74-3.なんでなんで?(レイリア視点)
*・*・*(レイリア視点)
あと少し。
あと少し、であの姐さんとも会える!
(楽しみ、だなあ……)
店先の掃除をしながらサッサ、サッサと箒で石レンガの道を掃き。
頭の中は、姐さんに会える楽しみでいっぱいになっていた。
(……けど、王女様。なのに……あ、あああ、あたし、いいんだろうか?)
あの方が今も過ごされていらっしゃる、ローザリオン公爵家では、何故か使用人としていらっしゃるらしいが。
「けど。クッキーの出来を見てもらえるの……う、嬉しいし」
悪くもないが、よくもない。
それが、この店以前にも孤児院で育ったあたしの料理の出来だった。
そんな料理の一部を、あの方は残念がることも呆れることもなく、正確に判断してくださった。
彼女が、まさか王女様だって言うことは、帰ってから店長に教わったんだけども。
「サイラが、連れてきてくれるって言ってたし」
魔法鳥で教えてくれただけだけど。
なんでも、その王女様のお陰で以前から想っていたエピアと結ばれて、報告に来たいからって。
そこについては、友人として嬉しく思ったけど、なんでまた王女様まで?
サイラとあたしとじゃ、ほとんど年の差はないにしても、彼はただの友人として思ってるのだろうか?
(どっちにしても……会えるのなら嬉しいし)
あの時、ちょっとだけいただいたアドバイスでも、クッキーの出来が多少マシになった。
自分でも色々試行錯誤はしてみたが、店長達にアドバイスをもらっても、それ以上はうまくいかない。
だから、王女様が来てくれるのなら、是非ともアドバイスが欲しいのだ。
「精が出てるな?」
「ひゃ!……シュー先輩!」
声をかけられたのは、幹部のシュィリン先輩ことシュー先輩。
店長とは違った華やかさを持ってる、実質店のNo.2。
今は、暇な時間のせいか、いつもの重そうなホムラ皇国の民族衣裳じゃなくて、動きやすそうな服を着ていらした。
「驚かせたか?」
「せせせ、先輩が、いきなり声かけてくるから!」
「そうか。今少し暇になったからな。掃除、手伝おう」
「え、で、ででで、でも、先輩にそんなこと」
「いいから。ほら、俺の服じゃ地面につくから」
などと、箒をとってあたしにはちりとりをつかませ。
いつのまにか、ゴミを受け取る姿勢に。
そして、あっという間に終わってしまったので。道具を片付けてから、暇な店内で何故か先輩とお茶を飲むことに。
「い、いいい、いいんですか? こ、こここ、こんなのんびりしてて」
「たまにこう言う日がある。別にばちがあたる訳でもない」
そう言いながら、ふつうにお茶を飲んでるだけなのに、絵になるシュー先輩だった。
先輩がそう言うので、お茶を一口飲むと、何故か先輩にこっちを見られていた。
「な、何……か?」
「いや。少し前から聞いてしまったが。姫と会うんだったな?」
「ど、どどど、どこから!?」
「クッキーの出来云々のところ、だな」
「( ˙◊˙ )」
なんて恥ずかしいところから聞かれてしまったんだ!
けど、先輩は呆れる事もなく、ただあたしの驚いた顔を見ても、口元を緩めるだけだった。
「以前に比べれば、お前のクッキーも多少はマシだったが。まだ店には出せないな?」
「う、うう……何が悪いんでしょう」
「俺も、調理の方にはあまり加わらないが。姫には以前なんと言われた?」
「え、えと……混ぜ方と、温度の管理……だと」
「ふむ。それであそこまで改善出来たんだ。努力は惜しまないことだ」
「は、はい!」
先輩に褒めてもらえた。
褒めてもらえたことがすっごく嬉しい!
「なーに話しとんの?」
「お、レイリアじゃねーか。シューとは珍しい組み合わせだなあ?」
「お、お疲れ様、です!」
幹部勢の、カーミア先輩にフェリクス先輩。
フェリクス先輩は相変わらず、女装が下手だけど、その奇抜さが客には受けるらしい。
それはさて置き、なんで先輩方が?
「もうすぐ。こいつのとこに、姫が遊びに来るらしいからな」
「あ、店長から聞いとる。たしか、クッキー作りに来るんやろ?」
「今度の孤児院への差し入れで、俺達はまた会えるけどなあ?」
「え、先輩方、お会いになられるんですか?」
「おう。あと、シューに店長も行くぜ?」
なんだろう。
ちょっとだけ、いや、少し悔しい。
別に、王女様にお会いする優越感に浸ってたつもりはないんだけど。
なんだろう、このもやっとした感じは?
「また美味いパンやろなあ? シュー、なんか聞いとらん?」
「なんで俺に聞く?」
「あんた、曲がりなりにも幼馴染みやったやん」
「そ、そそそ、そうなんですか?」
「秘密やで?」
シュー先輩と、王女様が幼馴染み?
だとしたら、王女様も、昔は孤児だった?
なんでなんで?
疑問がいっぺんに頭の中に浮かんでも、先輩方は誰も答えてくださらなかった。
「……それより、オーナーからの魔法鳥で知らせがあったが。ローザリオン公爵家御令嬢までいらっしゃるようだ」
「……ってことは…………あの」
「お転婆嬢ちゃんが、来るってか?」
「お、お転婆……ですか?」
「レイリアはほとんど会ったことあらへんかったなあ? オーナーの幼馴染みはんの妹君や。魔力も高いし、相当な狩りの腕前持ってるで。たったの14でな?」
「せ、成人前で!?」
ローザリオン公爵様については、この店に来ることもあるので何度かはお会いしているが。
その妹君とはまだお会いしてない。
が、そんなにも、すごい力の持ち主なのか。
まだ、たったの14で。
「……先日。レクター様とようやく結ばれたらしいが」
「「マジで!?」」
「本当ですよ。ほら、暇だからとは言え、話しすぎも良くないですよ??」
「「「「店長!」」」」
今度は店長までやって来られたので、話はここまでとなり。
シュー先輩に、お茶を淹れていただいたお礼を言うと。
ああ、と言いながら寂しそうに笑った顔が。
あたしは、少しの間忘れられなかった。
明日も頑張ります!