64-2.出向きます!(アイリーン視点)
お待たせしました!
*・*・*(アイリーン視点)
楽しみですわ、楽しみですわ!
マンシェリー姫様のお料理もですけれど。
これから、ずっとご一緒に出来るレクター様と、今日で正式に『婚約者』になれますもの!
これが喜ばずにいられません!
「ふふ。ご機嫌なのはわかりますが、リーン様。少しは落ち着かれてくださいませ」
「あら、そんなにも体を揺らしてたかしら?」
「ええ。鼻歌交じりに」
「あら」
乳姉妹のライラにまでわかりやすく、顔や体で表現してたみたいね。
ちょっと恥ずかしくなって、せめて体だけでも止めてみると彼女にまたくすくすと笑われた。
「長年の想いがようやく叶われたのは、誠に喜ばしいことですが。他にも何か?」
「え、ええ。あなただから話すけれど、例の王女殿下がお手製のお料理を振舞ってくださるの」
「まあ。見つかられた王女殿下ご自身が?」
「今は、カイルお兄様の調理人だもの」
ライラには、乳姉妹であり信頼出来る側仕えのメイドとして、少しだけお姉様の事については話してある。
けれど、前世の記憶をお持ちの転生者は省いて、亡国なされてた事とお兄様と秘密の婚約をかわされた事。
お母様にもきちんと話し合って、ライラにはと許可をいただいている。
だからこそ、お姉様が今はお兄様のところの調理人であることは話せるのだ。
「なるほど。今はご身分をシュライゼン殿下方が明かされていらっしゃらないからですね?」
「ええ、少し時期を待たれるとか」
「そうですか。では、本日は王女殿下のお料理をご堪能出来るわけですね?」
「ええ。それはもう楽しみだわ! お兄様が苦手でいらっしゃったパンを召し上がられるほどだもの!」
どのようなお料理でも、きっと美味揃いだわ!
とここで、髪のセットを担当していたライラの手が止まった。
「さ、これにて出来上がりました」
「今日もとっても素敵なのをありがとう!」
レクター様のお隣に立てれる、ふさわしい装いだと思うのだけれど。
いいえ、せっかくライラや他のメイド達が頑張って用意してくれたもの。無駄にはしません。
「では、行ってくるわ」
「レクター様にきっと喜んでいただけますわ」
「ええ!」
今日はお父様達と馬車で向かう事になってるから、転移は使わない。
お隣になったお母様にもだけれど、向かい側に座られてるお父様にもにこにこ微笑まれてしまった。
「今日も素敵な装いよ?」
「いよいよだしね。緊張はしてるのかな?」
「全然、ですわ、お父様お母様!」
むしろ、楽しみ過ぎて仕様がありませんわ!
カイルお兄様のお屋敷まで、少しばかりの間、つい先日のレクター様とのやり取りを話させていただきましたわ。
「まあ、あの子ったらそんな素敵な事を?」
「ふふ。曲がりなりにも、サイザーの息子だ。女性の扱いが上手い」
「あら。貴方様もではありませんか?」
「いたいところを突くね、エディ」
ああ、いくつ歳を重ねられても、お父様とお母様は本当に絵になるご夫婦ですわ。
わたくしも、将来レクター様と……ああ、素敵過ぎて、頬が緩んでしまいますわ!
そうして、また1時間後にお兄様のお屋敷に到着して。
お兄様やレクター様もですが、屋敷の執事やメイド達にも出迎えられましたわ。
「来ましたわ、お兄様、レクター様!」
そして、わたくしは迷わずにレクター様の腕に飛び込みましたわ!
「り、リーン。一応人前なんだけど」
「あら、よろしくなくて?」
「自重しろと言ってるんだ……」
カイルお兄様、ため息を吐き過ぎると幸せを逃してしまいますわよ?
お姉様とのご婚約はある意味秘匿ですが、ほぼ正式と変わりありませんのに。
まだ二度しかお会い出来ていませんが、お姉様を泣かせるような事がありましたら許さなくてよ?
それはない事を願って、レクター様の腕に手を回してから改めて中に入らせていただきましたわ。
「楽しみですわ!」
「食べ過ぎるなよ」
「まあ、それは保証しかねますわ」
「ひ……チャロナちゃんの料理はどれも絶品だからね。君が見た事もないものが多いはずだよ」
「まあ!」
この家の者達もご存知でしょうけれど、万が一にお姉様に聞かれでもしたら大変ですもの。
レクター様は言いかけた言葉を飲み込んで、お姉様をいつも通りの呼び名に戻されました。
ですが、お姉様のお料理には期待大ですわ!
【枯渇の悪食】により失われたレシピの数々を披露してくださるのですもの!
我が家にもいくつか残ったレシピはありますが、ユーカお姉様の知る以上のレシピが目の前に広がると、わたくし絶対興奮を隠しきれませんわ!
「さあて。今日は僕と君が主役だけど、目一杯楽しんでね?」
「ふふ。お姉様へのダンスレッスンも忘れませんわ!」
「くす。僕とも踊ってね?」
「もちろんですわ!」
幼い頃以来ご一緒にしてませんもの。
今日は楽しみつつも、使命を果たしますわ!
そうして話しながら食堂に着くと、開いたその先はいつもと全然違ってましたわ!
「『「「「「いらっしゃいませ、アイリーン様」」」」』」
「いらっしゃいなんだぞ、リーン!」
『でっふぅうう!』
「まあ、まあまあ!」
ここはまるで王宮ですの!?
まだ数える程しか、訪れていませんが。おそらく、シュラお兄様が飾り付けをご指示なされたのか。
王宮での舞踏会みたいに、部屋が見違えていますの!
お料理も本当に見た事がないものばかりで、目移りしそうですわ!
「俺と爺やも手伝ったんだぞ! たっくさん食べて欲しいんだぞ!」
「まあ、シュラお兄様とお爺様まで?」
それはさらに期待大ですわ!
すると、お姉様がこちらにやって来られましたわ。
「今日は皆さんとお作りしました。お口に合えばよろしいですが」
「お姉様のお料理でしたら、きっと美味しゅうございますわ! カイルお兄様からお聞きしていますもの!」
「!…………そうだな」
お兄様、今照れ隠しされましたわね?
お兄様の妹であるわたくしの前でも、滅多に表情を変えられませんのに。
後ろにいらっしゃるお父様とお母様は少し驚きながらも、くすくす笑われてるのが聞こえましたわ。
「そ、そうですか? あ、デザートには焼き立てのリンゴのケーキをご用意させていただく予定です。シュライゼン様から、リーン様が大層リンゴがお好きだと伺ったので」
「本当ですの!?」
リンゴたっぷりのケーキだなんて、夢のようですわ!
早く食べたいですが、まずは乾杯の音頭をレクター様からいただかなくては。
皆にシャンパングラスが行き渡ってから、レクター様がかなり咳払いをされてから口を開かれた。
なにせ、お久しぶりにサイザーおじ様達もいらっしゃっていますもの。緊張なさらない方が難しいですわ。
明日もリーン視点です