64-4.何故ダンス(途中カイルキア視点)
*・*・*
な、なんで。なんでなんで!
なんで私が突然シンデレラのようにドレスアップされた挙句に、ダンスタイムに参加させられてるの!?
「はっはっは! 僭越ながら、お兄ちゃんが練習台になってリードしてあげるんだぞ!」
「ちょ、シュライゼン様。なんでそうなるんですか!?」
「ぷぷぷ。カイルと踊りたくないのかい?」
「ちょ、な!?」
なんでこの方にも、私の想いがバレてしまっているのか。
そこについては大声で言わないでおいてくださったけれど、驚かないわけがない。
そんな私のあっけらかんな表情にも、ニマニマされてるだけで私の手を引くと部屋の中央に連れていった。
「これだけ綺麗に着飾らせたんだから、カイルともとびっきりにお似合いだと思うんだぞ」
「な、ちょ、私のような使用人が旦那様とだなんてダメですよ!」
「全然ダメじゃないんだぞ」
ああ言えばこう言う、のような押し問答をしても聞いて下さらなかった。
結局、私が折れるしかなくて。渋々ダンスの練習とやらにお付き合いするしかなかった。
「私、全く踊れませんよ?」
「なぁに。この曲なら簡単簡単。ほら足を右、左に捌いて」
「み、右……」
なんとかシュライゼン様の足を踏まないように、慣れないヒールで動いてはみたけれど。
ちゃんと出来てるのか、すっごく怪しい。
ちらっと周りを見ても、デュファン様やレクター先生のご両親様方がにこにこ微笑まれてるだけだった。
何故か、アインズ様にはだーだーの勢いで泣かれてしまっているけれど。
「うんうん、上手い上手い。飲み込みが早いんだぞ」
「そ、そうでしょうか?」
「うん、これなら。……おーい、カイルぅ。交代するんだぞ!」
「え!」
「…………まったく、今日はリーン達がメインだろうが」
「いいじゃないかー」
「え、え」
本当に、本当にカイルキア様と踊る?
そんな、貴族でもなんでもない私が……と思ってたら。
少しため息を吐きながらも、彼はずんずんとこちらにやってきて。
私をちらっと見てから、シュライゼン様が掴んでた私の手を受け取ってしまったのだ。
手袋ごしだけど、力強い好きな相手の体温がダイレクトに!
熱で寝ぼけてたあの時以来だった!
「……俺と踊ってくれるか?」
「は……は、い」
「お邪魔虫は退散するんだぞー」
シュライゼン様が去ってから、曲目は変わったけれど。
そこから少しの間。私は本当にシンデレラになったかのような、素敵な時間を過ごしたのだった。
*・*・*(カイルキア視点)
まさか、リーンではなくシュラが先導するとは思わなかったが。
これでもかと、控えめながらも美しく着飾った姫は、この間の授賞式の時のように華やかで美しかった。
出来れば、他の目に晒したくなかったが。参加者のほとんどが俺達の身内。
なら、致し方ないかと。姫が踊りやすいようにリードした。俺自身、社交界で踊る経験が少ない方だが、基礎は教養として昔から叩き込まれたので、姫のように付け焼き刃ではない。
「ふ、踏んだら申し訳ありません」
「何。あれだけシュラと出来ていたんだ。大丈夫だ」
本当なら一番に、と思ったが。あれと姫は本来兄妹でいるから、伯父上と伯母上の生き写しだからこそ、皆の注目を集めていた。
伯父上は、ご自身と伯母上のお若い頃そのものだと思い出されて、人目もはばからず大泣きしている始末だったが。そこは、まあ、無理もない。
しかし、俺に変わったところで、他者からどのように見られるのか。
自分の容貌など、父と母がだからと、悪くないと思ってる程度だが。
この美しい人と俺は釣り合うのだろうか、と人生で初めて気になってしまう。
が、止まっててはいけないので、姫が動きやすいように足を運んだ。
すると、少しシュラで慣れた姫の足捌きは、存外悪くなかった。
「いい感じだ」
「そ、そうでしょうか?」
「シュラだけで慣れたとは思えないぞ? 何かやっていたのか?」
「う、うーん。多分、前世で種類は違うんですが、ダンスを少し……遊び程度ですが」
「……誰とだ」
「え?」
「誰と、踊った?」
声色が低くなるのが隠せない。
自分の想いはまだ告げぬと決めて、久しぶりにこの方に触れれたせいか。
どうも、欲が出てしまったらしい。
少しだけ、姫を怯えさせてしまったが。姫はきちんと答えてくれた。
「えっ……と、その、向こうの女、友達とです。男の子は……いませんでした」
「っ、そう……か。すまない」
何を怯えさせてしまったんだ、俺は。
せっかく、姫の緊張がほぐれかけていたというのに。
マックス辺りが近くにいたら一発殴られるだろうが、ちらっと目配せすると眉間に深い皺を寄せていた。
「おかしな質問をしてすまなかった。もう少し、踊るか」
「は、はい」
出来るだけ、姫に楽しんでもらえるようにそれから少し踊って彼女の装いを元に戻すべくシュラのところに行くと。
やはり、俺の様子がおかしいのに気づいた奴は、軽く肩を殴ってから姫の手を取って装いを調理人の物に戻してくれた。
少し名残惜しいが、質問攻めが待っているこの後に姫を巻き込むつもりはない。
姫は、俺に深く腰を折って一言告げてから、厨房の方に戻って行った。
「なーに、あんな怖い顔してたんだい?」
「全くだ。チーちゃんをなんで怖がらせた?」
マックスもだが、レクターを除く幼馴染みが出揃ってしまい、言わざるを得ない状況に。
仕方なく、醜い嫉妬の感情を抱いた事を吐き出せば。
「「「ぶわぁはっはっはっ!」」」
ほぼ同時に、揃いも揃って、下品な笑い方をしたのだった。
「か、カイルが……一丁前に嫉妬!」
「しかも、見てもねー相手にって!」
「この前まで曖昧だったのが、よくそこまで育ったな!」
「笑うなら、俺は料理を食べに行く」
「待て待て待てって」
引き止めたのは、フィーガスだった。
「姫様をそれだけ好きになってんなら、もう今晩辺りに言っちまえよ」
「それは出来ん。俺も、言うのはせめて姫の身分を打ち明けてからと決めた」
「「なんでだよ?」」
「姫自身が、俺に釣り合わないと思い込んでる感情は根深い。なら、その身分をわかった上で、姫にも判断してもらいたいからだ」
困る要素がなくなれば、姫の頑なな心も解きほぐれるはず。
その時期が来るのも、そう遠くないのであれば急ぐ必要もない。
逆に、使用人のままで想いを告げて過ごさせても、肩身の狭い思いをさせてしまうだろう。
その理由も告げれば、さすがの幼馴染み達も笑うのをやめた。
「なら、しばらくは片思い期間を満喫するんだぞ。あ、けど。泣かせたらお兄ちゃん全力で殴るからね?」
「「俺も」」
「……肝に命じた」
そうならないであってほしいが、先程のような事態になるのもいきなりなので、なんとも言えなかった。
(´∀`*)ウフフ




