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10-1.マックス=ユーシェンシー

おはようございます!


本日一話目!


 例の転生者らしい、冒険者さん。


 服も防具関連は外されてたし、多分だけどカイルキア様のシャツとスラックスを着てたんで、またシュライゼン様かと思いかけたが。



(いやいや、髪色違うし……また別のお貴族様?)



 それにしては、エスメラルダさんの扱いが粗雑過ぎるけれど。







 ぐぎゅるるるるるぅううううううううう


 ぎゅるぅううううううううううううう






「あーい変わらずの、豪快な音だねぇ?」



 誰だと言うまでもなく、エスメラルダさんの言葉で確定。


 彼女が未だに首根っこを掴んで持ち上げてる、ガタイのいいお兄さんからのようだ。


 だけど、あんな大音量で響いたにも関わらず、銀髪のお兄さんは全然起きない。


 エスメラルダさんが軽く揺さぶっても、全く。



「とりあえず、こいつは無理矢理起こすとして……エイには悪いけどこいつの昼飯を頼みたいんだ。あと、チャロナのパンも少し分けてやってほしい」


「わかりました。いつもくらいなのを?」


「ああ、山盛りで頼むよ。あたいらは食堂にいるからさ?」


「チャロナ、また後でなー」



 役割分担が決まると、エスメラルダさんは文字通りにお兄さんを片手で引きずっていき、サイラ君はフィナンシェを持ったまま後に続いていく。



「エイマーさん、あの方が?」


「ん? ああ、冒険者だと聞くと……やはり気になるかい?」


「少し……」



 まだ、資格を所持したままでも、もう冒険者であるつもりはない。


 実際のところ、ポーションが作れる錬金術師じゃなかったから、討伐なんかの実戦で役に立つことも無理。


 だけど、まだそこから離れて半月も経っていない。

 気にしてしまうのも、無理がないと言うか。



「知りたがる事は悪いことではないぞ? 彼はこの屋敷にはよく来るんだ。この間伝えた通り、旦那様とは幼馴染みのような間柄でね?」


「旦那様、の?」


「父君が有名な傭兵だったからなのと、大旦那様の護衛を長く務めている関係さ。彼も、腕の立つ戦士(ファイター)として修行中なんだ。今はソロと聞いているが」



 レクター先生は、幼馴染みと言っていいけれどあくまで乳兄弟だから、従者関係。


 実際は砕けた付き合いをしてても、それはカイルキア様が寛容なお陰。


 その上下関係がない、まったく別の付き合いをされてるあの銀髪のお兄さん。お父さんが大旦那様の護衛をされてるから、その流れで……と言うのは、物語でもありそうな展開だ。



「ですと、ゆくゆくはカイル様の護衛を?」


「うーん……まあ、妥当だとは思うけど……やっぱり、あの性格だから」


「な、なにか問題が?」


「……起きたら、わかるさ。とりあえず、注文の方は私がやるから君はパンを頼むよ」


「あ、はい」



 エイマーさんが渋る場合、あのお兄さんも一癖二癖ですまないかも。


 シュライゼン様の時は、エスメラルダさんのように容赦なかったが、常習犯ならば納得。


 今はコーンパンの仕上げと昼前に焼いたパンの残りを温めることに急ぐ。



『ぷぷぷっぷぷ〜出来まちた〜!』



 到着した頃に、ちょうどロティの方は完成。


 そこから間髪置かないくらいに、窯の方もタイマーが鳴った。


 なので、私はコーンマヨを、シェトラスさんがコーンパンを取り出して入れ替わりに、バターロールを温めてくださった。



「うん、いい焦げ目っ」



 細く格子状に乗せたマヨネーズが薄っすらと茶色に焦げ、焼けたマヨネーズのいい香りが食欲をかき立てそう!


 ラスティさん達ももう少しで来るだろうから、少しだけカイルキア様の分や厨房の分を避けておき、残りを少し深めの大皿へ。



「白パンの方も、いい具合だよ」



 シェトラスさんが持ってきてくださったコーンパンも、たしかにいい焼き具合。


 ロティの変身以外での器具で焼くとPTが入るか少し気になるが、別にレベルアップで焦ることもないし大丈夫。


 それも取り分けてから、別の大皿に。

 これを一人で持てないので、もちろんワゴンの台車に乗せていきます。



「……あ、ロティも行っていいんでしょうか?」



 いくら、カイルキア様のお仲間さんで幼馴染みさんでも、契約精霊を見せていいのか許可はいただいていない。



「彼はシュライゼン様に匹敵するくらいよく来るし、多分大丈夫だよ。旦那様には私から言っておこうか」


「お願いします」



 そして、ワゴンを押せる準備が整うと、エイマーさんの方も準備が出来たみたい。



「ひとまず、これだけあれば足りるはずだ!」



 その用意した食事……あり合わせの材料でささっと大量に作ったからって多過ぎる。


 グリルチキン、グリルポテト、私が作った食パンの残りでお決まりのたまごサンドイッチに、枝豆に近い豆を湯がいたの。


 それでも野菜が不足なので、ブロッコリーやカリフラワーを茹でたのに、これまた私の前世知識から作った万能ごまドレッシングを和えたやつ。


 その一皿一皿が、軽くデカ盛りを超えていた。


 あのお兄さん、カイルキア様以上に体格がいいけれど、カイルキア様以上の健啖家なのだろうか?



「さあ、行こうか?」


『行きまっふ!』



 とにかく、待たせてはお兄さんのお腹がもたないので急いで食堂に繋がる通路に出る。


 先にエイマーさんが食堂に入ると、いきなり甲高い声が響いてきた。



「あっらぁ! エイマー、わざわざ用意してくれたのぉ〜ん!」



 誰?と最初思ったが、エイマーさんの後ろにいてよく見えない。


 それに、今の大声、口調は女の人なのにどこか低い。


 絶対エスメラルダさんじゃないし、まさか……と思ってたら次の声が聞こえてくる。



「はやく、こいつ(・・・)に食わせてやってよ。フィナンシェ食い終わってからうるさいのなんの」


「んもぉ〜、エスティったらひと言多い〜」


「毎回燃料切れのようになってから来るあんたも悪いねっ」



 エスメラルダさんは呆れたような声。


 まだ見えないけど、くねっくねしてるようなテンションの高い声は、やっぱり低いし初めて聞く声。


 やっぱり、さっきのお兄さんなのか。



「いいかい、チャロナくん? 彼を見ても色んな意味で卒倒しないように」


「は……はい」



 もう既に、声を聞いただけで参りかけてますが、気合いで乗り切るしかない。



『でっふぅ〜? にゃんだか、オカマ(・・・)しゃんのような声でふ?』


「こ、こら、ロティ!」


「当たらずとも遠からず、と言うべきか。ひとまず、渡しに行くぞ」



 私の思ってた言葉をロティがそのまま言ったが、向こうとは距離があるので聞こえなかったのが幸い。


 とりあえずワゴンを押しながら近づいていくと、例の巨体がエイマーさんの前に立ちはだかった。



「悪いわねぇ〜、いつも色々用意してもらっちゃって〜」


「いや、いつもの事だからね? しかし、今日はこれに加えてさらに良いものを用意したんだ」


「あらぁ、なぁに〜?」


「その前に、うちの新人を紹介したい。さあ、チャロナくん」


「は、はい」



 オカマかオネエかわからないが、第一印象で相手を決めつけちゃいけない。


 それに、シュライゼン様とは違う意味でよく来るお客様ならば、これから嫌でも顔を合わせる相手だ。


 特に、同郷かもしれない相手ならば。


 ちょっとだけ深呼吸をしてから、ロティを肩に乗せてエイマーさんの隣に立つ。


 すると、上から『まぁ!』と声が。



「何この子達⁉︎ 契約精霊ちゃんも可愛いけどぉ〜、主人の女の子も超絶可愛いじゃなぁい!」


『ロティでっふ!』


「んま、ロティちゃんって言うの〜? あたしはこんな話し方だけど、マックスって言うのよん」



 物怖じしないロティに対し、お兄さんことマックスさんを私は気合いを入れて見ることに!


 顔を上げても身長差がカイルキア様よりはるかにあるが、マックスさんは少し屈んでくれててロティを見つめていた。


 その顔は、体格に似合う男らしさ溢れたイケメンさんなのに、カイルキア様とは違う意味でかっこいいのに。



(なんで、オネエなの⁉︎)



 ロティの可愛さにはにゃんと目尻を緩めてる赤い瞳もかっこいいのに、なんて残念さなんだ!



「フルネームは、マックス=ユーシェンシーって言うのぉ。お嬢さんのお名前は〜?」


「ひゃ、チャ、チャロナ=マンシェリー、で、す!」


「あらぁ〜可愛いわねぇ〜!」



 お願いですから、男前なお顔立ちでその口調は勘弁!


 ちょっと逃げたい気持ちになるけど、覚悟は決めたけど、あんまり関わりたくない相手だ。生理的に受け付けにくい人種!


 前世も今も、運が良いというかこう言った口調の人種に遭遇した試しがないので免疫力がてんでない。



「このチャロナくんが作るパンが美味なんだ。さっき渡したここ一番のフィナンシェより断然美味い」


「えぇ〜? パンぅ?」


「あたいらもさっき話してたやつさ。その子が作るのはそんじょそこらの貴族ですら出さない逸品だよ」


「そーそー、チャロナのパンは天下一品だぜ!」


「へぇ〜?」



 サイラ君達の話を聞くと、マックスさんは何故か姿勢を正して、オネエのような仕草もやめた。



「数多の美味を口にした、雷刃砲(サンダークルス)であるこのマックスの舌をうならせてくれるのかい?」


「さんだー……くるす?」



 いきなり変えた男らしい口調よりも、彼が口にした仇名(・・)に聞き覚えがあった。


 抜けさせられたパーティーに加わったばかりの頃、リーダーのマシュランがよく口にしてた憧れの冒険者。



「SSランクのソロ……の?」


「聞き覚えがあるってか? まあ、結構有名だしな?」


「チャロナ、少し前までは冒険者やってたんだよ」


「っ、サイラ君!」



 その事実は、出来ればまだ目の前の凄腕冒険者には知られたくなかった。


 サイラ君はすぐにバツが悪そうな表情になったが、マックスさんは面白いものを見るかのようにあごに手を添えていた。



「服の上から見ても、戦闘向きじゃないな……料理が得意なら、生産職か?」


「……一応、錬金術師です」



 今も名乗れなくはないが、戦闘には不向き過ぎる役職。


 高ランク冒険者に会うことなんてなかったから、何も誇れない。



『ご主人様のパンはただのパンではないでふ!』



 私がうつむきかけた時、ロティが私達の間に割り込んできた。



『おいちいパンでふが、おにーしゃんが一度も食べた事がにゃいパンでふ! 絶対泣くでふ!』


「この俺を……泣かせる?」


「それくらい美味いパンなんだ。あんたもおったまげるよ?」


「…………それが、後ろのワゴンに乗せてあるやつぅ?」



 三人の説得により、冒険者モードを引っ込めたマックスさんは、また元?のオネエ口調に戻った。


 そして、少し前に聞いたように盛大な腹の虫が食堂に響き渡ったのだった。





次は午後一前くらいに

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