71-3.ヒトとの会話(ユリアネス視点)
今日は短め
*・*・*(ユリアネス視点)
ふふふ。
喜んでもらえて何よりだわ。
私達の都合と、この子の魂繋ぎのために異世界転生させたとは言え。
水鏡で見るよりも、随分と楽しそうに過ごせているようだわ。
手土産にと、レイアークの世界では普通に入手出来て、この世界ではかなり遠方じゃなきゃ手に入らない小豆を見せたらとても喜んでくれた。
しかも、私達がそれを使ったパンが食べたいと言えば、快く引き受けてくれたし。
ほんと、いい子を引き当てたものだわ。
「この前は、いちごの乾燥させたのといんげん豆であんぱんと言うのを作ったんです」
「あら、可愛らしい。小豆とはまた違うの?」
「小豆で作っても美味しいかもしれないですね。ただ、栗の方が合うかと」
「まだ時期じゃないから、それは無理ないわ」
挨拶も、手土産も渡したし、そろそろお暇しなくてはいけないわね?
フィルドにも目配せすれば、わかったかのように苦笑いしてくれたわ。
「じゃ、俺達そろそろ帰るよ」
「もっといてくれもいいじゃなぁい」
「小豆渡したらもともと帰るつもりだったからさ? おやつもらえたのはありがたかったけど」
「えらく今日は低姿勢ねー?」
ほんと、前回は好き勝手やってたもの。
とは言え、チャロナとロティの様子を見るためには、レイバルスの知人と称して、かつ手伝いを買って出る方が輪に溶け込むには都合が良かった。
もともと、好奇心旺盛な性格の人だし、神と隠していても腕前は誇れる人だからそこは良かったけれど。
今回は、単純にお礼に来ただけだもの。
「その、前は夫がすみませんでした」
「あら。奥さんのあんたが言う必要はないわよ。それに、こいつはチーちゃんの役に立ったんだから何も悪い事してないし」
「それなら良かったですけれど」
この転生させた子も、性格は色々特殊だが悪い子じゃないみたい。
前にフィルドが空腹を装ってやってきた時も、勘が鋭いから色々探っちゃって。
結果的には、この子以外にも、ほとんどの子達の記憶から私やフィルドの名と記憶を色々いじったけど。
今日だけは、普通の来訪だもので名前だけは呼べるようにしてるのよね。
『もう、帰っちゃうんでふか?』
ロティと名付けられた、このAI精霊は別れを惜しんでくれてるようだけれど。
【大丈夫よ、あなたがチャロナを導いてあげなくちゃ】
【でふぅ……頑張るでふぅ】
【その調子よ】
髪を撫でてあげながら、念話で励ましてあげて。
ロティはチャロナの元に戻ると、寂しさを紛らせるのにぎゅっと抱きついていった。
本当に、可愛らしい精霊になっている。
あの子が核になっているとわかってても見ていて微笑ましいわ。
「名残惜しいけれど、帰らせてもらうわ」
「でしたら、次は二日後にいらしてくれませんか?」
「まあ、そんな早く出来てしまうものなの?」
「はい。任せてください」
チャロナ……いいえ、この世界の本来の身分では王女だけれど。
今は使用人だからか、いい笑顔で答えてくれたわ。
だから、私も出来るだけいい笑顔で返してあげた。
「じゃ、まったねー?」
「次は二日後に」
玄関に移動してから、フィルドが指を鳴らすと、私達の姿はそこからかき消えるように薄らいでいく。
当然、チャロナ達は驚いていたけれど、またね?と私も口を動かした。
到着した場所は、もちろん暗いあの狭間だけれど。
私達の心はとても満たされていた。
「マンシェリーって、ほんと優秀だよね?」
「わかってはいても、二日で完成させれるとは思わなかったわ」
それだけ、あの小豆をうまく使ってくれるからだけど。
レイアークはともかく、この世界じゃ需要の少ない小豆をどう使ってくれるのか。
甘いパンとは聞いたけど、楽しみでしょうがない。
「じゃあ、二日まで寝ちゃう?」
「そうね。ヒトの世界に降りるのはなかなか疲れるわ」
短時間だったとは言え、空気も多少淀んでいるから神とは言えども疲れないわけがない。
なので、ヒトのようにベッドを作ってから二人で横になるのだった。
(ロティ……あの子を表に出すまで。どうか、チャロナを導いてあげて)
なかなか次のレベルが上がらない理由も、そろそろいじってあげたいのだけれど。
そう思いながら、私はフィルドの腕の中で目を閉じた。
明日も頑張ります!