普通なら契約主失格。
だけど、『幸福の錬金術』を扱えるのは、この世界でも私たった一人しかいない。
許されないかもしれないが、反省して謝罪してロティをぎゅっと抱っこしたまま頬ずりする事でしか体現が出来なかった。
『ご主人様ぁ〜くしゅぐったいでふぅ!』
私なりの謝罪行為を、ロティは本当に気にせずに嬉しそうに頬ずりを返してくれた。
可愛くて良い子過ぎちゃう、この妖精ちゃんは!
「…………反省はわかったからぁ〜、いい加減終わりなさいなチーちゃんっ」
「ふぉ、ふぉめんなふぁ(ご、ごめんなさい)……」
『でふ?』
散々繰り返してたら、もう良いだろうと悠花さんが私のほっぺを軽くつねってきた。
「完全にスタミナ切れにならなかっただけでもよしと思わないとぉ。ロティちゃんもだーいじょうぶって言ってるじゃなぁい? あんたも十分反省してるんなら、お〜わり」
「……はぁい」
『ごちんぱい、おかけちまちた〜』
固い抱擁を解き、改めて悠花さんもだが、傍観してくださってたエイマーさん達にも謝罪。
皆さん、良かったと息を吐いてくれてたけれど。
「しかし。精霊のようで精霊でない、不可思議の存在とは興味深いよ。ロティくん、もう本当に平気なのかい?」
『あい〜。ご主人様や皆しゃんのおいちーご飯でしゅたみな全快でふぅ!』
「それは何よりだね」
ともあれ、一つ心に決めた事は出来た。
「複合、もう使わない!」
『ダメでふ、ご主人様ぁ』
「え、なんで?」
あれだけ大変な目にあったのは、他でもないロティ自身なのに。その本人によって決意を却下されてしまった。
「そうよん? チーちゃんの言うように、レベルが低くてもあれだけスタミナが消費したじゃなぁい」
『そうでやんすよ?』
「無茶はいかんぞ、ロティくん」
他の人達も同意したのに、ロティはしゅんと首を折った。
『けどぉ……一番稼げるんでふぅ』
「「『「稼ぐ??」』」」
『技能のレベル上げに必要なぁ〜、コロンがでふぅ』
「コロンが?」
『幸福の錬金術』を手に入れてから、たしかにレベル上げはやや遅めだが悪くはないと思ってた。
だがロティが言うには、現在取得した技能の中でも、複合召喚を上手く使えば効率よく『コロン』が手に入るらしい。
そもそも、コロンの取得は経験値のPTと余剰魔力の吸収だけでなく、技能の使用頻度にも関わりがあるようだ。
『時間短縮や他は操作がまだまだ簡単だから、コロンはほとんど貯まりまちぇん。よじょーまりょくも頻繁じゃないでふし。ただ、さっちのよーに重ねがけだったり、他の複合召喚をしゅれば……もっともっと貯まりまふ』
そして、私だけしか見えないステータス画面を出してくれると……たしかに、貯まってた。
昨日使う前に見た、コロンはとっくにないけども。
今日の使用頻度を思い返したって、貯まり過ぎだ。
だって、1万コロンって!
「こここ、こんなにも!?」
『工程短縮を手に入れた場合ぃ〜、少しだけでも上げるのにいっぱいいっぱいいるんでふ。しょこは、他のしゅきるも同じでふ』
「ねぇ、ロティちゃん。そのスキルの調整を間違えなければ、あんたはさっきみたいなスタミナ切れにはならないのん?」
『でっふ! だいじょぶでっふ!』
それと、ロティの稼働は多少スタミナを消費するだけで済むが、複合のような大掛かりなスキルは負荷が少し大きい。
今回は初回なので、結構消費したとか。
だけど、次は絶対とは言い切れないが無いようにさせたい。
「すぐにスタミナが減ったら言ってね? 絶対よ?」
『あいでふぅ!』
私が確認するように言えば、ロティは了解したとばかりに可愛く敬礼。
疲れ以外にも、時間調整が難しくなってきたため、夜の講師時間を変更させていただきました
これからもよろしくお願いします