7-3.悪食の影響……一部でも
今日はここまで
「あの、エイマーさん。少しお聞きしたいんですが」
「なんだい?」
「枯渇の悪食での影響で……正直に美味しくないって言うのは、エイマーさんの育った環境だとどうでしたか?」
「え?…………いや、そうか。君の錬金術とやらは、その大災害以前の食事を再現するモノだったね」
「チャロナが作れるのは、千里での経験で得たものですが」
庶民は、主食もだが国や地域によって様々だった。
孤児院にいた時も、主食はともかくスープやメインとかはマザー達が自家菜園や酪農で得られる食材で工夫してくれた。
チャロナはその経験を活かして、パーティーにはなんとか美味しい料理を振る舞えてたけれど……千里の記憶が戻った今は正直微妙。美味しいは美味しいが、飽きがくる料理。
カイルキア様のお屋敷に来てからは、主食以外の料理は全部美味しかった。
だから、貴族ではないが、庶民よりは富裕層出身のエイマーさんはどうだったのか気になったんだよね?
「そうだね。パンやライスはこのお屋敷に来るまでは普通だと思ってたけど……今思い返しても正直言って不味い。他の料理も味付けにバラつきがあるとか色々だったよ」
「美味しくないわけじゃなくても、飽きがくるとか?」
「まさしくそうだったよ。父に連れられて、豪族でも手の届く高級な食事処に行ったりはしたが……シェトラス料理長の手料理をいただくまでは、それすら美味と思っていた」
と言うことは、資産家と呼ばれるお金持ちの料理も、決して美味しいとは言えないってわけか。
つくづく、このお屋敷が特殊なんだなと実感。
「……だとしたら、シュラ……様にいただいてもらう予定のコロネ。頑張らないと!」
先に会えるとは思わなかったが、きっと美味しくないパンを食べ続けてきたから、期待は過大くらいされてるはず。
もちろん、パン製造の知識が戻った私は妥協なんて一切しないけども。
「うん、私も助力は惜しまないとも」
「ありがとうございます!」
「ふわぁ〜なんだぁこのいい匂い〜……お菓子ぃ?」
「サイラっ」
今度は裏側からサイラ君がやってきた。
シェトラスさんは?と思ったけど、まだ戻って来ない。
とりあえず、サイラ君は食料庫近くまで届いたフィナンシェのいい匂いにつられて、厨房までやって来たようだ。
「お、エイ姉とチャロナ! 何作ってんだ?」
「そ・の・ま・え・に、お前、仕事はっ!」
「でっ⁉︎」
厨房の中に入ろうとしてたサイラ君に、エイマーさんは朝のように鉄拳制裁をお見舞い。
仕事のことももちろんだけど、土ぼこりが彼の作業着にたっぷりついてたから、入られると困る。
衛生面重視の食品管理場だもの。
貯蔵庫とは違って、ばい菌云々が持ち込まれたら大変だ。
なので、サイラ君には厨房には入らせないように注意して、手とか顔の汚れはエイマーさんがタオルを渡してあげていた。
「サンドイッチ美味かったよ! それと……ひと段落ついたし、紹介したい奴がいんだよ。チャロナ、朝挨拶しただろーけど多分覚えてないよな?」
「? 誰なの?」
「俺らと同じくらいの女。メイドじゃなくて、菜園の見習いだけどよ」
「へー」
同じ年頃の女の子が同僚?
「もしや……エピアかい?」
「そうそう。あいつもチャロナのパンの大ファンになったんだけど……ほら、あの性格だろ?」
「ああ……それでお前に言伝をか」
「どんな子なんですか?」
私が質問をすれば、何故か二人とも苦笑い。
「人見知り……じゃねーんだけど、めちゃくちゃ恥ずかしがり屋なんだ。目が合うどころか、声かけられただけで物陰に隠れちまうくらい」
「そ、そうなんだ?」
「だが、仕事は丁寧。見習いもそろそろ卒業していいくらいだ。そこだけは、サイラ負けてるよな?」
「俺だって頑張ってるっつーの!」
「ん? ねぇねぇ、エピア……ちゃんって菜園の見習いだったっけ?」
「ああ。手入れとかメインだけどよ」
少し忘れてたが、『幸福の錬金術』の効果をもっと引き上げる方法。
その中で、ロティが最初に言ってた『自分で育てた作物』を取り入れるのが条件だった。
エイマーさんは気づいたのか黙っててくれてるけど、ここは少しサイラ君に聞こう。
「サイラ君、菜園……の端の端を借りる事って出来るかなぁ?」
「え? 何、チャロナここの仕事もあんのになんか作りてぇの?」
「う、うん。パンに必要な材料、出来れば作ってみたいの」
錬金術のためとは言えないが、サイラ君はバカにすることもなくすぐに考える姿勢になった。
「うーん……あっちの事はあんま知らねーけど、多分大丈夫だと思うぜ? 菜園の管理者優しいし、エピアが懐いてる人だから無理な事言わなきゃ」
それと、暇な時間が合えば、エピアちゃんに会わせるついでに掛けあおうか?とも言ってくれた。
これにはエイマーさんも許可を出してくれたので、行くのが決定。もともと、今暇だったらサイラ君が連れてってくれる予定だったらしい。
「んじゃ、一度菜園行ってくっから。今日は無理そ?」
「そうだね。旦那様達のおやつ作りと、そこで説明もあるから」
「そっか。いーなぁ、チャロナのおやつ。ぜってー美味そー」
「とりあえずは、私と彼女で作ったフィナンシェが明日のおやつだ。今日のところはこれから考える」
「おっ、お屋敷名物の焼き菓子! じゃ、チャロナ。夕飯のパンも楽しみにしてるわ」
布巾を私に返してから、サイラ君はまた来たらしい通路に向かって行ってしまった。
嵐のような男の子だけど、口調は粗野でもいい人だ。
「さ、フィナンシェの焼きは私がやるから。君はコロネの続きを頼むよ」
「はいっ」
ちっちーち、ちっちーち
アラームが鳴ってから、すぐに用意しておいたドリュールを塗り、モードをオーブンにさせたロティに入れて焼き上げる。
焼き時間は16分くらいだから、今のうちに冷蔵庫に入れておいたチョコクリームを確かめに。
「どうかな……?」
ミニスプーンで固さを確かめると、結構固い。
今は夏場だから、常温に出すとすぐに溶けるしもう少し冷蔵庫に入れておこう。
「おや、フィナンシェはそろそろ……チャロナちゃんの方はどうかな?」
「あ、今パンの方を焼いてます」
大変な棚卸しの作業が終わったばかりだから、一番下っ端の私がお茶を淹れる。
紅茶もいいけど、菜園で育ててるハーブが大量にあるのでスッキリするフレッシュグリーンハーブティーに。
エイマーさんとロティの分も淹れれば、皆さんひと口飲むとほっとしたような息を吐く。
「これはいい。疲れが吹っ飛んでいきそうだよ」
「ハーブは心身ともにリフレッシュしたい時に最適ですから。あと夏場は冷たいのもいいんです」
「料理長、明日の皆へのおやつに合わせて仕込みませんか?」
「いいね。ハーブの選別はチャロナちゃん、力仕事はエイマー頼むよ」
「「はい」」
シュラ様については報告はせずに、エイマーさんは窯からフィナンシェ型を出し。私は焼き上がったコロネパンをロティのオーブンから取り出す。
「うん、いい色艶に層も出来てる!」
『でっふぅ! か〜んぺきでふぅ!』
ドリュールを均一に塗ったお陰で、全体的に小麦色に焼けて巻いたところもちゃんと凹凸が出来て綺麗。
本当は自然冷却といきたいところを、先にシェトラスさん達に試食をお願いしたいから、生活魔法を使います!
明日はもう少し回数は減りますが、連続更新出来る最終日なので、頑張ります!
評価&感想をいただけると、作者の励みになります((。´・ω・)。´_ _))ペコリ