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96-2.お誘いはしたものの

お待たせしましたー






 *・*・*








 なんとかお誘いは出来た? ものの。


 ある意味バレているかもしれない。


 ある意味バレていないかもしれない、お散歩のお誘い。


 文字通り、ロティも他の誰もいない二人っきりでのお屋敷でのお散歩。


 現在は、以前も来たお庭のベンチでカイルキア様と座っている状態です。



(……なんて話せばいいんだろう!)



 ただなんとなく歩いてた途中で、カイルキア様に『座るか?』と言われたから座っただけだけど。


 何を話題にしていいのかわからず、お互い終始無言の状態が続いている。


 今も、座ってから何も言葉をかけてもらえずだから、こっちも言葉をかけづらい。


 やっぱり、私なんかとお散歩をするのが迷惑だったのだろうかと思うくらい。


 けど、本当に嫌なら断れる人だから、多分話題を探してるんだと思いかけたら。



「……リーン達の頼みとは言え、すまないな」


「え?」



 やっと声をかけていただいたが、まさかの謝罪。


 そして、その言葉はあるお決まりの言葉だった。



「俺が雇い主とは言え、面白いことも言えない奴と散歩をしても楽しめないだろう?」


「そんなことないです!」


「! チャロナ?」


「カイル様はそんなことないです!」



 そんなことはない。


 普段の報告の時でも、カイルキア様を好きだと自覚してからは終始胸のドキドキが止まらないでいた。


 美味しそうにパンやおやつを召し上がっている時も。


 私に労いのお言葉をかけてくださる時も。


 次のメニューの要求をなさる時も。


 全部、全部ドキドキが止まらない。


 今だって、麗しいお顔が近くにあるだけでドキドキするんだもの!



「……俺といて、楽しいと思えるのか?」


「た、楽しい、は恐れ多いですが……嬉しいです」


「嬉しい?」


「はい。私の作った料理達を一番に喜んでいただける方ですから」



 もちろん、お屋敷の皆さんから喜んでいただけるのはあっても。


 最初のバターロールでの審査の時から、そう思っていた。


 苦手だったものを好きになって、それからは次々と興味を持ったメニューを要求する時の表情は。


 失礼ながらも、お母さんにおねだりする子供のように輝いていたから。


 私は、その期待に全力で応えたくなったのだ。



「……俺はお前にわがままを言ってただけだぞ?」


「ですが、苦手でいらっしゃったパンを召し上がられてますし」


「それだけ、チャロナのパンは美味い。他と比較など出来ん」


「ありがとうございます」


「礼を言うのはこちらだ」



 すると、私の頭を軽くポンポンと撫でてくださった。



「あの……?」


「俺といて、喜楽の感情を覚える女性など。リーンですら武道以外ではなかったのに。お前は面白い事を言うな?」


「……失礼ですが、他の女性はいらっしゃらなかったんですか?」


「媚を売る輩以外は、特にな。俺は感情の起伏が乏しいゆえに、一緒にいて楽しいと思われたことは少ない」


「そうでしょうか?」


「ん?」



 たしかに、喜怒哀楽の感情がはっきりしているわけではないけれど。


 パンを召し上がっている時とか、私と以前ここで話してくださった時とか。


 薄っすらではあるが、微笑んでくださったり、温かい言葉をかけてくださった。私はそれだけで、胸の中がぽかぽかしたのに。



「カイル様、自信をお持ちください。カイル様はすっごく魅力的な方だと言う事を」


「父上似のこの顔か?」


「そ、それだけではなく、他にも優しい心をお持ちなところとか」


「俺が?」


「今私の髪を撫でていらっしゃるところも、優しいところです」



 でなければ、不機嫌MAXで使用人とは言え女性に触れる事だなんてしないだろうし?


 だから、少しでも期待してしまうのだ。



「…………お前やロティにこうしてしまうのは、自分でもわからないが。最早癖だな。が、自分でも不快には思わない」


「そう思っていただけるのは、光栄です」


「お前達は、マックス以上に特別な存在だ」


異能(ギフト)の所持者だからですが?」


「それもあるが……」



 髪を撫でてくださった手が、顔の横に流してる一房を手にした。


 何が起こるのかわからず、ドキドキしているとカイルキア様は手の中でその髪をくるくるといじった。



「あの……?」


「お前も俺のことを言ってくれたが、お前自身にも自覚を持て」


「え?」


「魅力的な人間はお前にも当てはまる」


「ふぇ!」



 まさかまさか!


 王道中の王道!


 長い髪の女性に、キスをするって場面をゲーム以外と言うか、現実で目にする日が来ようとは!


 しかも、それが自分にだなんて!



「お前がもし貴族の令嬢なら、社交界で持ちきりの噂の種になりかねんぞ?」


「しょ、しょんなことは!」


「そんなこともなくない。お前は今は使用人でも、城から感謝状を下賜された身だ。爵位の特定はないが。最低でも、男爵に値はするだろうな?」


「え、え?」


「あの金の麺棒を証として授与されたのだから、それくらいあっておかしくもない」



 そう言いながら、やっと髪を離してはくださったけれど。


 私は彼が言ってくださった言葉をうまく飲み込めずにいた。



(今の私、貴族と同じ身分かもしれない?)



 覚えのない、事件の解決の糸口だとは告げられていても。


 たったそれだけで、貴族と同じ証を貰えた?


 そんなまさか、と混乱してる頭がさらにぐるぐる回っていったが、カイルキア様はゆるく口端に弧を描いた。



「シュラの計らいとは言え、国からあれだけの使者と証を持ってきたのだ。普通なら紙切れ一枚で済まされる事だ」


「え、え、じゃあ、私」


異能(ギフト)抜きに、リュシアの街でも噂になっていただろう? 元糞子爵の被害者はかなりいたからな。色々感謝されてただろう?」


「は、はい」



 今告げられたとは言え、私にはどうやら孤児だった時以上に立場のある人間にまでステップアップしてたらしい。


 と言うことは、強固派の心配はまだあっても……この方の隣に立っても構わない地位にいる?


 もしそうだとしたら……告げてもいいのだろうか、自分の気持ちを。


 さっき触れられた行為に期待をしてしまうくらい、今はドキドキが止まらない!



「あ、あの、カイル様!」


「なんだ?」


「ご、ご迷惑かもしれませんが、聞いていただきたいことがあります!」


「……俺にか?」


「はい! わ、たし」


「チャロナ!」



 いざ、と告白しようと意気込んで顔を上げた直後。


 カイルキア様の驚かれた表情より後の記憶がなくなってしまったのだった。

次回は月曜日〜

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