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64-5.祝賀会②(アイリーン視点)







 *・*・*(アイリーン視点)









 まあ、お兄様。なんてことですの!?


 あのように、お姉様の前で御怒りの表情になられるなど、もってのほかですわ!


 ですが、お姉様と離れられてからすぐに。ユーカお姉様方に問い詰められては、何故か大笑いされましたので、わたくし訳がわかりませんでした。


 けれど、



「あーあ。あれは、多分。姫様の過去か何かにカイルが嫉妬したかもね」


「え?」



 さすがはレクター様。


 カイルお兄様の乳兄弟でいらっしゃるせいか、お兄様のことを一番に分かっておいでです。


 わたくしがレクター様を見上げれば、楽しそうに笑っておいででしたわ。



「ふふ。自分の気持ちを認められるようになっただけでも僥倖(ぎょうこう)なのに、毎日面白いよ。まだ、姫様が戻ってこられてひと月過ぎたばっかりなのにさ」


「お、お兄様……表情が変わられますの?」


「うん。姫様の前じゃ、面白いくらいにね。まるで、君が生まれるずっと前の、彼みたいに」


「お兄様……」



 伝え聞いた事でしか、わたくしも知りませんが。


 まだ赤児だったお姉様を抱えて、王妃様と逃げられた先で。


 敵国からの侵入者に王妃様を、お兄様の目の前で殺されたのだと。


 まだ、たったの6歳でしかなかったお兄様でさえ、心に深い傷を負われたのだと想像に難くない。


 わたくしの生まれる以前の戦争だったとは言え、辛過ぎる過去だ。


 その出来事を境に……お兄様からほとんどの感情を表す表情が出にくくなってしまったのだと、わたくしはお父様達に伺いましたが。


 レクター様は、ずっとおそばでそれを見てこられた。


 これからはわたくしのおそばにいらっしゃっても、お兄様との壁は越えられない。


 少しだけ、悔しさを感じますが仕方がないことですわ。



「まだ結婚が決まるまでは時々しか会えないけど。リーンも時々はこっちに遊びにおいで?」


「まあ、よろしくて?」


「僕にもだけど、姫様にも会いに来たいでしょう? 料理作りも、あれはすごいから」


「ご一緒出来ればですけれど」



 異能(ギフト)の一端を、十分過ぎる程実感出来ましたが。


 わたくしのように、趣味感覚で料理を嗜むだけの小娘が、お姉様の素晴らし過ぎるお料理を習うことなど出来るのでしょうか?



「大丈夫。シュラ様やカイザーク卿もパン作りを習いに来るから、君も参加して大丈夫なはずだよ」


「まあ、シュラお兄様達が?」


「さっき陛下もおっしゃってたでしょ? 料理長達以外にも、シュラ様達が会得して王宮に広めようとしてるんだ」


「まあ」



 それは素敵過ぎますわ。


 お爺様もですが、シュラお兄様のお料理も、お姉様に負けず素晴らしいものばかりですもの!


 そのほとんどが、なくられた王妃様、伯母様からの特別なレシピだそうですが。


 わたくしも、一つだけ教わりました。それが、先日本当はレクター様にお渡しする予定でした、バタークッキーですが。


 お姉様にも認めていただいたのですから、伯母様のお料理は素晴らし過ぎますわ!


 けれど、そんなお兄様とご一緒してよろしいのでしょうか。わたくし、刃物は剣以外扱ったことがございませんのに。


 レクター様は、大丈夫、と微笑んでくださいますが。



「大丈夫。君にならきっと出来るよ」


「頑張りますわ!」



 レクター様がここまでおっしゃるのでしたら、頑張るしかありません!


 なので、ダンスがまた一巡終わってからお姉様をお探ししましたが。厨房に戻られたのか、カイルお兄様ともご一緒ではありませんでした。


 ですから、お姉様がいらっしゃるまで、シュラお兄様に確認を取りに行かねば。



「シュラお兄様!」


「うん? どうしたんだい?」


「わたくし、少しでもお料理を覚えたいのです!」


「お菓子以外にも?」


「ええ!」



 レクター様とお話した内容をシュラお兄様にもお伝えしますと、何故かシュラお兄様は首を傾げられました。



「パンはすっごく難しいんだけど、他かあ」


「陛下もおっしゃってましたもの。難しいのは重々承知ですわ!」


「いや、本当に加減が難しいんだぞ。君がさっき食べたパンでも、俺手伝ったけど大変過ぎたし」


「まあ、お兄様が?」



 そこまで、苦戦を要するものだったなんて。


 わたくし、甘く見過ぎていましたわ。



「今日作るまで、助言をいくつかもらってても。爺やと失敗ばかりしてたんだ。まず、根本から違いすぎたと実感したんだぞ」


「……そこまで?」


「興味本位で、なら。やめておいた方がいい。あれは相当な力仕事と、細やかな気配りがなくちゃ」



 たかが、パン。されど、パン。


 今この会場にいる全員を虜にしてしまった、王女殿下(お姉様)のパン。


【枯渇の悪食】で失われた、最上級の品。


 それは、これまで料理上手と言われてた方々にも、衝撃を与えるだけで済まない代物。


 転生者以上に、お姉様は凄いのですわ。



「…………ですが。一人でも多く、覚えれる人材が必要なはずです」


「リーン?」



 生半可な覚悟ではない。


 料理人ではないにしても、ある程度の立場を持つ人間からなら、人々に言葉が届きやすいはず。



「わたくしも、微力ながらお手伝いがしとうございます。失われたレシピは、此度復活されたといっても過言ではありませんもの」


「り、リーン、声大きいって!」


「あら、失礼致しました!」



 つい、力が入ってしまって大きな声が出てしまいましたわ!


 すると、後ろから軽く誰かに小突かれ、振り返るとカイルお兄様でした。



「覚悟はわかったが、身内だけで済んだ事に安心しろ」


「……申し訳、ありませんでしたわ」


「…………なら、手始めに孤児院の差し入れ。手伝いに行くか?」


「え、リーンを?」


「まあ。お兄様、よろしくて?」


「人手がいくらあってもいいからだ」



 以前でしたら、ダメの一点張りでしたのに。


 お姉様のお陰で、誠に変わりつつありますのね?



「デザート、お持ち致しました」



 そうこうしているうちに、お姉様がわたくしが絶対喜ぶものとおっしゃっていましたデザートをお持ちくださいましたわ!



「お姉様、わたくしも今度の孤児院への差し入れにご同行させていただきますわ!」


「え、リーン様が?」


「使えなくはない。使ってやってくれ」


「え、旦那様……」


「いいって意味さ。リーンには少しばかり俺が教えてはいたし、助手にはいいと思うんだぞ」


「はい!」


「わ、わかり、ました。よろしくお願いしますね?」


「ええ! デザートは、そちらのが?」



 琥珀色に輝いた、素敵なデザートでしたわ!



「はい。ただ今切り分けます。あと、ホイップクリームも添えさせていただきますね。別に、プリンと言うのもあります」


「いただかせてくださいましな!」



 それからは、お開きまで。


 皆様とご一緒に。お姉様の美味し過ぎる、魅惑のデザート達を堪能しました!

明日も頑張ります!

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