68-3.店の方では(マックス《悠花》視点)
*・*・*(マックス《悠花》視点)
「来たわよ〜〜〜」
『『『お帰りなさ〜〜い、オーナーぁああん!!』』』
店に着くなり、いきなり大勢での出迎え。
もう恒例行事みたいなもんだから何も言わないけど、皆好きねぇ。
足元にいるレイも苦笑いしてたけど、いつもの事だからとスルーする事にしていた。
それと、待ってる連中らもいるからと、奥の陽光のフロアへと足を運んだわ。
「待たせたわねぇ?」
「お帰り〜オーナー」
「待ってたぜ!」
「お帰りなさい」
「お待ちしておりました」
当然、待たせてたのは幹部連中。
こいつらに会うのも、少しぶりかしら?
とりあえず、報告が先よね?
「喜びなさい、あたしとエイマーが婚約したわよ!」
「「おお!」」
「「おめでとうございます!」」
「先日、フィセル様のところへ伺った折に、異常に泣かれてたのはその事だったんですね?」
「あら、そうなの?」
また泣いてんのかい、あの親父。
別にそこは、もうどうしようもないので無視するしかないけど。
他にも報告があるから、それが先ね?
「んでもって。チーちゃんの授賞式も無事に終わったし、王女として迎え入れるのも二ヶ月後に決まったわ!」
「「おお!」」
「! とうとう……」
「やっとですね……」
シュィリンだけは、少し複雑な表情を見せたけど、そこは無理もない。
一時期とは言え、チーちゃんとは幼馴染みだったし、少なからず想いを寄せてた相手。
あたしとシュラの前では、諦める風ではいたけど。本当は好きなはずよね。
けど、チーちゃんの今想う相手はカイル。
そこをこいつもわかってるから、何も言えないでいるんだわ。
「それと、その時期はチーちゃんの本来の誕生日と成人の儀をやる予定でいるから。あんた達も、護衛の一角として参加して欲しいのよん」
「私、達がですか?」
「何があってからじゃ遅いし、親父も許すはずよ。いいかしら?」
「「「「もちろん」」」」
これで、当日の安全は確保出来たって言っていいわ。
それと、ギルドにも預けたけど、こいつらに食べさせてやりたいものがあるので、魔法鞄から出すことにした。
「なんなん、オーナー?」
「随分と可愛らしい菓子だが」
「まさか……」
「王女殿下……がですか?」
「そう。あたしとチーちゃんのいた世界では定番だったお菓子で『レアチーズケーキ』って言うのよ」
あたしも食べたかったから、レイの分も出してちょっとしたお茶会をする事にした。
今日見ても、相変わらず可愛くて綺麗なケーキね!
魔法鞄に入れてきたから、温感冷感も気にせずに保存出来るし、異空間収納様様だわ!
「これは……クリームのようでいて、少し違うんですね? チーズとおっしゃっていましたが、あまり匂いにクセもなくて」
「「ん、んんん゛!?」」
「……美味い」
先に食べてたカーミアとフェルグスは面白いくらいに驚愕の声を上げて。
シュィリンは静かに、淡々と言ったわ。
そのあと、すぐに口にしたミュファンも当然驚いた顔をして。
「さっぱりとしてて、滑らかで口どけが良いですね! この間いただいたパンもですが、あの方が作られるのはどれも逸品揃いですよ!」
「そりゃ、チーちゃんだもの。異能もあるし、あの子だから可能なのよん」
あたしも米で貢献したけど、まだまだだし。
そう言えば、ロティちゃんの機能で炊飯器も出来るようになったのよね?
カレーとかが楽しみだわ〜。
「彼女だからこそ、ですね。記憶が戻る以前の彼女では、こうも素晴らしい品を作れていませんでしたが」
「シューの覚えてる範囲だと、チーちゃんどんな子だったの?」
「!…………明るく、周りに気遣える、いわゆる良い子でした」
ああ、その表情。まだ完全には諦めれてないわね。
シューの珍しい、崩した表情を見られるのは滅多にないもの。
フェルグス達は引いてたけど、あたしやミュファンは苦笑いしながら見守ってたわ。
「そう。今もそうね。記憶は戻っても、根本的なところは変わってないようだわ」
「ええ。再会してからも、そうでした」
チーちゃんは王妃様と瓜二つって容姿抜きにして、良い子過ぎるもの。
惹かれてしまう奴がいてもしょうがないわ。
けど、シュィリンはさっきも思ったように無理に諦めようとしてるから、そこが難しいのよね。
いつか、良い思い出になって欲しいとこだけど。
ずっと想ってたかもしれないんだから、そこは無理あるわ。
「あと一週間後にも、孤児院への差し入れと料理教室もやるから、また頼むわ」
「はい、お任せを。今度は私も参加しますね?」
「女……として?」
「ふふ、そこはどうでしょう?」
ミュファンの奴、男だけど洗練され過ぎてて普段から女っぽさが、女顔負けなのよね?
チーちゃんに初めて会わせた時も、あの子少しポーッとしてたし。
おそるべし、女の敵ね。
「とりあえず、今日の報告はそんなとこね。ついこの間、チーちゃんが夏風邪引いちゃったけど。今はカイルもなのよね」
「! 姫が……」
「もう治られたので、このケーキを作られたんですか?」
「ええ。あたしも手伝ったけど、療養食ですっかりね。カイルの方は軽いからすぐにでも治るわ」
「公爵様とは、また打ち合いしてぇしな!」
「そやねー」
カイルは、ここのやつらを毛嫌いはしてないつもりでも苦手意識は結構目に見えてて。
それでも、相手を邪険にしないから、時々訓練には付き合ってくれていた。
訓練中は、こいつらも男の格好になるし、多分緊張感は薄れてるはずだけど。
次回お願いしようかしらと思っても、あいつもなかなかに忙しいのよね?
「一応、伝えておくわ。次もなかなかに面白いパンのご登場よん」
「!」
「ほおー?」
「王女殿下のパン、楽しみにしてますね」
「姫様のパンはスッゲー美味いしな!」
「またね〜」
『でやんす〜』
急いで帰る程でもないし、チーちゃんやエイマーにお土産になるようなものを見繕ってからレイに乗ってリュシアを後にした。
「た〜だいま〜」
「あ、お帰りなさい」
「お帰り」
帰ってすぐに厨房に向かい、お土産になるのを渡した。
「わ、なあになあに?」
「色々見てきたけど、ドライフルーツの詰め合わせがあったのよ。これでまた美味しいパンの試作でもしてみて?」
「じゃ、レーズン多いし。レーズンサンドのクッキーとか作ってみる! パンなら、シナモンロールかなぁ?」
「どっちも捨てがたいわ!」
「また美味しいメニューになりそうだねぇ。明日以降にしよう」
「今日はおやつプリンでしょん?」
「うん、さっきカイル様のとこにも持って行ったよ?」
「あーんしないの?」
「しません!」
からかうのも大概にして、あたしもプリンのご相伴に預かったら。チーちゃんにはシュー達にレアチーズケーキを渡したことは伝えたわ。
「結構喜んでたわよ?」
「お兄ちゃん達に喜んでもらえたならよかったー」
ああ、もう。
恋愛感情じゃないにしても、シュィリンを慕っているから笑顔全開ね。
カイルが見たら、この間のように嫉妬まみれになるのかしら?
(それとは別に、ギルドの方も釘刺しておいたけど。最低は副ギルマスには伝えたはずよね?)
でないと、チーちゃんの噂をもみ消すのが大変でしょうから。そこくらい、想定済みよん。
また明日〜(`・∀・)ノイェ-イ!