7-1.まずはチョコクリーム作り
ここは旧作とほとんど変わりないので、復習がてら
*・*・*
仕事をまた片付けてから、ロティと二人っきりに。
今度は、おやつに頼まれてたパン『チョココロネ』の製作だ。
「えーと……あの材料は…………あ、あった!」
ラップとかはないけど、銀紙に包まれてた薄い板。
中身は、もっちろん!
「たしか、こっちがミルクチョコレートだったかなぁ?」
一度味を確かめるべく、紙を破いてロティとひと口ずつ味見。
なんてことの無いチョコに見えても、口の中のとろけ具合と絶妙な甘さは答えようがなかった。
「うん、これこれ! 美味しいチョココロネ作ろうね?」
『でっふでふぅ!』
甘いものが好きなカイルキア様。
来るかもって言われてるお客様も甘いものが大好きなそうなので。
クロワッサンもいいかもしれなかったが、銀製器具の中にあった道具をどうしても使いたかったから……迷わずチョココロネを選んだのだ。
『変換、発酵器ぉ!』
生地についてはだいぶ慣れてきたお陰か、他の作業も結構スムーズに出来てきてる。
パン屋にいた頃とは違って、ずっとずっと作ってるわけじゃないけど、結構楽しい。
今回は、慌てる必要はないので時間短縮の試運転はお預けだ。
「ねぇ、ロティ」
『あい?』
「変身する時に思うんだけど、洗い物をしてないのに次に変わってもらうのって大丈夫なの?」
『ロティが食べてまふから、大丈夫でふぅ!』
「え、食べてる?」
『お腹はこわちましぇん!』
「そ、そう……」
人間じゃないし、普通の精霊じゃないから……いいのかな?
ひとまずロティに発酵をお願いしてから、私はコロネの最大のポイントであるチョコクリーム作りを。
「鍋に牛乳を入れて、沸騰寸前まで沸かしてー」
沸いて火を止めたら、刻んでおいたチョコ板を少しずつ入れて木ベラで溶かしていく。
次に別のボウルに砂糖などの材料を入れ、鍋の中身をこちらに少しずつ入れて泡立て器で混ぜ込む。
(ああ、楽しい!)
本当は、ロティのクリーム用ミキサーで試したかったけど、手作業でも十分に楽しい。
「ふむ、楽しそうだね!」
「はい!…………え?」
一瞬エイマーさんが戻って来たかと思ったから返事をしたのに、聞こえてきた声質が違うのに気づく。
慌てて振り返れば、そこにいたのはエイマーさんやシェトラスさんじゃなく、若くてかっこいい男の人だった。
「ああ。驚かせてしまったかな?」
「ど、どちら……様で?」
服装は、何故か執事さん達が着るような黒いスーツ。
髪は少し長いけど、私によく似た緑色の綺麗な髪。
好奇心を隠さない琥珀色の瞳は、興味津々に私を見つめていたけれど。
今朝挨拶した中に、執事さんでもこの人はいなかった。
だって、カイルキア様に負けず劣らず綺麗だもの!
筋肉はそんなになくても、顔が王子様タイプ!
「はじめましてだぞ! 君が新しく入ったチャロナと言う女の子かい?」
「は、はじめ、まして……」
エイマーさんとはまた違う独特な口調の人だ。
すぐに手を差し出されたので、ボウルとかを置いてから私も手を出すと力強く握られた。
それと、何が嬉しいのかぶんぶんって上下に動かして。
「俺の事はシュラと呼んでくれ!」
「シュラ……さん?」
「んー、それもいいが……君にはお兄ちゃんと呼んでもらいたいなぁ?」
「お、お兄ちゃん?」
シュラさんは琥珀の瞳をキッラキラにさせながら私を見てくるが、出会ってすぐの人にそんなことは出来ない。
サイラ君でも君付けなのに、もっと年上の人には失礼だもの。
「先輩にいきなりそのようにお呼びするのは無理です」
「そうかい? 俺は気にしないんだが」
「私は気にします! それより、何か御用でも?」
「いや、何? 可愛くて元気な女の子が入ってきたと聞いたからね? 多分俺で最後だろうけど挨拶に……チョコの匂い?」
「あ、はい。今旦那様のおやつを試作してて……」
「ふむ、そうなのかい?」
やっと手を離してくれたけれど、今度は作業の方に興味が移ったみたい。
ロティを使ってる最中だから、あんまり見られたくないけど……こう言う人程すぐに帰りたくなさそうだ。
「……俺さ、今暇だから手伝っていーい?」
その質問も来ると思った!
「え、でも執事さんって私以上にお仕事あるんじゃ……?」
「俺は今暇なんだ!」
だめだこの人、手伝う気満々だ。
ロティにはテレパシーとかは出来ないけど、空気を読んでくれたのか返答はない。
仕方ないけど、パンや錬金術の作業とかを極力見せないようにしよう。
「じゃあ、すみませんが……チョコクリーム作り一緒にやりますか?」
「おぅ! 頑張る!」
いや、だからなんでそんな嬉しそうに笑うんだろうか?
とりあえず、力仕事がいい感じなので混ぜる作業を頼む事にした。
「今途中までやってたんですが、このボウルに鍋の中身を少しずつ入れてるのでそれを混ぜてください」
「わかったんだぞ!」
ずっと大人だし、子供のように勢いよく混ぜたりとかないよね?と思った事は杞憂で終わり。
シュラさんは料理をするのか、一定の速度でシャカシャカと混ぜてくれました。
「全部混ぜ終わったら、一度ざるで濾します」
私がざるを持って濾す係を。
シュラさんには先に混ぜたボウルを持ってもらい、ゆっくりとざるに注いでもらった。
「これを大きめの鍋に移したら、焦げないように中火にかけます」
粉を混ぜ込んだけど、とろみも何もない状態なので火にかけてとろみをつけさせるため。
最初は私が泡立て器でゆっくりかき混ぜるのを見せてから、シュラさんには変わってもらった。私はその間に洗い物。
チョコの汚れって乾くの早いから、すぐに洗わないと大変だもの。
「チャロナー、なんかとろとろしてきたぞ?」
「はーい。それじゃ、用意しておいた濡れ布巾の上に鍋を置いてください」
ここからが少し大変。
一度火から下ろしても、再度かき混ぜてまた火に戻すを何回も繰り返さなくてはいけないから。
こうする事で、玉にならず、焦げ付かない美味しいクリームになるんだよね。
「おお、だいぶ固い」
「これをもう一度ですが、ほんの少し火にかけたら次の工程です」
火から下ろして、無塩のバターと香りづけのラム酒に近いお酒を入れてよく混ぜる。
これをまたボウルに移し、表面をラップで覆いたいところを蓋がわりにガーゼをかけておく。
そして、このボウルの下にシュラさんに用意してもらった氷水のボウルの上に乗せ、粗熱を取ります。
「助かりました。ありがとうございます」
「なんの! 他はいいのかい?」
まだ手伝う気ですか。
ロティの発酵時間も終わるし、どうしよう……。
(困った、期待に満ちた目には弱いから本当に困った!)
孤児院にいた時にも、歳の離れた義弟妹達が、よくお手伝いしたいとせがんできたことはあったけど……。
歳も背丈も段違いなのに、この執事さんってなんだかあの子達に近い。
前世で兄弟はいなかったが、歳の離れてたいとこ達とも交流は薄かった。だからか、どうも歳上の人って職場の人以外じゃ付き合い方がわからない。
は、どうでもいいとして、この場をどう切り抜けよう!