85-1.味噌の活用法は
お待たせしましたー
*・*・*
「チーちゃぁん、朗報よん!」
夕飯の時間帯も終わりかけの頃に、悠花さんがるんるんと上機嫌になりながら、手に便箋のようなのを持ってきた。
「なあに?」
「ほら、カレリアに錬金術習う予定あったじゃな〜い? 候補の日をいくつか提案してくれたから、知らせようと思って〜」
「え、いついつ?」
それは重要なことなので、すぐにお返事しなくっちゃ。
だから、エイマーさん達に少し抜ける事を告げてから、食堂側のカウンター前で待っててくれた悠花さんのとこにロティと向かう。
「えーと、ちょうど1週間後か早い方で4日後ね?」
魔法鳥に使うような便箋に書かれていた事を読み上げてくれると、私は今後の予定を頭で整理した。
・約2週間後は孤児院での定例会
・3日後は、鯖の味噌煮披露
・明日はシュライゼン様達とのパン作り
「だったら、ゆっくり出来る1週間後がいいかなぁ?」
「了解、返事送っとくわ」
「ありがとー」
便箋を懐に仕舞うと、悠花さんはまた上機嫌になって笑い出した。
「少し前に、エイマーから聞いたわよ? 味噌と米が合う食事作ってくれるんですって?」
「うん。鯖の味噌煮作ろうかなって?」
『でふぅ』
「おおお! じっくり煮込むの? それともあっさりめ?」
「うーん。ヌーガスさんから預かった味噌の種類次第だけど」
もらった時に見せてもらった限り、麹味噌だったかな?
一度試作はしたいし、お米は夕飯の前にウルクル様にお願いして瞬間成長等々は済ませたし。
明後日の、厨房組と悠花さん達のお昼ご飯には作ってみようかな?
「鯖味噌ね〜〜……惣菜コーナーで時々は買ってたし。くどい黒っぽいタレもいいけど、薄茶のあっさりめもいいのよね。脂身のとろっとしたとことかもう!」
「わかるけど、今食リポしないで! まだ鯖がないのにぃ!」
『でっふでふぅうううう!』
「だって、超久しぶりなんだものぉおおおお!」
私だって、出来る事ならすぐにでも食べたい。
けど、今材料がないのに作れるわけがないのだ。
港の遠い、この山奥に近い土地の中でも。
厩舎があっても、魚まで養殖してるわけじゃないから、鯖が届くのもあと2日後。
それまで他の魚で代用しようにも、青魚は腐りやすいから無理。
イワシでも出来なくはないけど、この世界じゃ食用と認知されていないのか、チャロナの記憶を辿っても見たことがなかったから。
「味噌汁作りたいけど、かつお節と昆布がないのぉお!」
「あー、ホムラとかは中華文化だから出汁ないものね……」
「うん。鶏ガラとかはあったけど、かつお節がないの。昆布もないの!」
「けど、味噌煮に出汁は?」
「お酒もらったから、あとは生姜と醤油で出来る!」
「ほーう?」
みりんもないけど、そこは砂糖と水で代用。
結構ダメダメなレシピかもしれないが、ズルはしてない。
日本の実家にいた時におばあちゃんが教えてくれた、秘伝のレシピだからだ!
「あと、鯖は一人じゃ捌けないから……シェトラスさん達にお願いしなきゃだし」
「あんたが魚捌けたら、それこそ元パン屋じゃないでしょ? 今でも十分規格外だけど」
「いや。冒険者だった頃は川魚とかはなんとか捌いてたよ?」
そう言うのは、もっぱら塩焼きとかだったけど。
魚と言うと。少し秋にも近づいてきたから、秋刀魚とかも食べたい。
すだちと言わないが、レモン汁でもいいから塩焼きとか。
もしくは、ご馳走感を出すのに竜田揚げにするのもいい。
「あー、けど。大抵の川魚って飽きちゃうわよね〜。この間のシャケも……」
「シャケ……」
『でふ?』
「「…………」」
『ご主人様ぁ?』
今、悠花さんとシンクロしたかもしれない。
「チーちゃん、今何を思いついた?」
「違うかもだけど。味噌とシャケと言えばって」
「奇遇ね。あたしも思いついたわ」
「「ちゃんちゃん焼き!」」
『でふ?』
やはり、私達はマブダチだ!
ハイタッチしてから、腕を組んでクルクルと回り出す。
「冬にいいけど、暑いこの時期でも!」
「ご馳走感半端ないし、美味しいよね!」
「パンもいいけど、米よ米!」
「え、どうする? また皆でパーティ?」
「……何を騒いでいるんだい、二人とも」
「あら、エイマー」
ちょっと騒がしかったと反省すると、エイマーさんが少し苦笑いしながらやってきた。
「何を話しているのかな? また、君達だから知ってる料理かい?」
「はい。お願いする鯖以外にも、シャケと味噌を使った料理を思い出したんです」
「シャケと……例のミソを?」
「シャケ以外にも〜、野菜豊富だし。シャケは美容にもいいんだぜ、エイマー?」
「そ、そうか?」
あ、私の前だけど、ラブラブモード全開だ悠花さん。
口調もだけど、エイマーさんの肩にさりげなく腕回しちゃってるし、部外者からはご馳走さまですとしか言えない。
ちょっと離れようとしたが、説明が終わってないので待機だ。
「で。まあ、作れたら作ろうじゃねぇかって話なんだが。エイマー、どうだ?」
「そう……だね。君達がはしゃぐくらいだからまた一段と驚く美味だろうが、何か問題でもあるのかい?」
「あー。その料理……メインに出すには少し見目が悪いんだよ」
「ほーう?」
「おお振りのシャケの切り身を鉄板に野菜なんかと一緒に焼くんですが、仕上げに味噌と調味料を混ぜたタレをかけて……材料をさらに混ぜ合わせて焼くんです。なので、見た目がぐちゃぐちゃになるので」
「それが……美味しい?」
「美味しいですよ! 味噌以外にも、仕上げにバターも入れるので甘じょっぱいあの風味が!」
「ああ、チーちゃん言わないで!」
「悠花さんも言ってるじゃない!」
「はは。二人とも見てて飽きないが、今ほかに誰もいないでよかったよ」
「「……はい」」
ほんと、今誰もいなくてよかった。
私と悠花さんが仲はいいのは皆さんに知られているけど。
と思ったら。
「……美味い、ものだと?」
何故か、カイルキア様が扉をばんと開いて入って来られた!
「お、カイル? どこから聞いてた?」
「お前とチャロナがシャケの話題を出したところからだ」
「なんだよ。割り込む機会をうかがってたのか?」
「うるさい。……チャロナ、そのチャンチャン焼きと言うのは、そんなにも美味いのか?」
悠花さんの質問を気だるそうに振り払うと、カイルキア様は私の方に振り返ってきた。
「は、はい。エイマーさんにもお話ししましたが。味噌とバターの味が、すごく」
「その料理……シャケがあればすぐに可能か?」
「えと……そうですね。切り身と野菜とかがあれば可能ですが」
「……なら。明日にシュラとカイザーク卿が来るなら馳走として振舞ってやってほしい」
「え」
「おっ前、ただの口実じゃねーの?」
「うるさい」
とまあ、なんと言うわけか。
鯖の味噌煮よりも先に、味噌の活用方法が出動することになってしまったのだった。
次回は月曜日ー