80-3.あんドーナツ実食(ウルクル視点)
*・*・*(ウルクル視点)
ほんに。
これは、とても美味そうじゃ!
紙に包まれた、たっぷりの砂糖をまぶしてある丸いパンは、紙越しでもまだほのかに温い。
油で揚げたものと言えば、コロッケや普通のドーナツくらいしか知らぬが。
パンを揚げるとは、奇抜じゃが実に美味そうじゃ!
『いただくのじゃ』
「どうぞ」
チャロナに許可を得てから、パンを口元に近づけていく。
鼻につく、砂糖の匂いが強くなるが。同時に良質な油の匂いも強くなっていく。
(まずは……一口)
ふわふわのパンの部分だけを口にすると、襲うようにやってきた砂糖の甘さに加えて、口の中でジュワッと広がっていくパンの柔らかさと香ばしさ。
ドーナツとは聞いていたが、あれと同じにしてはいけない。
これは、まったくの別物じゃ!
『美味じゃ!』
「ありがとうございます」
すると、チャロナは用意していたコロ牛の乳を入れたグラスを差し出してきた。
『?』
「あんぱんには、牛乳がよく合うんです」
『ほーう?』
まだアンコ部分には到達していないが、チャロナがそう言うのなら美味に違いない。
もう一口食べると、予想以上にアンコとパンの相性がよく、甘さと香ばしさが絶妙に合っていて、いつまでも食べていたくなるような味わいだった。
この後に、コロ牛の乳を少しだけ口に含むと。
『な、なんじゃこれは! 美味過ぎるぞ!』
合うとは聞いていたけれど、ここまでとは!
良質な乳で、例えるなら紅茶とコーヒーが食材に合う程度に思っていたのだが。
これは、また別物じゃ。
口の中で、アンコがどんどん引き立っていく。
アンドーナツを口にして、また乳を口に含んでが止められない。
やめられない!
これは、最高の組み合わせじゃ!
『チャロナ。主の知識は、まさしく宝じゃ!』
「そ、そうですね。私の前世の知識は、たしかに宝のようなものかもしれません」
*%●△様による導きはあれど。
ここまで物に出来る童はそういない。
それだけ、前の世で恵まれていた生活をしてただろうが。
そこから離れた今を、この者は憂いているだろうか?
少なくとも、雇い主である童を想うておる辺り、充実しているように思えるが。
とりあえず、二個目を馳走してもらっていると。
チャロナの方から*%●△様の声が聞こえてきたのだった。
【PTを付与します。
『やみつきあんドーナツ』
・製造100個=7700PT
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】
(ほんに、のぅ……)
わざわざ最高神の女神自らが管理されようとは。
それだけ、気にかける要素の強いこの子は。あの方々がおっしゃるように、ただの転生者ではないからの?
(魂繋ぎにより、並行世界から選ばれたとは言え……)
雇い主のあの子とは、すぐには結ばれぬ。
それは少し悲しいことだが、いずれは結ばれるのじゃ。
その事を、妾の口からこの子には伝えられぬ。
時期が来るまで、待つしかないのじゃ。
『ふぉおお、美味ちーでふぅ!』
『ロティ、口周り砂糖だらけでやんす』
『おにーしゃんもー』
『うぇ』
そして、ロティと呼ばれるあの精霊のような者も、ただの精霊を模した者ではない。
レイバルスは懸想してるようだが、それが良い事か悪い事かと言えば、妾からは何も言えない。
あのように楽しげでいるからではなく……本質を知ってるからこそ言えぬ。
今は、それでいいんじゃ。
『けど、ほんに美味じゃの。あの豆を煮ただけでこうも変わるとは』
「あとは、雑穀の粥とか……米でもモチモチしたのを使って炊いたりですかね?」
『米で、モチモチ……?』
「もち米と言うんですけど、この世界ではないでしょうか?」
『いや、あるぞ』
食感だけでは最初よくわからなかったが。
名称を聞けば、すぐに思いついた。
アズキよりは、覚えてた米の品種だったぞ。
「わあー、餅つき出来たら。餡子以外にも合うのがいっぱいあるんですが」
『『「「モチつき??」」』』
「えっと。もち米を蒸して、臼と杵と言う道具を使って蒸した米をついてなめらかにするんです。美味しいですよ?」
『もち米は、粥しか知らなんだが。そうか、斯様な食べ方もあるのか……』
「流石に、臼と杵はないので難し」
『妾に願えば、作れるぞ!』
「え?」
と言うよりも、妾が食べたい!
どんな珍味か知りたい!
それと、願えば叶うと言うのも誠じゃ。
「ウルクル様は、文献にないものも。ヒトが願えば生み出せますからなあ?」
『農耕と食に関する事だけじゃがな!』
「え、でも。…………多分、シェトラスさんやレイ君の腰を痛めるかもしれないですし」
『「腰?」』
「えーっと、こんな風に振り上げて。臼の中のモチをつくんです」
奇妙な持ち方をして、振り下ろす様は。
たしかに、チャロナの言うように腰を痛めかねない姿勢ではあった。
『ふうむ』
「餅つき機があれば楽なんですけど」
『今日のコロンを、ナビ変換に追加しゅれば出来まふ!』
「「『「え!」』」」
その発言は、女神様の言葉か定かではないが。
また一つ、珍味に近づける力強い提案であった。
明日も頑張ります!