46-1.愚痴はもう勘弁(シュライゼン視点)
お待たせしましたぁああ
*・*・*(シュライゼン視点)
チャロナの授賞式も無事に終わった今日なんだが。
帰りの馬車で、父上の面倒っぷりがさらに磨きがかかってしまったんだぞ。
「ほとんど話してないほとんど話してないほとんど話してない、俺質問の受け答えしかしてないぃいいいい!?」
てな感じで、ぶつくさ言い続けているんだから、ほんとうざいんだぞ。
「うるさいんだぞ、父上。顔もちょっとだけ隠してたんだから、仕方ないじゃないか」
「だーまーれー! お前はまた堂々とマンシェリーと話して!」
もう帰りの馬車だからか、髪は乱雑にかきむしり、顔も見てられないものになってしまってる。
「爺やにはいいのかい?」
「……カイザーもだが、お前の方がスキンシップ多過ぎじゃないか!」
「俺はお兄ちゃんだからな!」
「俺は父親だ!」
「まだ言わないと決めたじゃないかー」
わかっている。
爺やに無理に八つ当たりしないのは、今日、母上とが残してくれた秘密を、やっと打ち明けてくれたからだ。
マンシェリーが行方不明になってたこの16年間。
すぐに俺達に打ち明けられなかった思いも、今の俺ならわからなくもない。
ソーウェンとの戦争が鎮圧して、勝利となっても。王家の方は正直言って落ち着かなかった。
王女の行方不明もだったが、二人の子供がいてもまだ再婚の見込みがあると強固派がうるさかったり。
それらに聞く耳を持たずに、父上は復興を頑張りに頑張りまくって。
子供だったから、あんまり覚えてはいないがついこの前までの5日間よりも、激務だけなら酷かったと思う。
そんな父上を思って、いつ打ち明けようかと爺やも悩んでいたのを今日知ったから。
「親しげ以上に料理を一緒にするとか羨ましい! 俺も練習」
「ダメですぞ、陛下。今日までの執務を終えてもまだまだ書簡はやってきます。明日は半日ほどお休みが取れますが、そのお時間だけで料理の技術が上がるほど甘くはありませんよ?」
「うう」
父上の宣言にかぶせるようにして、即却下にした爺や。
もう顔色はいつもどおりに戻っているが、どことなくほっとしてる様子が伺えた。
まだ全部じゃないかもしれないが、抱えてたものを父上や俺達に打ち明けられたことで重荷が少し解けたのだろう。
「特にパン作りは一朝一夕では出来ませぬ。本日姫様よりお聞きしましたパン作りのコツを取り入れたとしても、あのパンのお味には到底追いつきませぬ」
「そうなんだぞ」
「そりゃ、まあ」
「【枯渇の悪食】により、失われたいにしえの口伝……おそらく、姫様の前世でいらっしゃった世界の知識は宝どころですみません。国以上にこの世界をも揺るがします。ソーウェンは今我が国の従属国でありますが、残党も根絶やしに出来ておりません」
「狙われる可能性は高い。が、自衛も兼ねてフィーガスが魔法の指南役になるのなら少しは安心だ。お前の孫であるのもだが、こいつの指南役も務めた男だからな?」
「マンシェリーが、錬金術師で魔法師……かぁ」
カイル達のメンバーにいて、フィーガスの婚約者になったカレリアもたしかそうだったような?
固定された職業だけにこだわらず、色んな事を出来るようになったらいいと思うんだぞ。俺も、時々は教えに行こうかなぁ?
「シュライゼン様、なりませんよ? 貴方様にも執務の山が待ち構えております。ゆめゆめ、脱走されて姫様の講義に加われなうよう」
「ぶー。ダメかい?」
「当たり前だ!」
「い゛で!」
拳じゃなくて、仮面の端で叩くなんて地味に痛いんだぞ。
結構本気で殴ったのか、じんじんする感覚がすぐには取れなかった。
「それよりも、お前は孤児院での差し入れや料理教室を定期的にとり行うのだろうが。準備はいいのか?」
「! もっちろんなんだぞ。あと二週間後には、予定を詰めるつもりだ!」
次に食べさせてあげたいのは、おととい食べたピザって言う薄いパン。
あれを、マンシェリーはもう少し食べやすいタイプに変えるとは言ってたが楽しみだ。
前世の知識と経験を活かした、爺やが言うようにいにしえの口伝に等しいレシピの数々は王宮のパンや料理が霞んでしまうくらいの美味。
子供達も、手紙で『チャロナ先生いつ来るんですか?』と代わる代わるなくらい寄越してくるくらいだし。
「と言いますと、月に二回程ですかな?」
「彼女の休みも今のところ不定期だしね。それくらいだったらいいんじゃないかなと、カイルには一度話を通しておいたよ」
「で、その度にお前は出向くのか」
「なりませんぞ、陛下。子供達が萎縮してしまいますぞ?」
「…………絵姿が広まっているのが悔やまれる日が来ようとは」
「あと、父上は英雄王なんだから、国民にとっては憧れの存在なんだぞ?」
「あああああああ、めんどいめんどいめんどいぃいい!」
「父上うるさい!」
広まってるのは今更なんだから、無理に決まってるんだぞ。
それと、小腹が空いてきたので爺やに持っててもらってた土産のホットサンドを食べることにした。
まだほんのり温もりがあるそれは、焼きたての時とも違う香ばしいいい香りを馬車内に広げていく。
「焼いたサンドイッチ?」
父上は当然初めて見るから、表面が焼かれているのを不思議そうに見ていた。ちなみに、今手にしてるのはロティの技能で焼いた方の中身が見えないサンドイッチだ。
厚みから察するに、卵とチーズだったかな?
「いっただきまーす」
俺はソーセージ入りのを大口を開けて食べれば、口いっぱいにソーセージと野菜のハーモニーが!
「うんまい! 試食はちょびっとだったけど。口いっぱいに頬張るとこのソーセージのジューシーさがよくわかるぅ!」
噛めば噛むほど、口の中で肉がほぐれていくのがわかるし、肉汁も野菜と相まって後味がしつこくない!
まず、サンドイッチにない組み合わせだけど、焼くとこれだけ合うんだなと今日知れて良かったんだぞ。
俺もお返しに、母上直伝の料理を食べさせてあげたいんだぞ。
「このコロッケとの組み合わせも素晴らしいですな。トマトをケチャップとマヨネーズを合わせたソースが、まろやかながらも少しさっぱりしています」
「んん! 具材が少ないと思ったらチーズか。卵と組み合わせるとこんなにも美味いのか……」
どうやら父上も気に入ったようで良かった。
それから、一人二種類は食べてから借りた弁当箱をまた小さくさせて爺やに持ってもらった。
だけど、
「……これを毎日食べれてるカイルキア達が羨ましい」
せっかく機嫌が落ち着いたかと思えば、またぶり返してしまった。
本当に、本当にめんどくさい父上なんだぞ。
「父上、マンシェリーに謝罪しなきゃいけないことあるんだから。手紙くらい書いた方がいいんだぞ」
「あ」
だから、もう我慢ならない俺は、先に転移で自室に戻る事にした。
「ふぅ……愚痴を聞くのは爺やに任せるとして」
逃げたのもあるが、俺は少し一人で考えたい事があった。
爺やが打ち明けてくれた中にあった、母上が神託を受けた神の言葉についてだ。
(名を封印された神と絶対関係があるんだぞ。先日会ったフィルド……彼がそうだとしたら)
何故、忘れられた神が堂々とヒトの前に出てきたのか。
異能を与えたヒトの子の様子を見に来るにしても、詰めが甘い気がする。
それは単純に神の性質なのかどうか。
どちらにしても、フィルドはマンシェリーに危害を加えるようには見えない。むしろ、 友好的過ぎた。わざわざ、自分から手伝いを買って出ていたようだし。
「そんな神が……マンシェリーに『チャロナ』を名乗らせる意味がわからないなぁ?」
洗礼名は、最高神の僕となった大司祭が神託を受けて王家やその近親者に名付ける名だ。一種の加護と言ってもいい。
だから、俺やカイルにもあるんだが。親に与えられた名以外で呼ばれる事が少ない。それを、わざわざ名乗らせるのに特別な意味があるとすれば『加護』を主張するくらいだが。
「ああああ、わかんないわかんない!」
憶測はいくらでも出来ても、証人?であるその神がいないんじゃ確認のしようがない!
わめきながら髪をぐしゃぐしゃにしていると、ノックの音が聞こえてきた。
「誰だい?」
「失礼します。お声が聞こえましたので、冷たいコーヒーをお持ちしました」
「ギフラか。いいよ」
先に戻らせていた使者団の中でも、転移を使えるのは彼しかいない。
呼びかければ、ゆっくりと入ってきた銀縁眼鏡のギフラは、瞳を光らせて冷たいコーヒーのグラスを持って来てくれた。
「陛下からの愚痴騒動からお逃げに?」
「それもあるんだが、一人で考えたくてね?」
「先程の、『わからない』はそれで?」
「うん。君になら話してもいいかもしれない」
コーヒーを受け取ってから半分ほど呷り、立ってるのもなんだからと、俺達はソファに向かい合わせで座った。
そして、さっきまで思ってた疑問をすべて打ち明けた。
「それは……私もなんとも言いがたい事ですね。神のおぼしめしによる事でも、踏み入ってはいけない領域か定かではありません」
ギフラは、俺の側仕えとしてずっと仕えてくれてたから彼だけにはマンシェリーの事を打ち明けている。
あと、今のチャロナには近しい人物の夫でもあるから。
そう、あの怖〜い、メイミーの。
「だから、調べにくいと言ったら調べにくい。一応は、マックスが護衛もやってくれてるから変な騒動には」
「あの者の周りで、そうならない事態が起きましたか?」
「あ、あはは〜ないね〜」
とりあえず、妹は今日も元気だとわかっただけでも嬉しいんだぞ。
誕生日に成人の儀を改めて行う方向で、これからすべき事が山ほどある。
ここは俺も、サボっていられないなぁと思うしかない。
なろうコン一次通過しても、毎日更新は変わりません。
頑張ります!