73-1.小倉あんぱん作り①
今日からあんぱん作り!
*・*・*
私は貯蔵庫の結界のところにロティと向かう。
必要なのは、常時保存している食パンじゃない。
技能の時間短縮とかで、時間を縮めもせずに一晩置いておいたものがあるからだ。
結界の一部を開けて、ロティと入り、結界の隅に置いておいた大鍋を覗き込む。
「どうかな〜?」
『じょうかにゃ〜?』
ほぼ同時に声を出しながら、鍋を覗くと。
水もすれすれにまで浸かってる、昨日いただいたばかりの小豆達が少しばかり膨らんでいた。
「うん、これくらいでいいよね!」
『持ってくでふ〜?』
「そうだね。今日は試作だけど、明日にはフィルドさん達に渡せるようにしたいし」
そのためには、小豆を炊くのを成功させなくてはいけない。
この世界では初の試みでも、千里だった前世では毎日のように炊いてたから、全然覚えているもの!
ロティに大鍋は魔法で運んでもらうようお願いして。
生地は先に作って、ラップをして冷蔵庫に寝かせてあるから、今は餡子作りに専念すればいい。
「水を足して、火にかけて」
まずはグラグラ煮立たせるまで、沸騰させます。
「チャロナくん、この豆でも白あんのようにするのかい?」
「いいえ。こしあんもいいんですが、せっかくのいい豆なので皮ごと使う『粒あん』にします」
「ほう。口当たりがよくないのでは?」
「好みによるかもですが、まあ見ててください!」
絶対美味しい餡子を作らなくっちゃ!
そのためには、多少の手間も惜しみません!
ひとまず、豆が水をまたさらに吸ってきたら火の強さを少しだけ弱めて30分以上煮て。
『お湯ちゅてるでふ〜』
『え、せっかく煮たのに捨てるでやんすか?』
「ここでお湯を捨てる工程を『渋抜き』と言います」
「「『しぶぬき??』」」
「白あんでもお湯を捨てますが、小豆は湯に色とアクが移りやすいので一度湯を捨てるんです。場合によっては何度か捨てますが、私のは後でまた水を入れ替えますので、ここだけにします」
各家庭、それこそ和菓子業界では星の数程違うとされているが。
私は、私が美味しいと思ってる、店長直伝の手法で行こうと思う。
ウスターソースの件もだけど、出来るだけ手作りでこだわってた店長は、本当になんでもされてたから。
(その積み重ねが今役に立つだなんて思わなかったけど、損な事にはなってないし)
むしろ大助かり。
料理チートの大部分は、ロティもだけどその知識と経験がすっごく役に立っているから。
「水を今度はひたひたになるまで入れて、煮えてくるまで強火にかけます」
「ま、豆が割れないかい?」
「そこです。割れさせるまで煮ないと美味しく出来ません」
「ともかく、私達は覚えるしかないね?」
次は、煮えてきたら豆の一部が割れてくる。
けれど、このまま強火で煮ると割れ過ぎてせっかくの身の部分がお湯に溶けちゃうので。
じんわりと煮て、豆を割るのにコトコト弱火で煮込んで行く。
「ここから、20〜30分ほど煮ますが、要所要所で火加減を調節します」
「ほう? 今度はあえて弱火で?」
「いんげん豆に比べると皮も薄いですし、身の部分も粉々になっちゃうので。ここからは火加減との勝負とも言えます」
「「ほーう」」
『でっふぅ。お豆しゃーが美味しくなるでふ』
『へー?』
規定時間煮て、豆の大部分が割れてもまだまだ煮ていく。
ここから弱火でさらに30分〜40分煮るが、時間も限られてるので時間短縮!
少し心配だったが、技能をかけても豆はいい具合に割れていて。
「これで、味は当然しませんが。芯の部分がないかを食べて確認します」
豆を少しすくって、小皿に移して全員に行き渡らせます。
『なーんも入れてないでやんすから、豆の味しかしないでやんす。けど』
「うん。皮も身も柔らかいし、ここに甘味を加えたら美味しいと思う!」
「チャロナちゃん、この豆は甘さ以外調味は出来ないのかな?」
「詳しくは私も知りませんが、私と悠花さんがいた世界だと甘みをつける方が主流ですね?」
さて、ここからが少し大変。
技能も使えないと思うから手作業。
大鍋をシンクに入れて、水を適量加えながら流水で冷やしていく。
この時、勢いよく水を入れ過ぎると、せっかくの豆が台無しになるから我慢。
しばらく、湯の色で濁っているのがだんだんと透明になってきて。
完全に水の色になったら、蛇口をひねって流水を止めます。
ここで、大丈夫かおたまを使ってすくい上げると?
『あ、豆の割れてる部分が見えにくいでやんす』
「これならきっちり冷えてるサインなんだー」
「いんげん豆とはまた違った手間がかかるんだね?」
「もう少し踏ん張りますよー」
「うんうん。私達も頑張って覚えるよ」
これをザルにあげて、時間短縮でしっかりと水を切って。
「ザラメがないので、砂糖を使います」
ザラメ糖の方が仕上がりがあっさりするんだけど、ないものはないので仕方ない。
水を切った豆を鍋に、そこに砂糖を加えて。
「木べらでまぶすようにしてから、中火で10分ほど炊くと。豆から水分が滲み出てきます」
ここからグツグツ煮ても、小豆は焦げないので大丈夫。
「時々、かき混ぜて。10分くらい経ったら……練るようにしてこねます!」
真ん中から一直線に奥まで、そこから左右どちらでもいいので回すようにこねて。
「注意点は、混ぜるのではなくこねて」
水気がなくなったら、豆の部分を潰す作業に取り掛かる。
幾度か潰して、こねてこねてを繰り返し。
完全に、つぶあんの状態になったら、大皿に玉を作るように木べらで分けて自然冷却。
と言いたいところだけど、おやつの時間までそうないので時間短縮。
指で触って、完全に冷ましてからここでも試食タイム!
「「んん!?」」
「いんげん豆とはまた違うでやんす! 風味もまた違うでやんすけど、優しい甘味でやんす!』
『美味ちーでふううう!』
「後味がすっと抜けていくようだよ。何も味付けしてなかった時と、こうまで変わるとは!」
「これがあんぱんになると、さらに美味しいですよ?」
「楽しみだねぇ?」
餡子はこのまま放置でいいので、次は生地の分割からだ!
しばらく続きます!