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84-1.食べたくて仕方ない(ユリアネス視点)

お待たせしました!







 *・*・*(ユリアネス視点)








「あ〜〜〜〜! 食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたいたーべーたーいぃいいいいい!」


「うるさいわよ、フィルド!」


「でーもぉー、ユリアだって食べたいでしょ?」


「ひ、否定はしないけど……」



 だって。


 だって。


 まさか。


 まさか。


 まさか、蒼の世界(レイの管理下)でしか食べられなかった『モチ』が出てくるだなんて。


 思いもよらなかったわよ!


 そのせいで、ついついチャロナ(あの子)へのPT加算を増やし過ぎるくらいに。



「ね〜え〜、また小豆以外の食材持って会いに行かない?」


「そ、それは……ごほん、ダメよ」



 魅力的な提案ではあるけど、あの子の様子を頻繁に見に行くことには反対だ。


 本来、この世界の神は神託以外でそう多く、ヒトの子と接しないようにしている。


 ウルクルの場合、(つがい)と認めた今はヒトのままでいる相手がいるからこそ、会いに行く理由にもなるが。


 私達の場合、一応世界の最高神。


 こんな短期間で、頻繁に会いに行ってはならない存在だもの。



「え〜、い〜いじゃん。今更だし」


「今更でもダメよ! 今回もうっかりとは言え、PTを大幅に加算させちゃったし」


「けどさ〜、明日は多分『ぜんざい』とかだよ? 食べたくない?」


「ぜ、ぜんざい……」



 一度だけ、レイの世界で口にしたことがある。


 チャロナが作ってくれた、あんぱんの中身を贅沢に使った……アンコのスープ。


 そこに、焼いたり柔らかく煮たモチをふんだんに入れて。


 わずかな塩気と押し寄せてくるアンコの甘味が美味(びみ)過ぎるスープ。


 それを、あの子が再現してくれるのは、つい先程水鏡で聞きはしたけど。



「あの子の作るものは一級品だよ? これを逃したら、次いつ口に出来るかわかんないよ?」


「そ、そう……だけど」



 今日のように、わざわざ餅つきをせずとも。


 昨日、練習日に加算させたコロンで『餅つき機』の技能を付与させたから、いつでも作るのは可能だ。


 が、それでも。


 無限∞収納棚に保管させた、ほぼほぼ搗き立てのモチについては。


 言いようがないほどの、口福感を得る食材に違いない。


 それを食べれないかも、と言うのはたしかに辛いけど。



「じゃ、じゃあ、フィルド。次はあの子に何を持たせてあげるのよ?」


「うーん……日本酒?」


「は?」



 あの子はこの世界では未成年ではないけど、なんでわざわざ酒を渡すのだろうか?



「ほら、少し前に。味噌もらってたじゃない? それを魚と合わせるって言ってたから……レイの世界で言うワショク? あれを作るのに、たしか必要だって言ってたからさ?」


「……そう。たしかに、レイの管理下にある『ニホン』に類似する国はあれど、完璧に似せてはいないもの」



 同じなようで違う。


 違うけど、同じ。


 それでいて、とても面白い。


 だからこそ、(たま)繋ぎを駆使してまで、チャロナである『(あまね) 千里(ちさと)』をこの世界に転生させたのだ。



「あの味噌って、味噌汁以外にも使い勝手がいいって食材らしいじゃん? だったら、酒の方がいいんじゃないかなって」


「酒……ね」



 そのまま飲むと、独特の風味と味でむせたりするヒトの子も多いらしいが、我が夫が言うように料理にも色々使える優れものにもなる。


 だから、あの子にとって、役に立つ食材にはなるのだが。


 何か、頭の隅に引っかかる気がした。



「ユリア?」


「……何か、忘れてるような気がしてならないのよ」


「え?」


「なんだったかしら?」



 酒に関連して、あの子に関係して。


 かつ、役に立つ食材。


 それも、特にパン。


 なんだったかしら?と、首をひねって考えていると、服の裾をくいくいと引っ張られた。


 夫にしては、変だと思っていると。


 見下ろした場所にいたのは、夫ではなかった。



「ばぁばー!」


「あら、あなたなの?」



 いつからいたのか、この前夫が呼び起こした我が孫のディーシアが、可愛らしい笑顔で私を呼んでくれた。


 私達の見た目は、そう呼ばれるのには不相応だけれど、事実には変わらないもの。



「ばぁばー、しあも食べちゃい!」


「……あなたもなの?」


「おいちーの食べちゃい!」


「……どうしようかしら?」



 出来立てに等しい孫の願いだもの。


 叶えてあげたいけど、連れて行くわけにはいかないわ。


 関係を説明するのもだけど、私達を祖父母扱いするのは、神の孫として植え付けられた認識だもの。



「ん〜〜、シアにはまだ早いんじゃないかな?」



 流石の夫でも、まだ生まれたてに等しい孫の下界観光には反対なようだ。



「え〜〜、じぃじ、なんで〜?」


「俺達をじぃじとばぁばって呼んじゃうから」


「? じぃじ達はじぃじだよね?」


「そうだけど。この姿なら、お兄ちゃんとか呼ばなきゃ」


「……フィルド。あなた、そう呼ばせたら、その子連れて行く気?」


「うん」


「わぁい!」



 ダメだ。この人、食べ物に関する事については貪欲だったわ。


 それは、子供達や孫達にまで似ているのは今更だけども。


 だからって、ディーシアまでもが真似するのは良くないわ!



「いいの? まだ空間が不安定な『白の世界』の主神を実体化させて、そうホイホイと連れて行くだなんて!」


「けど、いつもは一人なんだし。成長させるには定期的に美味しいものを食べさせなきゃでしょ?」


「そ、そうだけど……」



 だからって、見た目乳飲み子と私達の関係をどう濁すのよ?



「う? じぃじとばぁばって呼ばなきゃ大丈夫?」


「そうだよー、シア。お兄ちゃんお姉ちゃんと呼べたらね?」


「う。にーに、ねーね?」


「うん、それなら」


「……はぁ、もうわかったわよ」



 つい先日食べさせてあげたあんぱんだけじゃ足りないのは事実だし、私も意固地になっていてはいけない。


 ディーシアも、聞き分けが出来る神であるのなら、そこは素直に認めるしかないのだろう。



「いーい、ディーシア? あなたは、いずれ(くろ)の世界の……私達の孫のフィルザスに嫁ぐのよ? そこは理解しててね?」


「うん! フィーのお嫁しゃん!」


「……わかって、る?」


「わきゃった!」



 近親同士とは言え、神は神。


 それも、私達の直系とも言える立ち位置にいるこの子とフィーは。


 その中でも、重要な役割を担っているのに。


 ディーシアは、思考がまだ幼いから完全には理解していないはず。


 だからこそ、下界に連れて行くのにはよーく聞き分けてもらわないと。



「大丈夫だって。とりあえず、親戚の子供って事にしとけば俺達の孫だってわかんないよ」


「……そうかしら」


「しあ、がんばりゅー!」


「おう、頑張ろう!」


「「おー!」」


「……はあ」



 本当に、こんな感じでいいのかしら?


 けど、ぜんざいが食べられるのなら。


 少しくらい、わがままになってもいいのだろうか。


 ちょっとだけ、欲が出て来た私は。それから、夫と一緒にニホン酒を取り出すべく、水鏡で探す事にしたのだった。

次は日曜です!

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