79-4.知りたかった
『妾を呼んだかえ?』
「え、いや。話題にしましたけど。どうしていきなり?」
『何。主の所に行くのも、たまには良いかと思ってな? 料理ではないが、何をしておるのじゃ?』
答えをいただいたような、そうでないような感じだけど、神様に逆らっちゃいけないだろうとこれ以上何も言わず。
私の頭の上からゆっくり降りると、ステータスが書かれている紙を覗き込まれた。
「今、チーちゃんのステータスいじってんのよ」
『ほう。ステータスをな? 普通は手を加えられぬが、チャロナのは出来るのかえ?』
「ええ。今その相談してんのよ」
『ほほーう、珍妙な紙よの?』
すると、ウルクル様は絨毯に置いてあった紙を手に取り、じっくりと読まれていくと。
少しして、その紙を強く握りしめた。
『な、なんじゃ……これは!』
それは驚きの声だったが、期待に満ちた声色だった。
『見たこともない、パンの名前がほとんど……なんじゃ、なんじゃこのレシピ達は! 主の錬金術だけの代物だけではあるまい!』
「え、えーと……」
「ウル様、ラスティにも秘密にしてくれるって言うなら、話してもいいわよ?」
「悠花さん!」
「この方に、下手に隠し事しない方が得策よ。加護をあんたに与えてから、大体は気づいてるだろうし。見抜かれるのもすぐよ」
『ほっほ。わかっておるのぅ、マックスは』
「貴女がわかりやすくしてるからでしょ?」
『ほっほ』
たしかに。
錬金術については、一部天の声を聞かれてたり、異能って知られてはいるけど。
まだ、前世が異世界の人間で、今はその頃の知識と経験を活かしてパンが作れるようになっているとは告げていない。
前回はラスティさん達の前だったが、今は悠花さんやレイ君の前だ。
その悠花さんが言うのなら、教えてもいいだろうか。
と言うか、気づかれてるかもしれないけど。
「……はい。私、マックスさん……悠花さんと同じ、前世は異世界出身の転生者なんです。そこに書いてあるパン達は、【枯渇の悪食】で失われたものよりも、その頃の知識と経験で作ってたもの達なんです」
『ほう。稀有な童と思っておったが、輪廻転生を経ていたとは。それなら、納得がいくのぉ』
「ひ、秘密にしてくださいね? カイル様に言われてますので」
『わかっておる。転生した者は貴重じゃ。ましてや、異なる次元の存在。それは宝などと言われても、足りぬほど貴重な存在じゃ』
「あ、ありがとうございます」
神様でもそう言ってくださると、少しほっと出来た。
すると、ステータスの紙を持ってきて私の方に見せながら。
『ところで。この、チョココロネとはなんじゃ? あと、イチゴのアンパンとはなんじゃ!?』
真剣な話が終わった直後なのに、切り替え早!
「え、えーと……今日はお休みの日なので、作れないんです」
『なんと!』
「あ、そうそう。あたしはあんまりないけど、転生者の症状なのか。その子とロティちゃんが、いきなり昼過ぎまで爆睡してたのよ。身じろぎもしなかったから、心配で無理に起こしたんだけど」
『ほう……?』
悠花さんが今日起きた事を説明すると、ウルクル様は両手で掴んでた紙を右手で持って、左手を私の方に向けてきた。
じっとしていると、少しひんやりした手が私のおでこに当てられた。
「あ、あの……」
『少し、待て。すぐに終わる』
「は、はい」
また真剣な声になったので、言われたとおりにじっとしていると……感覚的に5分もかからないうちに手を外されました。
『ふむ。魂も身体も問題はないが……何かを知ろうと、踏み込んだ時の反動かもしれぬな。ロティも関わっておるのなら、その可能性が高い』
「え」
「チーちゃん、あんたまさか」
「う、ごめんなさい。自分の事知りたくて、ロティのナビシステムで検索しようとしたの」
ウルクル様に、そこまで言われてしまうと。昨日は言えなかった事を正直に話すしかない。
だから、私はまず悠花さんに向かって深く腰を折った。
「検索?」
「私が、この国の王妃様に似てるかもしれないって言われてから。自分の今の出生の秘密が気になって、ロティのナビシステムに聞いたの。でも、今はレベルが足りないからって拒否された上に、ロティが深く眠っちゃって」
『にゅ、ロティ覚えてないでふ』
「え?」
「あれ?」
あれだけはっきり聞いたのに、ロティは全然覚えてない?
注目がロティに集まっても、彼女はこくっと首を縦に振った。
『不具合はにゃいでふ。でも、ロティは覚えてないでふ』
「ほ、ほんと?」
『でふ』
「けど、チーちゃんが悪いわけじゃなくても。熟睡の原因はそこだったってわけね?」
「ご、ごめんなさい」
「悪くないって言ったでしょ?」
ぽんぽん、と大きな手で撫でられて、心が少しほっと出来た。
『ほっほ。知る事は悪い事ではないぞ。なにせ、己の事ではな? しかし、チャロナ。ロティがまだ口に出来ぬのなら、精進する手もある。レベルが足りないのなら、あげれば良い』
「は、はい」
ウルクル様にも、頭をぽんぽんしてもらった事で、少し緊張したが嬉しさもあった。
「そうね。あたしも、今はちょっと答えてあげれないの。その楽しみは、チーちゃんのレベルアップにまで取っといてくれる?」
「う、うん」
悠花さん、やっぱり何か知っているんだ。
でも、それはおそらくカイルキア様達も関わってて。
今は教えられないってことは。
私が自分のレベルアップを頑張ったり、もしくは時期が来たら。
教えてもらえるってことなのかな?
(今はそう思っておこう。少し調べようとして、体に負荷がかかったもの)
だから、今は我慢するしかない。
悠花さんに向かって頷くと、彼女?もにっこり笑ってくれた。
『して。これのどこをいじるのじゃ?』
そう言えば、そのことについても聞かれてたんだった。
「えっと……真ん中辺りの『コロン』って言うので、この数字を技能に振り分けるとそのレベルが上がるんです」
『ほう。珍妙なものじゃな?』
「その途中で、ウルクル様からいただいた加護のお話をしてたんです」
『ほうほう。……おお、こんな下に書かれていたとは』
「次の作物は、小豆と言う豆に決めたんです」
『アズキ?』
「え、ウルクル様でもご存知ないのですか?」
『い、いや……待て。…………おお、おお。最果ての東の地の豆じゃったな。あまりこちらでは見かけぬから覚えておらなんだ』
「さ、最果て?」
転移ですんなり来てはいたんだけど、フィルドさん達はいったい何者なんだろうか?
まさか、神様……は、ちょっと考え過ぎかも。
転移は私も会得出来たし、フィーガスさんのように魔法が得意な人だったら、別に不思議じゃない。
『で、それはどんなパンが作れるのじゃ?』
「そうですね。さっき質問してくださった、あんぱんの中身になります。甘くて美味しいですよ」
『食べたい!』
「ウル様。あれ仕込み大変だから、明日じゃ無理よ?」
『……ほうかえ』
「豆を煮るのに、一苦労かかっちゃうので……」
こればっかりは、チート技能を使ってもあんまり短縮出来ない。
専門家じゃないけど、小豆を炊くのはとても慎重な作業だから。
でも、いい機会かもしれない。
「ですが、技能の練習を兼ねて行えば。もしかしたら、大丈夫と思いますよ」
『誠か!』
「チーちゃん、無茶しちゃダメよ?」
「大丈夫。ロティと協力すれば……揚げあんドーナツが作れるかもしれないよ?」
「(`✧ω✧´)キュピーン!」
『今度は、揚げるんでやんすか?』
『ドーナツはわかるが、あれは普通のだとスカスカでむせるがのぉ』
『サク、じゅわ〜〜の美味ちードーナツでふぅう!』
「ねー?」
バター焼きも悪くないが、ウルクル様にもっと喜んでいただけるなら、もう少し手間をかけてもいいだろう。
次に作るものが決まったら。
全員で、コロンの振り分けをもう一度話し合い。
ハーブアイスティーがなくなるまで、仲良く話し合うのだった。
明日も頑張ります!