81-4.歓迎の集いに
*・*・*
ウルクル様がまた頭の上に乗り、ロティは私の肩の上と結構窮屈になりながら、カイルキア様の部屋に向かうと。
ノックしたら、悠花さんが出てくれた。
「あら、可愛い面子が揃ってどうしたのよ?」
『ほっほ。面白き提案をチャロナがしてくれたのでな?』
「提案?」
『でっふぅ!』
「カイル様の前で、出来ればお話したいんだけど。今大丈夫?」
「いいわよ。あんドーナツ食べ終わったばっかだし。チーちゃん、あれ美味しかったわ〜。OL時代のパン屋を思い出したわよ!」
「良かった!」
悠花さんにそこまで喜んでもらえたなら、作った甲斐があった。
とりあえず、部屋の中には入らせてもらったけど。
コーヒーを飲んでたカイルキア様に、ソファに座る様に言われたが。
ウルクル様が、まだ頭の上から下りなかった。
重くはないけど、ちょっとくすぐったい感じだ。
「……ウルクル神。チャロナが余程気に入られたのか?」
『ほっほ。幼いながらも、卓越した技持ちじゃぞ? 気に入らないわけがない』
「……そうか」
え、そうかでいいんですか?
と、ツッコミを入れたくても、ウルクル様は神様だし逆らえないから仕方ないかも。
なので、態勢はそのままで、用件を告げることにした。
「カイル様。今日も召し上がっていただいた、餡子と合う食材を作るのに。催し物をお屋敷で出来ないかと思うんです」
「催し物を?」
「お、なんだ?」
『妾が以前、ラスティに渡した、もち米と言うのがあってだな? チャロナはその調理法を知っておるのだがいかんせん力仕事らしいのじゃ。ロティとの、異能でそれを可能とすることも出来るらしいが。大掛かりな仕事を皆で行えば、調理の手間も共感出来る上に楽しめる。どうじゃ? 興味はないか?」
「…………つまり、屋敷全体で行えと?」
「いつものように、おやつの時間に配膳するのもいいんですが。たまに……なら、と。勝手に思いました……ど、どうでしょうか?」
「ふむ」
自分でも、相当大胆な提案をしちゃったなあと思ったけど。
カイルキア様は即答せずに、少し考え込まれた。
悠花さんもここには、すぐにツッコミも何も言わずに黙っていて。
レクター先生も、何も言わなかった。
全員で返事を待っていると、腕を組まれてたカイルキア様が大きく息を吐いた。
「…………執務も取り立てて急ぐものはない。それに、チャロナが屋敷の者達と接するには良い機会だ。要は、歓迎の集いと言うところだが」
「じゃ、じゃあ!」
「許可しよう。その催し物とやらに」
「カイル。お前、餡子が山ほど食える方が本音じゃ?」
「ち、違う!」
「悠花さん……」
かっこよく許可を出してくださった、幼馴染としての暴露をされても苦笑いするしかない。
たしかに、甘党なカイルキア様だから、そこも当然あるだろうけど。
『ふむ! 決まったのであれば、いつやるのじゃ?』
ウルクル様は頭の上でぴょんっと跳ねると私の顔を覗き込んできた。
その顔は期待に満ちていて、明日にでもやりたい!って感じだった。
「え、えーと……カイル様、どうしますか?」
「……俺はいつでも構わないが、準備はどれくらいかかるのだ?」
『もち米は妾がすぐに収穫させる! 道具も創るぞ!』
「う、ウルクル様……そこまで、ですか?」
『あのアンコと合う物には興味があるのじゃ!』
とは言え、明日開催すると、シャミーくん達ご希望のあんドーナツは作れないし。
けど、ウルクル様のお望みも叶えてあげたい。
と言っても、餅つきに関しては、うろ覚えの私で出来るかもわからないから、一度リハーサルをしなきゃ。
「ウルクル様、一度予行演習が必要です。明日は、その練習にしませんか?」
『む、練習?』
「力仕事の部分です。私も前世の記憶では曖昧な部分もあるので」
「餅つきか。俺の今の身体なら役に立つから手伝うぜ?」
「悠花さんなら、すぐに出来そう!」
「「モチツキ??」」
「米の一種で、言い方は悪いがスライムのように粘着質のある食材に変わるもんだ。そのままだと、ほとんど米の味だが。餡子や砂糖を混ぜた材料を合わせたりすると美味いぞ?」
「ね! あんころ餅、磯辺餅 、きな粉餅!」
『でっふ! でっふぅううううう!』
今回きな粉は用意出来ないけど、お醤油はまだエスメラルダさんから定期的に分けていただいてるものがあったから大丈夫。
調味料で思い出したけど、ヌーガスさんの味噌の事をまたまた忘れるところだったが。
お味噌……で、お米を使うのは、とりあえず餅つき大会が終わってからでもいいかな?
「……どれも聞いた事がないが。チャロナ、それはお前達の前世だった世界にあった食べ物か?」
「はい。特に私と悠花さんが生まれ育った国特有の食材なんです。お祝い事でも重宝されてますね?」
「なら、ちょうどいいな」
「はい?」
「いや。全員にしているわけではないが。いつもパン作りを頑張ってくれてる、お前の歓迎の集いにはいい機会だなと」
「あ、ありがとうございます!」
改めて言われると、思わずじーんって、感動しちゃう!
好きな人……今の雇って頂いてる方にそう言われてしまうと、感動以上に嬉しい!
「チャロナちゃん、それは本当だよ。いつも美味しいパンをありがとう。僕達こそ、君に感謝してるから」
「先生……」
先生、そのハニースマイルは美し過ぎます!
リーン様だけにお見せした方がいいかもしれないが、今回は私へ向けてのお礼の言葉だったので素直に頷きました。
「んじゃ、明日は練習。準備次第じゃ、明後日が本番になりそうだな?」
「けど、皆さんで餅つきだから。うまくいくといいけど」
「なーに。日本じゃ、ガキでも出来るサイズで学校とかでやらせてたじゃねーか。それと一緒だ」
「「ガッコウ??」」
「訓練所とは違う、一定の年齢まで修学させる義務があった施設だ。結構長いぜ? 6歳から成人年齢までずっとだ」
「その先もあったけど、そこは自由だったんです」
「……それは、国民全員がか?」
「はい。身分差など関係なくでした」
少し懐かしいけど、もうあの世界には戻れない。
それは悠花さんも同じだから、懐かしむ事だけしか出来なかった。
「んで? 道具はウル様が、チーちゃんのイメージから読み取って具現化させるのか?」
『そうさの。それが一番手っ取り早い』
「なら、もち米の方を先に収穫させた方がいいな?」
『ラスティ達には先に話しておるゆえ、賛成してくれたぞ? 妾達が戻れば、すぐに畑に種もみを植え付けよう』
「ウルクル様、苗にしてから……とか。水を張った場所じゃなきゃ、とかは?」
『必要ない。全ての工程を瞬時に進めさせるのみよ!』
「「「「oh......(´・ω・`)」」」」
美味しいものには、実力行使で突き進んで行くのだな、と理解するしかなかった。
ひとまず、日程は悠花さんが仮で立てたのにすることにして、私達は悠花さんも一緒にラスティさんのとこに戻る事になった。
『オモチ〜オモチ〜でっふ、でっふ!』
「ふふ、ロティちゃんのほっぺ並みに柔らかいもんね〜?」
『でふぅううう!』
ロティのテンションが高い。
ロティも美味しいものは大好きだから、出来ればたくさん食べたいのだろう。
なら、うまく行くように頑張らなくちゃ!
明日も頑張ります!




