42-1.授賞式①(マックス《悠花》視点)
お待たせしましたぁあああ
*・*・*(マックス《悠花》視点)
今か今かと思っても、待つしかない。
少し前に、レイの念話から使者に食べさせるパンの製造と試作は上手くいき、チーちゃんもドレスに着替えに行ったらしい。
んで、カイルの執務室で待機してると、報告を終えた直後にレイが影の中に戻ってきた。
《めちゃくちゃうんまいでやんすよ!》
《あんた……って、手伝ってるから仕方ないけど》
またもや先を越されたと思ってても仕方がない。
想いを寄せてる相手であるロティちゃんに、頼れる男としてしてアピールしたいと宣言して側にいるんだもの。試食ぐらい仕方がないか。
あとで多分食べられるし、それは一旦置いといて。
こっちで待ちかねている連中らに報告した方がいいわね?
「レイが来た。チーちゃんも準備しに行ったらしいぞ。もう時期来るって」
「!……そう、か」
「僕らはまだ見てないからねー? 姫様が着飾ったところ」
「見て驚くだけで済まねーぞ?」
「そんなにもか?」
シュラはまだだけど、カイル、フィーガス、レクター。
幼馴染みの男共がほとんど勢揃い。
あと、あたしもだけどなかなかのイケメンパラダイスよねこれって。
ほぼ(あたしも含めて)相手が決まってるけど。レクター、あいつだけは未だ決まっていない。
想われている相手がいるのは知ってるけど。レクター自身がどう思ってるのか。
いい加減、あのアイリーンのために問い詰めてやりたいとこだけど、今は出来ない。
使者の方も、まもなく到着予定だからだ。
「王妃様の若い頃にそっくりだぜ? カイル、卒倒はするなよ?」
「……善処、する」
「はっはっは。俺にはカーミィがいるが、驚かんように気をつけるしかねーな?」
「あんたの場合、大口開けるとか無しにしてくれよ?」
「へーへー」
特に、王妃様を目の前で亡くしたカイルの反応の方が心配だわ。
あたしもメイミーも、最初は大口開けそうになったけど。着飾ったチーちゃんは……本当に母親である王妃様と瓜二つ過ぎて。
メイミーなんて、一瞬泣きそうになったのを堪えていたわ。
(泣かない以外の、表情の変化も心配だわ)
チーちゃんのお陰でか、感情の変化が出始めたカイルにとって、チーちゃんも王妃様も特別。
特に、想いを向け始めたチーちゃんが綺麗に着飾ればどんな表情を見せるのか。
ほぼ全員でそわそわしていると、ノックの音がしてきた。
「お待たせ致しました。チャロナちゃんをお連れしました」
「…………入って来い」
さあ、いよいよね!と気合を入れてから。
メイミーがそっとチーちゃんを中に入るように促せば、薄緑のドレスの裾が見えてきた。
「し……失礼、します」
慣れないドレス姿にぎこちない動きで入ってくるのは当然でも。
着飾ったチーちゃんは、どこをどう見ても亡き母君そっくり過ぎて。
一度見たはずのあたしですら、見惚れてしまいそうだったわ!
少し日に焼けてても白い肌は柔らかそうで。
青水晶の大きな瞳の周りには、控えめな化粧。艶やかな唇まで念入りに施されていて。
仕事中はまとめてるでしかない彩緑の髪も一部はハーフアップ、他は綺麗に背中に流してあって。
まだ王女に戻っていないからティアラこそはないものの、小物で可愛く着飾って。
薄緑と薄紫を合わせた可愛らしいドレスが、その美貌を引き立たせていた。
あたしも覚えてる、アクシア王妃様の若い頃そっくり!
(カイル。失神しかねないんじゃ!)
と思って振り返った先には、顔を覆いかけてた奴がいた。
「か、カイル様……?」
チーちゃん本人もびっくりするくらいの様子でいた、カイルは。
顔全体を真っ赤に染め上げて、泣きそうになってる目を堪えるのに必死で口元を手で覆っていた。
おそらく、アクシア王妃様の名前を出さないためね。
これは、誰かがごまかさなくちゃいけないと思ったら、先にフィーガスの方が動いていた。
「なんだよなんだよ! 嬢ちゃんがいつも以上にべっぴんになってるからって、そんなに感動したのか?」
「……る、さい」
「素直に褒めてやれよ。こう言う場合」
わざと、チーちゃんに奴の顔を見せないように背中に一発かまして腰を折らせて。
チーちゃん以外は少しほっとしたが、まだオロオロしてる彼女にはマブダチのあたしがフォローしに行こう。
「チーちゃん、昨日以上に綺麗で可愛いわよん。メイミーも気合入れたのね?」
「あ、ありがと。綺麗にはしてもらえたけど、そんなに凄いかなぁ?」
「ええ。ロティちゃんは影に?」
「うん。式の時だけはだけど」
あたしと話してても、まだカイルの方が気になってるのかチラチラ視線を動かしている。
そりゃあ、好きな相手には褒めてもらいたいものだもの。女の子だし。
けど、行かせようにも、執事の一人がシュラを連れて入ってきたのでおしゃべりはここまでと思いきや。
「チャロナ〜チャロナ〜! すっごくすっごく綺麗で可愛いんだぞ! お兄ちゃんギュってしてもいいかい?」
「あんた、婚約者いるんだからダメでしょ!」
「えー」
兄なのは本当だけど、打ち明けてもいないのに本音丸出しにするものこの阿呆は!
とりあえず、無理矢理引き剥がしている間にまたノックの音が聞こえてきた。
「使者の方々をお連れしました」
さっきとは別の執事が声を掛けてきたので、全員配置につくことにした。
あたしとカイルがチーちゃんを挟む形で安心させるつもりだったが、それでもチーちゃんからは緊張感がビシビシと伝わってくる。
転生した存在でも、王女と知らないチーちゃん自身はただの孤児だと思ってる。
だから、授賞されるって事実がまだ信じられないのよね?
とにかく、扉が開くのを待っていたのだが。
「失礼する」
その声に、まさかっ!と礼をする前に目配せしたら。
(なんで、国王陛下自ら出向くのよ!)
舞踏会で使うような目元を隠すだけのマスクを装着してても。
息子のシュラをふた回り近く年を食わせた声と見た目はほとんど隠せていなく。
あたしとチーちゃんだけ知らなかったのか、他の面子は普通に対応してて。
これはあとで問い詰めるしかない!と、チーちゃんに軽く肘をついてから遅れて最敬礼をした。
「お待ちしておりました」
「ご苦労。カイルキア=ディス=ローザリオン。此度は貴殿の配下の者……そちらの少女が主役となるが、まあそう固くなるな」
無茶言うわね、このおっさん!
とりあえず、中身は国王そのまんまだから、チーちゃんをちらっと見てもすぐに泣き叫ぶとかはないでいるけれど。
んでもって、シュラの家庭教師で現宰相のカイザーク爺様まで来てて、手にはここに到着してから用意したのか感謝状のケースを持っていた。
こっちに気づくと、済まなさそうに苦笑いしてるけど遅いわよ!
「…………チャロナ=マンシェリーと言ったか」
「は、はい」
「……済まないが、顔を上げてもらえないか?」
「はい」
さあ、真っ向から顔を合わせるのよ。
頼むから泣かないでね!と思っていると……。
意外にも、カイルよりはマシな反応でチーちゃんを見つめているだけだった。
(それか、感動し過ぎて言葉にも出来ない感じかしら?)
爺様以外の連中も、出来るだけ手で口を覆わないように頑張っているしね?
「…………では、早速だが。授賞式を始めさせてもらう。捕らえたのは、そちらにいるシュライゼンであるが、捕縛までの引き止めは君が手を尽くしたと聞いている。これは、我々王宮の者からのささやかな感謝の印だ」
「……も、もったいのうございます」
頑張ってチーちゃんは陛下に応対してるけど、授賞式が始まるからあたしももう口を挟めない。
ここからは、見守ることしか出来ないのだ。
明日も頑張ります!