87-4.神の目標(ユリアネス視点)
誕生日企画六日目
今日は短め
*・*・*(ユリアネス視点)
「……良かったの、あれで?」
「ああ。まだ時期じゃない。こちらが気づくたびに封印術をかけていくしかないさ」
夫が。
最高神の『フィルド=リディク=ラフィーネ』が。
少しぶりに、マンシェリー王女のために術を行使した。
あの子の知らないところで、躍起になっているヒトの子達が集めている情報を。
今はまだ、あの子達に知られてはならない。
特に今回は、夫と深く関わりがある事だったから。
この人は、一時的にだけど、『消した』のだ。
「……実は、あなたが操ったカイザークが、脱退するようにあのヒトの子に言ったと知れば。ますます、私達を疑うのかもね」
「手遅れだけど。まだ知られちゃ困るし」
そう。
マンシェリー王女を本当の意味で脱退させたのは、神である私達の仕業だ。
ただ、前世の記憶を戻らせるのは、あの手段ではなかったけど。
だけど、ああもドジっ子を見せてくれるとは思わなかったわ。
だから、あそこのタイミングで、あの子の魂を揺すぶらせて前世の記憶を戻させたのだけど。
「ただ、幸せになるだけなら。そこいらのヒトの子でも出来る。けど、あの子のこの世界での本来の役割は王女だ。試練があった方がいいと父親側でも言ってたし?」
「そうね。と言っても、ただの庶民だったとしてもあの子を気にかけてあげてたでしょ?」
「君もね?」
それくらい、チャロナはこっちが手助けしないとと思わせるくらい、可愛くて良い子だ。
前世、蒼の世界でパン職人だった、『周 千里』
の頃を思っても、優しくて良い子だったのに。
ヒトの子のせいで、命を落としてしまったのだ。
それは、マックスもだが、二人とも本当に良い子だったのに。
運良く、魂繋ぎの縁で、こちらの世界に連れて来ることが出来た。
罪人に関しては、レイアークに任せたが。
きっと、向こうの地獄の炎で焼かせてるだけで済まないはず。
なにせ、こちらとの魂繋ぎをする存在を一度でも殺したのだから。
チャロナの記憶も色々いじってはいるけれど、次はどうすべきか。
夫と色々試行錯誤はしてても、最終的にはある到達点を迎えさせるつもりだ。
チャロナと、カイルキアの結婚。
そこは絶対違えてはならないもの。
「……あと2日後に、シアも起こさなくてはいけないから。またお土産を持っていくのかしら?」
「今度は煮物向きの味醂にしようよ。ダシになる昆布とかは兄側に任せればいいし」
「そうね。それくらいのひと苦労はヒトの子にもさせなくてはいけないわ」
と言っても、ヒントはあるから割とすぐに見つかる筈だ。
どの食材も、一応は復活してこの世界に浸透してるもの。
調理方法については、すべて元に戻ったと言い難いが。
「あー、鯖の味噌煮って実際に食べた事ないからなぁ? レイの世界だと保存食の一つにも加わってるらしいし」
空気を一変させて、いつも通りの雰囲気をまとってしまう。
私が、暗い話題を変えたかったからだけど、この人も上手に気持ちを汲み取ってくださったのかも。
「そうね。缶詰の技術は悪食問わずにこの世界じゃまだないし。あの子達に作らせるの?」
「んー。それも面白いけど、まず鉱石が足りないだろうし。この世界の食の復活がされてからでもいいと思うよ?」
「たしかに」
私達の最終目標。
チャロナに、元の王女に戻らせてパンの技術を含める『幸福の錬金術』を全土に広める事。
そのために、多少の手助けと、多少の画策をするのは致し方ない。
だからこそ、本来の姿ではなく、初期の頃の姿で生活しているのだから。
「まだ当分先だけど、力を戻せるように頑張ろ?」
「ええ」
そのために、あの子に力の大半を注ぎ込んでいるのだから。
では、また明日〜ノ