2-1.傷の癒しと説明①
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コンコン、コンコン
さあ、これからロティをどう紹介しようかと思ってた矢先に。どうやら、メイミーさんが戻ってきたみたいだ。
(けど、ロティをどう紹介しよう……)
突然の出来事だったから、どうしようもなかった。
けれど、せっかく出来た相棒を無碍には出来ないし、これから一緒に過ごすんだから隠せない。一度ロティを見てから、私はそう決意した。
「はい、どうぞ」
私が返事をすれば、今度はメイミーさんだけじゃなく白衣を着たお医者さんっぽい男のひとも入って来られた。
「やあ。一応はじめまして、かな? 僕はこのお屋敷の魔法医でレクターと言うんだ」
「は、はじめまして! チャロナ=マンシェリーと言います! そ、それと」
『契約精霊のロティでふぅ!』
「え、うん? 精霊っていたっけ?」
「いやぁ〜ん! 私も知らなかったけど、可愛いぃい!」
『でふぅ?』
ロティの自己紹介の後に説明しようと思ったら、いきなりメイミーさんが声を上げてしまい、すぐに駆け寄ってきてロティを抱っこされた。
可愛いぷにぷにほっぺに迷わず頬ずりをする姿は、美人ママとその子供に見えるけど……今は和んでる場合じゃない。
「す、すみません。ちゃんと説明しますので……ロティ、離してもらえませんか?」
「あら、ごめんなさい! 可愛くて可愛くて、つい抱っこしちゃったわ」
「姉さん、自分の子供とかじゃないんだから……」
「お、お姉……さん?」
離してもらったロティが戻ってくる途中に聞こえた、ため息まじりの言葉。
それについて、メイミーさんはウィンクしながら答えてくれました。
「そうよ? この先生、実は私の弟なの」
「そこそこ歳離れてるから、そっくりじゃないしね?」
だけど、よく見比べれば類似点はいくつかあった。
髪色はメイミーさんよりも濃い目のクリーム色。
瞳は青系だけど、紺色。
雰囲気は優しげなのは同じで、目元は少し垂れ目がち。
容姿とかもそこそこ似ているし、言われてしまえば姉弟にしか見えなかった。
「ふふ。私達、身分は低いけど……一応貴族なの。こっちのレクターは旦那様とは乳兄弟なのよ?」
「お、お貴族……様?」
「そんなかしこまらなくていいからね? ほら、姉さん。チャロナちゃんに余計な緊張感持たせてどうするの?」
『ご主人様ぁ〜?』
たしかに、レクター先生の言う通り緊張感がすこぶる高まってしまった。
一時間くらい前の、あの美形過ぎる旦那様も絶対お貴族様だとは思っていたが。まさか、使用人さん達まで身分差はあれど同族だとは思ってもみなかった。
ロティに手をペチペチされてても、なかなか緊張感が抜けずに困らせていると、レクター先生がサイドチェアを持ってきてベッド脇に腰掛けてきた。
「ロティちゃんの詳しい説明は後で聞くよ。姉さんからは包帯の交換とかは報せてもらったけど……傷の具合診るのに一度外すね?」
「は、はい!」
「ロティちゃんは、その間こっちにいらっしゃ〜い?」
『でふぅ?』
優しげな瞳は変わらないが、仕事モードになったのか向けてきた視線は真剣そのもの。
思わず背筋がピンとしてしまってる間に、ロティは再びメイミーさんが抱っこ。だけどそれは、診察の邪魔にならないためにだ。
彼女も弁えたのか、さっきのように頬ずりする事なく、まるで看護婦さんのようにあやしてるだけ。
だから、私もおとなしく弟さんの手で包帯を外されるのをじっと待った。
「どれどれ……ああ、血はほとんど止まってるね?」
そして包帯を脇に置き、ガーゼも全部取り終えると、両手を傷口にかざしてきた。そこから、淡い水色の光が出てくる。
おそらく、魔法医の職業である特性、『治癒魔法』だ。だけど、無詠唱で出来るなんて凄い。
「少しの間だけ、じっとしててね?」
光が、とても温かい。
パーティーにいた頃も、男の子の治癒師に時々怪我を治してもらったことはあったけど、全然違う。
例えるなら、この人の魔法はさっき食べたクリームスープのように温かくて優しい光。全身を、気持ちのいいオーラの流れが巡っていくような、そんな感覚。
5分程で終わってしまったが、わずかにヒリヒリしてた傷口が痛くなくなっていた。
「寝てる間は、治癒魔法が効きにくいんだよ。だから一気に済ませちゃったけど……これならもう大丈夫だね」
「……ありがとう、ございます」
と言うことは、ほぼ完治。
試しに傷口だった場所を触ってみても、カサブタすらなかった。
「うふふ、うちの弟凄いでしょ? なにせ、旦那様とは冒険者だったから経験は豊富なの」
「ぼ、冒険者⁉︎」
あの旦那様もってことは、筋肉ムキムキ過ぎる体格は冒険者時代の賜物?
目の前のレクター先生の方は、すっきりとした細身だけども、現役時代の職業が違ったのだろう。
「姉さん……恥ずかしいんだから、そんな自慢しないでよ」
「あらあら、いい経験だったじゃない? 目的は達成できなかったのは残念だけど」
「うん、まあ。それはいいけど、その事カイルには言わないでね?」
本当に恥ずかしかったのか、レクター先生お顔真っ赤か。
ただひとつ、新しく聞く名前は誰だろうか?
この会話の流れからすると、まさか例の旦那様?
「あ、あの……」
「「ん?」」
「不躾だとは思いますが……旦那様のお名前ってもしや」
「あらいやだわ。あの方、そう言えば先ほどは名乗らずでいらっしゃったわね?」
「カイルらしいと言えば、らしいけど……」
やっぱり、正解だったみたい。
正直なところ、知りたい気持ちはあるが勝手に聞いてもいいのだろうかと不安もある。
私も自分からは名乗らずでいたから、次にお会い出来た時の方がいいかなって思ってたけど。
それは、レクター先生の方からあっさりと口にされてしまう事になった。
「あの無愛想でも無駄に顔の良い男は、カイルキア=ディス=ローザリオンって言うんだ。通称、カイル。このセルディアス王国でも随一の家柄でもある公爵家の当主でね? 君を見つけたのは、彼の領内の一角だったんだ」
「カイル……キア様」
異世界要素丸出しな、素敵なお名前だったけども。
身分が凄過ぎて、少し前にほっぺを触られたのが恐れ多く思えてくる。
彼としては、助けた相手の状況を確認しただけだろうが、改めて思い返しても心臓に悪い!
「僕は乳兄弟だから、割と気楽に話してるけど……君も無理して固い話し方にしなくていいよ? 彼ああ見えても、結構繊細なとこあるから」
「そうね? 結構照れ屋さんだけど、元同業者の事だからか気にされてたもの。あ、ロティちゃんはもういいわね?」
『でっふぅ!』
メイミーさんに、ロティを返してもらってる時も顔が熱くなってきた気がしたけど、いい加減本題に移ろう。
もちろん、ロティの事だ。
「えっと……信じられないでしょうが。私、異世界からの『転生者』だったんです」
それに、ロティを語るにはまず私の素性も話さなくてはいけない。
引かれるに違いないと思って告げても、お二人は息を飲むだけだった。
なら、とロティが出てきた時のも言う事にした。
「その前世の記憶が、どうやら鍵だったみたいなんです。この子が突然現れて……私を契約主と認識してくれた。だから、ロティって名前をつけたんです」
『でふぅ! ロティはご主人様だけのAI精霊でふぅ!』
「え、えぃ、あぃ?」
「普通の契約精霊ではないようだね? ロティちゃん、チャロナちゃんの記憶が戻った事が出現条件なのかな?」
『しょーでふぅ!』
メイミーさんはAIが聞き慣れない単語なので混乱されてたが、弟さんのレクター先生はやけに冷静。
加えて、ロティにもう少し掘り下げた質問をされていた。
「って事は……通常の精霊出現条件には当てはまらない、か。彼らは、いわゆる魔力溜まりって場所にいるらしいから」
「魔力……だまり、ですか?」
「うん、そう。元パーティーメンバーに一人だけ契約してた奴がいるんだ。あいつの場合は、まさにその魔力溜まりから産まれた精霊と契約しててね?」
私がいた、元パーティーメンバーには魔法使いはいても精霊と契約している人はいなかった。まだまだ弱小メンバーだったからね。
レクター先生とカイルキア様がどれほどの実力者だったかはわからないが、きっと高ランクだったのは伺えた。
「あと、それだけではありません。多分……技能だと思うんですが」
『違うでふ、ご主人様ぁ。『幸福の錬金術』は、【異能】でふ!』
「「「ええええええええ⁉︎」」」
ちゃんと説明を聞いていなかった私も、思わず声を上げてしまった。
だってだって、異能って要するにチート特典。
この世界でも、ごく限られた人達にしか備わらない、希少価値の高い技能の総称だからだ!
では、また明日以降にノ
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