11-2.複合とは?
本日二話目
「具体的にどんなスキル?なの?」
『でっふ! 今でふと、時間短縮とタイマーを掛け合わせちゃり……ミキサーで、ホイップのクリームを作る時でもぉ……短縮されてもふんわふわの美味しいクリームが出来まふ!』
それ、あんまりいつもの作業とかスキルとも変わらないような?
「んー、そうね……あ、そうだわ。チーちゃん、ロティちゃんが色んな器具に変身してくれるんでしょ? あれって、複合機能どれだけついてる?」
「と言うと?」
「複合って、たしかいくつかのモノが集まって一つになることがでしょ? あたしが覚えてるのなら……OA機器の複合機にプリンタ/スキャナ/コピー/FAX機能が集約してるみたいだったし」
「え、え? って言うと…………」
「別々のスキルを掛け合わせて……ロティちゃんが言うのならクリームを素早くても美味しく作れるってことでしょ?」
「あ!」
なんとなく理解出来たけど、今はいちいち動作を加えなきゃそれぞれのスキルは活用出来ない。
今日のコーンパン作りでも、実際そうだったから。
「ねえ、ロティ? 生地でもそれって出来るの?」
『でっふ! 工程短縮とも言うんでふが、出来まふ!』
「……………………って事は!」
「料理に変わらなくても、あんたの錬金術ってますますゲーム要素の多いチートになるわね?」
材料を入れて、ロティの変換でお任せ部分の工程が、ぐっと減って楽になる。
それこそ、さっき思い出した好きだったゲームのようになってしまうかもしれない。
でも、
「……ロティ、その工程短縮って。レベル上げさせ過ぎなきゃ……あんまり活用は出来ない?」
「あら、なんでよ? すっごく作るの楽になるじゃない」
「うん。わからなくもないけど……やっぱり、私『料理を作るのが』好きだし」
いくらでも短縮出来る作業の方が、効率がいいのはよくわかる。
けれど、基本的にこの屋敷から外に出ることはないし、まだ広めるのもはばかられている状態。
シュライゼン様からの依頼の方も、まだ限られた場所だけだもの。
二人にもそれを話せば、うんうんと頷いてくれた。
「そうね。あんただけしか使えないんだし、使い勝手を決めるのもチーちゃん次第。そこは好きにした方がいいわね」
『コロンの振り分けちだいにゃので、ご主人様のおしゅきにされてくだちゃい!』
「じゃあ、とりあえず。ラスティさんに頼まれたペポロンのパンかなぁ?」
かぼちゃを練り込むタイプ、あんこにして包むタイプとかたくさんあるけれど。
ラスティさんのご要望は、たしかコーンパンのようにしてって言われたから。
「ところで、カイルから?頼まれてたって、孤児院の子達にパンを振る舞うの……ほんとにあいつから?」
「ううん、お友達?のシュライゼン様から」
「…………シュラぁ?」
やっぱり知ってるみたいだけど、悠花さんはこれでもかと眉間にシワを寄せちゃった。
「初見であんたを気に入りそうなのはわかるわ…………って、あれ? んー……」
唸るように声を出したかと思えば、ロティと私を交互に見て考え始めた。
「その髪と目…………なーるほどねぇ?」
そして、一人で納得してしまって、しきりに頷きながらまたロティを抱っこしてぽんぽんと彼女の髪を撫でてた。
「あの、悠花さん? 一人で納得しても私達にはわかんないんだけど……?」
「いずれ、知る時が来るわ。カイル達がいつか教えてくれるわよ?」
『でふぅ?』
「悠花さんからじゃダメなの?」
「今は、ダメね」
『「えー」』
駄々をこねても、今度は私の髪もぽんぽん撫でてくれるだけだった。
「そ・れ・よ・り! ラスティに頼まれたってパンはどーゆーのにすんの? 要は、かぼちゃのパンでしょ?」
「あ、そうだった」
はぐらかされちゃったけど、いつか知れることならば今は横に置いておこう。
それよりも、今はラスティさんからの頼まれ事に戻そうっと。
「ペポロンって、すっごく糖度高いでしょ? あんこ代わりにさせてもいいかもだけど、食事向きが欲しそうだったから」
「そうねぇ? あたし、日本にいた時……OLの頃は、なかなかパン屋行かなかったからわかんないわ。コンビニじゃ、大抵ハロウィンシーズンの焼き菓子のイメージだもの」
「あ、今夏だけど……ペポロンも日持ち出来るからそれいいね! じゃなくて、白パンっぽくするなら……ペーストにして練り込むとかあるよ?」
『美味ちしょーでふぅ!』
ロティ、想像しちゃったのかヨダレが洪水のように……。
ささっと、ハンカチで拭いても無意味だった。
「へぇ〜? それ、甘くない?」
「加える砂糖と塩の加減次第で、ほんのり甘いのが普通かな? パン屋だと、お店によるけど大きくしてサンドイッチのバンズにしたりもするんだ。あとは、レストランの付け合わせのにだったり」
「いいじゃない、いいじゃない! ここ、食べ盛りの連中が多いから、まずはそこから始めたら? アレンジはいくらでも出来るでしょ?」
『「…………」』
護衛にはなってもらったけど、あなたが一番食べるんじゃ?と、昼間の時みたいにまたロティとシンクロしたと思う。
高ランクの冒険者さんだけど、元々はお貴族のご子息さんらしいし?
すべき事は、特にないのであれば、護衛任務に問題はないはずだけど。
「悠花さん、貪り食べないでね?」
『でっふ!』
「え、えぇえ〜〜?」
自覚があるのか、目が泳いでいく。
そう言えば、ステータスに不思議な称号があったから、それも関係してるのかもしれない。
たしか……残念なんちゃら?
(まあ、今は男の人の体だから……かなり食べちゃうけど)
私も食べるには食べるが、ごく平均だと思う。
ひとまず、釘を刺してからお茶受けにと、エイマーさんが渡してくれたお菓子を食べる事にした。
「『「美味し〜〜!」』」
エイマーさんと作ったしっとりフィナンシェ。
結局今まで食べてなかったが、前世の有名洋菓子店に匹敵するんじゃないかってくらいの美味しさ。
一日置いたことで生地にバターが馴染み、アーモンドの香りもさらに香ばしく。
夢中になって、分厚めに切った一切れをペロリと平らげてしまった。
【PTを付与します。
『しっとりフィナンシェ』
・製造100個=500PT
・食事1個=15PT
→515PT獲得により、ナビレベル2に!
レシピ集にデータ化されました!
新機能が追加されました!
→複合レベル1
次のレベルUPまであと2955PT
】
うっかりしてたけど、このお菓子のお手伝いもしてたから……PT数が少なくても付与されておかしくない。
すると、ロティにも変化が起きた。
最初に名付けた時のように宙に浮かび、くるくると回りながら鱗粉を部屋いっぱいに蒔いて。
『んぅ〜〜〜、ナビレベルぅ〜あっぷぅ〜〜!』
「な、何なのこれ⁉︎」
当然知らない悠花さんは慌てだしたけど、今回の変化はすぐに終わるらしく。
鱗粉がロティの服の胸元に集まっていったからだ。
【ナビゲーターシステム、アップデートを開始します】
PT付与じゃない、久しぶりのアップデートの音声。
複合召喚以外に何が来るかなと思ったら、目の前が一瞬だけ荒地に変化した。
「…………え?」
草木が育たない、痩せ過ぎた広大な大地。
それを食らう、これまた骨のように痩せた人々。
そんな光景が、目の前にほんの一瞬だけ見えたのだ。
あともう一話更新予定ですノ