17-2.除け者にされた(マックス《悠花》視点)
午前の更新
*・*・*(マックス《悠花》視点)
チーちゃんの薄情者ぉおおおお!
除け者にされた理由は正論だったとしても!
「なんでガールズトークにあたしが混じっちゃダメなのよぉおお!?」
「そりゃ、ねぇ?」
『魂の前世云々はともかく、マスターは今世の身体が【男】じゃないでやんすか』
「そうよ! わかってるわよ!」
わかってるけど、悔しいものは悔しい!
だってだって、メンバーの中に麗しのエイマーもいるのよん!
今日はお出掛けでもほとんど一緒にいられなかったのに!
まったく、解せぬぅ……。
「ユーカ。自棄酒はわかるけど、ほどほどにしなよ? いくら僕がいるからって二日酔いになっても、治癒かけないからね?」
「わかってるわよぉ……」
「そう言いながら、一気にワイン煽らない!」
今あたしは、自分が借りてる部屋でレクターを無理に呼んで自棄酒を飲んでいる。
レイは飲めなくはないが、つまみの方が好きなので、人型になっても適当に弱い酒を舐めてるくらい。
レクターは、廊下でばったり会ったから愚痴聞いてもらうのに巻き込んだ。
カイルはカイルで、断った上に夜中からの鍛錬に向けてもう仮眠したのよ!
「わかってるわよ! いくらあたしが悠花でも、身体は完璧に男。好きになったのもちゃんと女。だから、聞かせられないのは!」
「そんな焦んなくたって……彼女の事だから明日とか時間出来た時に教えてくれるんじゃ?」
「バカね、レクター。明日は孤児院への差し入れのパン作りであの子大忙しよ! 魔法鞄以上に有能なあの子の亜空間収納スキルで、パンは詰め放題だから作っておくんですって」
「あ、そっか……君が手伝うにしても必然的にエイマー先輩もいるし」
「そう! だからよ!」
もし時間が取れた時に、エピアの事は最低教えてくれても。
エイマーの、ガールズトークの中でも……恋バナの相手が誰なのか。
昔っから、男よりも女にモテてたエイマー。
◯カラジェンヌっぷりに外も中もかっこよくて麗しい、あたしのエイマー。
そこそこ年の差はあるし、あたしの方が年下だけど。想いは負けていないはずよ。
だって、自覚した8歳からず〜〜〜〜っと、想ってるんだもの!
百合かもしれないって疑った時期もあったけど、生まれ変わったあたしは『男』。
年の差以外、これと言って障害はないはずよ!
「ん〜〜。けど、考えてもみなよユーカ?」
「何よ」
浸ってたあたしに横槍を入れてきたレクター。
腹黒医者だけど。あたしの前世を受け入れてくれてる理解者でもある幼馴染みだ。
シュラはまあ半分面白がっているが、カイルは理解しててもあたしのオネエじゃない口調も嫌がってるから面倒い。
そこは置いとくとして、レクターの推測はあんまり外れた事がないから、聞く価値はある。
「…………君がわざと考えないでいるかもしれないけど。……先輩が、君をって可能性。あえて避けてるの?」
「な、ななな、なんでよ!」
もしそうだったら、速攻で物にするわ!
「うーん……これ無意識? レイはどう思う?」
『俺っち、答えれないでやんすよ?』
「まあ、契約精霊だしね。制約があるから」
『でやんす』
そう、レイは言えない。
あたしと意識を共有は出来ても、奥底の感情までは主人の許可なく外にはこぼす事すら出来ないのだ。
この世界の、精霊と契約するときに課せられる約定。
その一つに、契約主と精霊の間に鎖となるいくつかの決まり事をさせられるのだ。
今のも、その一つで。あたしの本音とかを許可なく勝手に言えないわけ。
「なら、今から考えてみようよ? 先輩、姉さんより二個上でもずっと独身でしょ? 叶わぬ恋をしてるのかと思えなくもないけど……もし、その相手がユーカだとしたら」
「…………叶わない? なんでよ?」
「先輩ん家は一応高位の豪族でも、貴族じゃない。僕は位は低くとも貴族。そして、君はまだ当主じゃなくともユーシェンシー伯爵の嫡男。この差は仮に別の伯爵家に養子とかになっても……結構大きいよ?」
「……………………まさか」
今の、レクターの推測だけでも。一つだけ思い当たる事がある。
(あたしがでかくなってから…………時々寂しそうな笑顔するのって)
特に冒険者になってしばらく離れて。カイル達と別れてからも期限が残ってたあたしだけがまた旅立ってしまう時とか。
チーちゃんが見つかる少し前の時とか。
たまにあたしと話してる時に、なんでと思うような寂しい笑顔を向けてきていた。
(あれが……いつから?)
少なくとも、シュラから国王の勅命として冒険者となってチーちゃんを捜索する数年前はなかったような。
「……思い当たるのなら、少し頭冷やして考えなよ。僕からのアドバイスはこれくらいにするけど」
それじゃあ、と言って、レクターは自分の酒を煽ってから部屋を出て行った。
レイもレイで、影に潜る事なく人型のまま壁をすり抜けてどこかへと行ってしまう。
呼べばすぐにでも来られるが、気を遣って一人にしてくれたようだ。
「……一度、思い出さないといけない……か」
エイマーを好きになったきっかけと、彼女の寂しそうな笑顔の始まりを。
あたしは最後に残ってた自分のグラスを煽り、そのままベッドに腰掛けて、前世じゃない今の世界の幼少期を振り返ることにした。
▶︎・▷・▶︎
エイマーと初めて会ったのは、あたしがこの世界に生まれて4年目の春。
カイルの屋敷に新しい調理人の見習いが来るって言うから、シュラが一緒に会いに行こうと誘ってくれたからだ。
あいつ、あたしの身体がまだ小さいのも関係なく、元成人女性だからって面白がって色々連れまわすのよね。
王家とユーシェンシー伯爵家は、縁戚ではないものの交流は古く、あたしも親父の息子だからおまけのようによく城には連れてかれた。
その繋がりで、王弟の息子でシュラの従兄弟のカイルに、その乳兄弟なレクターとも生まれてすぐに知り合って幼馴染みになって。
なにこのイケメンパラダイス!って叫びたくなったわ。
そんな風に、年上の友人には困らなかったが。
女は、ふわふわでも腹黒なレクターの姉しか知らなかったので。
他は、あたしを伯爵の息子だからとちやほやしてくるから正直うざかった。
エイマーとは、仕事だったあの子とあたし達がすれ違ってたせいでなかなかすぐには会えず。あたしが一人だけ逸れた時に、見つけた。
それはエイマーが、倉庫の裏で猫背になりながら泣きじゃくってるのを見てしまった時。
「…………おねーちゃん、どうしたの?」
「っ! だ……誰だい?」
本性をまだ見せてないから、あたしは坊や口調でしゃべりかけた当時。
あたしは4歳。
エイマーは10歳だったわ。
では、また夕方に〜