75-2.神も実食(ユリアネス視点)
*・*・*(ユリアネス視点)
蒼の世界の出身者は、本当に食べ物に関しても色々工夫しているようね?
あんぱんについては、多少知ってる部分はあったけれど。
さらに焼くって発想はなかったわ。
でも、夫も興味津々なくらい、私も興味がわいてきた。
香ばしくもいい匂いで、とっても美味しそう。
「ね、ね。ユリア、せっかくなんだしいただこうよ!」
「そ、そうね」
じっと見つめてても何も始まらない。
それに、食べなくては勿体無いもの。
どちらから先に食べた方がいいかとチャロナに聞くと、温かいのが薄い方らしく、そちらを手にする事にした。
(ほんと、まだ温かい……)
作りたてなのかしら?と疑問に思うも、食べなくては。
夫は相変わらず大口を開けて食べようとしてたが、女の私にはそれははしたないので。
カプッとかぶりつくと、同時にサクッとした食感が口いっぱいに広がった!
「うっわ、なにこれ! サクサクしてて、バターの風味がじゅわって口に広がるのに。中は甘いのとクリームみたいなのが入ってて!」
「中の白い部分はクリームチーズと言うものになります」
「え、これがチーズ?」
「おい、しい……」
フィルドの言う通り、パンの香ばしさに加えてサクッとじゅわってする部分にも驚いたけれど。
中身は一体なに?
あんぱんは、小豆を煮て柔らかくしたものだけとは知ってはいたけれど。
少しなめらかなのが、チーズって言うのもはじめての食感だわ。
「はい、少し作るのは大変ですが。小豆で作った餡子とも相性は抜群なんです。今回は、マックスさんの要望もあってさらに焼いてみました」
「俺これ好きー!」
私も、好きになってしまいそう。
小豆の煮たところは、柔らかくて優しい甘さで。
その中にある、クリームチーズと言うのがさらに口の中に優しく広がっていき。
加えて、表面のパンの香ばしさが。いつまでも食べていたくなってしまう。
これはもう、やみつきになってしまうわ。
「少しの工夫で、こんなにも美味しくなるのね……」
「ユリアさん達にいただいた、小豆のお陰です」
「けど、活かせたのはあなたの力よ。小豆は粥でしか食べてなかったもの」
それが、こんなにも美味しくなるだなんて思いもよらなかったわ。
「そ、そうでしょうか? あ、普通のあんぱんもよかったらどうぞ」
「「いただきます!」」
そうだわ、普通のもせっかくあるのだし食べなくてわ。
こっちは持った瞬間から柔らかくさが手に伝わってきて。
バターの方と同じように、カプッとかぶりつくと、パンの部分が舌の上で優しく溶けていった。
「すごい、柔らかいわね?」
「餡子の部分まで到達してから、こちらの飲み物を飲んでみてください」
「? これなーに?」
「コーヒーにコロ牛乳を入れただけの、アイスカフェオレと言うものですが。あんぱんとの相性がすっごくいいんです」
「うん。俺ちょうどアンコのとこいったし……う、っわ! なにこれ、うっま! ユリアもやってみて!」
「え、ええ」
少し時間がかかったけど、アンコの部分まで美味しくいただいて。
その直後に、ミルクティーにも似た見た目のアイスカフェオレと言うのを口にすれば。
口の中が、また違った口福感に満たされた。
「ね、ね? 美味しいでしょ?」
「本当に……」
なんて、例えようがない幸せな気持ちかしら。
食でこれだけの幸福感を得た事は。
神として生まれてから、そう多くはない。
この人との子供を産んでから(神として)、かしら?
それも今では遠い出来事だけれど。
「あの小豆からこんな美味しいのが出来るだなんてさ? この屋敷の主人が羨ましいよ、毎日食べれるんだから」
「フィルド、わがままを言わないの。彼女はここの使用人なんでしょう?」
「そうだけど、羨ましいー!」
「あ、あはは……」
その主人であるカイルキアとはいずれ結ばれるとしても。
そのいずれを先延ばしにさせてしまうのは本当にごめんなさい。
私達のわがまま、ひいてはこの世界のためにも。
まだ、あなた達を結ばせるわけにはいかないのだから。
「じゃあさ、じゃあさ。少し、持ち帰ってもいーい?」
「ええ。少しだけなら大丈夫です」
「本当に、ごめんなさいねチャロナさん」
「いいえ。いただいた小豆のお陰で作れたんですから」
そうして、異空間収納にそれぞれのあんぱんを入れて。
前回のように、玄関から転移で戻ってから。
フィルドは誰かを呼ぶための召喚魔法を使い出した。
「誰を呼ぶの?」
「あれの番候補。って言っても、ほぼ決定だけど」
「フィー……フィルザスのね?」
「そうそう」
黑の対である白の世界。
そこに生まれたばかりの、小さな小さな我が孫の一端。
黒い空間に、白い光がほとばしり。
目を開いた瞬間には、魔法陣の上に小さな赤ん坊が座り込んでいた。
「おー、よしよし。俺達の孫、ディーシア!」
「あう……?」
「美味しい土産があるんだ、食べるか?」
「食べう!」
土産はこの子のためだったのね?
けれど、普段は眠りについているこの子にも知っててほしい。
本来の美味しい食事と言うものを。
なので、私はチャロナに教わったアイスカフェオレを入れてから三人で食べることにした。
明日も頑張ります!