50-4.謝罪の手紙
最後の謝罪は……?
*・*・*
ほんとにほんとに、ほんと〜〜〜〜に、驚いたんだけど!
無事に終わって何よりかな?
ほっとして、思わず長いため息が出ちゃった。
「あっははー、もっと怒ってよかったのにチャロナはいい子過ぎなんだぞ」
「いや、そう言われましても……」
シュライゼン様はなんてことのないようにおっしゃってるが、悠花さんのお父様と言えば、リンお兄ちゃんが所属している隠密部隊の直属の上司さん。
そして、この国の伯爵様のお一人だ。
本来なら、孤児である私にあのような態度で謝罪されるべきではない。
が、自分の息子の友人で、かつエイマーさんとの仲を応援していた一人の人間として、そこは関係ないようだ。
だから、昔悠花さんに教わったって言う『土下座』までして誠心誠意謝罪してくださったわけだが。
私としては、フィーガスさんからの種明かしのお陰でショックは和らいでたので、実はそんなに気にしてはいなかった。
「どちらかと言えば、フィーガスからの種明かしでショックも落ち着いていた感じか? パーティーで見た時も、然程気にしてなかったようだが」
「そ、その通りです!」
すごい、カイルキア様。
私の思ってた事をぴたりと当ててしまわれた。
「……そうか。なら、よかったが」
「!」
口元だけわずかに緩んだだけの微笑みでも、私の心臓には大ダメージを与えてきた。
ほんのちょっとずつでも増えていく、カイルキア様の表情パターンが知れるのは嬉しい。
鼓動も早くなって、顔も熱くなった感じがしたが、体調には問題ないので、こくこくと頷いて反応を返した。
「んふふ〜。いいとこで悪いけど、別で預かってるものがあるんだぞ!」
そう言えば、抱っこしたまま寝てるロティ以外にも、もう一人いるのを忘れていた。
なんか、ものすっごくいい笑顔で、シュライゼン様はジャケットの内ポケットから綺麗な緑の封筒を取り出した。
なんか、見せてきた方に、蝋で出来た立派な紋章が刻まれているけども!
「……それは?」
「ある人物から預かってきた手紙さ」
受け取っても、開け方がわからないので教えていただくと。出てきたのは、ほんのり柑橘系の香水を染み込ませたかのような、これまた薄緑の便箋。
枚数は一枚しかなかったが、ロティをちゃんとベッドに寝かせてあげてからゆっくりと開いた。
【チャロナ嬢へ
先日の授賞式の時に、君へ感謝状を渡した者だ。
名は、今は明かせぬが……カイザークから聞いたが、君は私をシュライゼンの父と見抜いたそうだね?
簡単に変装していただけだった故に、見抜かれて当然かもしれないが。
なので、あの愚息の父と認識してもらって構わない。
シュライゼン様のお父様からの手紙だった。
私がカイザークさんに打ち明けたからか、こうして手紙で知らせてくださったみたい。
けど、手紙はまだまだ続きがあった。
さて、本題だが。
この手紙を愚息が渡す頃にはもう終わってしまってるかもしれないが。
私を含め、デュファンやフィセルが計画したエイマーへの偽見合い計画についてだ。
君も知ることになり、心を傷めたと聞き、非常に申し訳なく思う。
本来は私も彼らと共に出向くべきだが、二人以上に激務に追われていて、直接謝罪出来ない。
だが、文面だけで許されるとは思っていない。
デュファンから聞いたかはわからないが、計画を全面的に進めたのは私だ。
想い合う二人をいち早く結ばせる理由が別にあったからだが。
具体的に言うと、我が国に未だ根付く強固派に巻き込まれないがためだ。
ユーシェンシー家も、豪族とは言え我が国では知名度の高いアークウェイト家。この両家を結ばせると、自分らが不利になると思う輩がまだまだいる。
だからこそ、裏でアルフガーノ家も関わらせて、こちら側をより強く固めていく事が必要であった。
が、それは勝手な我々貴族側の事情だ。
君達の純粋な応援を踏みにじるような形で一度返答してしまい、本当に済まなかった。
それと、風邪を引いてしまったようだが、ゆっくりと休んでほしい。
君の料理の技術は君ただ一人だけのものだ。
無理をして、前に進まずとも良い。
愚息に見舞いの品を預けてもよかったが、後日贈らせていただく。
では。
シュライゼンの父より】
これまた、手紙での謝罪とお見舞いのお言葉をいただいちゃいました。
シュライゼン様を見ると、困ったように笑いながら肩を落としていた。
「本当に、ほんとーに自分で詫びたかったらしいけど。父上は超が10個でも足りないくらいの多忙でね? 先日の授賞式の日にようやく時間が作れたぐらいなんだぞ」
「そう……ですか」
「すまないが、俺にも見せてくれないか?」
「あ、はい」
カイルキア様は内容を知らなかったようなので、反射的に渡してしまったが、彼はざっと目を通すと軽く息を吐いてから返してくださった。
「あの人らしい謝罪の仕方だが……まあ、強固派を考えるのであれば致し方ない。ユーシェンシーもだが、アークウェイトを繋ぎとめたい連中は山のようにいるからな」
「うむ。そこにアルフガーノも加われば、結びつきが更に強まっていく。マックスがいずれ爵位を継げば、将来的に侯爵の地位も夢ではないしな!」
「それはまだ仮定だ。決定にはするな……」
「はっはっは、それはなんとも」
お貴族様の地位関連についてはさっぱりだけど。
どうやら、悠花さん達が結婚されたら困る悪い人達は、あの変態元子爵だった人以外にも多いみたい。
この間、エピアちゃんが教えてくれた強固派って言うのがその人達の事を指すらしいけど。
「けど。シュライゼン様のお父様方が、きちんとお考えになって進められてたのであれば……割り込んだのは私です。私が、悠花さんを煽ったから」
「ちっちっち。そんな固く考えなくていいんだぞ、チャロナ?」
「え?」
「父上も言ってたように、決めたのは酒の席だ。たしかに素面に戻ってから考え直してはいたようだが、フィセル殿が口にしていた『マックスが女々しかったから』の理由も大きい。あれでいて、お互い十五年近く想い合ってたんだ。いい加減動かないあれにもじれったく思って当然だ」
「じゅ!?」
「はっはっはー。本当にうざいくらいだったんだぞー。あからさま過ぎるのに、エイマーはエイマーだし。マックスもマックスだったから。君が加わったことでいい刺激を得られたんだから、君はなんにも悪くないんだぞ?」
そんなにも長い間想い合ってたのに言えなかっただなんて。
具体的にどうして、とはどっちからも聞いてなかったが、あの時はハッピーエンドになれたんだ!ってわかって嬉しかったから聞けずじまい。
と、ここでノックの音が聞こえてきた。
そして、何故かカイルキア様が扉を開けに行って。
「……メイミーか。遅かったな?」
「申し訳ございません。大旦那様方とも合流しましたので」
「……父上」
「いやなに。覗き見を止められてねぇ?」
「俺もいるんだぞ、お……デュファン殿!」
「いやあ、そうだった」
どうやら、エピアちゃんが呼びに行ったメイミーさんがやっと来たんだけど。
途中で、デュファン様達と合流して……なにやら、覗き見?を止めてたみたい?
「……父上。いつまでいる気ですか?」
「うん? 愚息の珍しい表情が見られるまで」
「帰ってください!」
「おお。その顔だけでも珍しい。本当に、エディフィアと違って感情的になりにくいから」
多分だけど。カイルキア様のお母様のことだろう。
確か、お顔はカイルキア様に似ていらっしゃるみたい?
とにかく、あーだこーだと親子喧嘩に近い口論をされてるので、ハラハラしてるとメイミーさんがベッドに乗ったままのドレスの箱とかをどかしてくださった。
「ドレスは元気になってから着てみましょうか? オルゴールはベッドサイドに……あら、チコリョのぬいぐるみ?」
「えっと……お、大旦那様が」
「可愛らしいわね。寝るときに枕代わりにしたら?」
「そ、そんな使い方出来ませんよ!」
「あ、チャロナちゃん? おじさんはそのために用意したから気にしなくていいよ?」
「ふぇ!」
それから、私とロティはメイミーさんにお風呂に入らせてもらうことになったので、全員部屋から退場となり。
デュファン様達は、息子さん達であるカイルキア様とお話ししてから帰られると、そこでお別れとなった。
明日も頑張ります!