77-1.褒められる
*・*・*
今日は晴天。
ピクニックとかにはもってこいの天気だけど、ピクニックはしません。
レイリアさんとの約束を果たすために、リュシアに行きます!
「調理用の制服は持って行くし、あとは……」
これと言って私服と言うのはあるにはあるけど。
せっかくだから、シュライゼン様に以前お見舞いの時にいただいたワンピースでも着て行こうか?
「どう、ロティ?」
『お似合いでふううううう!』
「なら、よかった」
カイルキア様に見せることはないだろうけど、新品の服ってテンションが上がっちゃう。
しかも、肌触りの良いいい仕立てのものなら尚更。
持ち物は収納棚に入れてあるから、いつでも出発可能。
と言っても、先日覚えたての転移で行くわけじゃないから、はいそうですかにはならないけど。
ちょっとスキップしながら、ロティを右手で繋ぎながら階段に向かうと。
「あ」
『でふ?』
「……チャロナとロティか。今出かけるのか?」
「は、はい!」
まさかまさかの、カイルキア様との遭遇。
魔法陣のスペースから出てきたってことは、下の方に用があったんだろうか?
と思ってたら、カイルキア様の口元が緩んだ!
「……以前、シュラから贈られた品か。よく、似合ってる」
「あ、ありがひょごじゃいます!」
「ぷ。そう慌てずともいいだろう」
「ふ、ふぇ!」
カイルキア様から贈られた品じゃないにしても。
似合ってると言われて、しかも微笑み付きとくれば。
照れないわけがない!
『ご主人様はきれーきれーでふ!』
「そうだな。いつも身奇麗にしてるが、今日は髪を下ろしているしな?」
『でっふ、でゅふ!』
あの、なんなんですかこの会話。
ロティのはいつも通りだけど、カイルキア様が私を褒めるだなんて。
料理については慣れたつもりではいたけど、それ以外ってほとんどないから……恥ずかしい。
ものすっごく、恥ずかしい!
「だが、その格好で指導しに……いや、収納棚があったか?」
「は、はい! ミュファンさんには、私の異能については話してありますので」
「そうか。まあ、あれだ。道中気をつけるんだぞ?」
「は、はい!」
『でふぅ!』
ああ、ここに居たら。ひょっとしたら、この方に態度でバレてしまうかもしれないもの。
だもんで、急いで降りようと階段に足を運んだら。
お約束ってくらいに転けかけました!
ついでとばかりに、カイルキア様に抱きとめられました!
「っと。今気をつけろと言ったばかりだが?」
「す、すすす、すびません!」
『ご主人様ぁ、大丈夫でふか?』
「だ、だだだ、だいじょぶ!」
そうして、ヒョイっと軽々私を片腕で持ち上げられたカイルキア様に。
いってきます、と助けていただいた御礼を言ってから。
ロティを腕に抱っこしながらゆっくりゆっくりと階段を降りたのだった。
『ご主人様の心臓、ドッキドキでふ〜』
「無茶言わないで」
だって、好きな人に抱き止められたんだよ?
しかも、私のささやかな胸にぐっとたくましい腕が回されたんだよ?
おまけに、耳元で囁かれたんだよ?
鼓動ばくばくどころか、口から心臓が出てもおかしくはない!
階段を降りたら、ダッシュで玄関に向かうと、私の様子を見た悠花さんに不思議そうに首を傾げられた。
「どうしたのよ?」
「な、なんでもにゃ!」
「?…………ははーん、もしかして。カイルとラブコメ的な騒動でもあったとか?」
「にゃ、にゃんで!」
「あんたが慌てる要素ってそれくらいしかないじゃない?」
「う」
『でふ。旦那しゃまに、ぎゅーって助けてもらったんでふ』
「ま、詳しく聞かせて?」
「やめて!」
などと、ロティが全力で暴露しそうなのを止めに行くも。
結局は全部吐き出してしまったので、私は恥ずかしさに悶えてしまうことに。
「いいじゃないの。以前も姫抱っこされたんだし、あいつが気を許す女は親族以外でも貴重よ?」
「そ、そうかな……?」
「まー、カレリアは幼馴染だけど。あの子の相手は、フィーだし? パーティーにいた頃はそりゃ、面白かったわ」
「お、面白い?」
「くっつきそうでくっつきにくかったのよ、あの二人。今では仲良く一緒に暮らしててもね?」
「へ、へー?」
「おーい、お待たー」
「お、遅れました」
そうこうしているうちに、サイラ君とエピアちゃんもやってきたので。
馬車の御者さんである、ジョージさんにお願いしてリュシアに向かう事になりました。
「けど。ほんと、あんた達の初デートに休暇使った方が良かったんじゃないの?」
馬車の道中、少し経ったら悠花さんが突拍子もなく言い放った。
「で、で、で、デート……」
「あー、まあ。いや、考えてはいたけど。先にレイリアからの相談もあったし」
「チーちゃんについて?」
「そうそう。あいつにもパン食わせたからって。その頃会いに行ったら、そりゃもう熱弁されてよ?」
「チーちゃん信者、第四号あたりかしら?」
「なんで第四号?」
「一号は言わずもがな、エイマーだろうし?」
「「エイマーさん?」」
「あー、エイ姉ならわかる。チャロナのパンについては、結構熱く語ってたし」
「う、うん。チャロナちゃんの居ないところでだと、すごいよ?」
「あ、あはは……」
パン作りの時は、いつも真剣に聞いてくださってはいるけど、まさか信者とは。
「他は、シェトラスにカイルに、あとシュラもかしら?」
「それくらい、チャロナのパンは美味いしな! この間の、昼に出たピザパンって言うのも。びっくりしたけど、予想以上に美味かったし!」
「あ、ありがとう」
試作した日には、お昼にちょうど出せたのでお昼ご飯のお弁当にしたら。
トマトソースのも合わせて出したけど、皆さん驚かれて。
でも、とっても美味しいと嬉しいお言葉をいただけた。
カイルキア様からも、おかわりを二つもしてくださったっけ?
「あれ、チャロナ。顔赤いけど、熱か?」
「へ?」
「違うわよ。この子の場合、あんた達みたいに想う相手がいんのよ」
「ゆ……マックスさん!」
「あ、わかった。チャロナ、旦那様に惚れてんじゃね?」
「えええええええ」
な、なんで、一度も話していないのにバレてしまってるのだろうか?
まさか、彼女になったエピアちゃん?と、振り返っても。彼女はふるふると首を強く振るだけだった。
「いやだってさ? 旦那様に助けてもらったんだし、試験にも採用されたんだろ? よく恋物語にもなくね? そう言うの」
な ん て こ と だ!
「てか、チーちゃん。叫んだら、そうだって言ってるようなもんじゃない?」
「う、うう……」
「別にいいじゃん。使用人とその主人が付き合うのとかって。身分差なら、この国の王様達とか相当だったんだぜ?」
「そ、そうかもだけど……」
「チャロナちゃん、可愛いんだから大丈夫」
「だ、大丈夫じゃない!」
エピアちゃんみたく、綺麗で可愛くないもん!
そう言い放つと、何故か全員豆鉄砲をくらったかのような表情に。
「チーちゃん」
「ん?」
「ずっと聞きたかったけど。誰、誰なのよ? あんたの可愛らしさを否定したのは?」
「え、ええ?」
誰もされていないけど、と答えたら。
何故か、悠花さんは難しい表情になってしまった。
「もうすぐ、リュシアの門だよー?」
「あ、はーい」
ジョージさんの声掛けをきっかけに話は終わりとなり。
手続きと門をくぐって、指定の駐車?場で降りてからも。
悠花さんはまだ難しい顔をしたままだった。
ラブコメにならない……けど、頑張れチャロナ!